政策を知り、それを実現するための補助金を知る――IT投資を後押しするアベノミクス目からうろこの行政サポート活用術

日本の未来の成長のために、IT投資は欠かせない――。そんな思いがアベノミクスの成長戦略には盛り込まれている。具体的な数値目標まで掲げており、政府は何が何でも実現させる意気込みだ。そのために、助成金や補助金も用意している。これを活用しない手はない。

» 2017年08月17日 11時00分 公開
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次のキーワードとして挙がる移動革命、IT・クラウド化、FinTech

 「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を見据え、最先端の自動走行技術を国内外に発信する」

 「2018年に、ドローンによる山間部等における荷物配送を実施し、2020年代には都市でも安全な荷物配送を本格化させる」

 「電子決済と連動する企業会計の IT・クラウド化を推進する」

 「ブロックチェーン技術に関して、国際的な研究機関等と連携した共同研究を推進しつつ、国際的なコンソーシアムへの金融当局の参加を検討する」

 こうしたフレーズは、IT系のニュースをまめにチェックしているユーザーなら、一度は目にしたことがあるだろう。自動走行はメルセデス・ベンツや日産、ドローンはAmazon、新しい決済環境はApple等が発する、時代をキャッチアップしたメッセージのようにも見える。先進的な民間企業は、言葉通りICT、「Information Communication Technology」への傾倒を強めており、新しいパラダイムの創設に躍起になっている。

 しかし、これらの取り組みに活路を見出そうと機会を狙っているのは、先に挙げた大手民間企業だけではない。

 実は、冒頭に挙げたメッセージは、安倍首相の肝いり政策「アベノミクス」第三の矢として掲げられている成長戦略「Society 5.0(ソサエティ5.0)」の実現を目指し、閣議決定した「未来投資戦略2017」に記載されているものだ。つまり、先進民間企業からのメッセージではなく、日本政府の経済政策における具体的な施策なのだ。

アベノミクス アベノミクスの成長戦略には、ICT活用に関わるものが多い(首相官邸Webページより)

 アベノミクスと呼ばれる経済政策に「未来投資戦略」という項目がある。2016年までは「日本最高戦略」と呼んでいた、2013年から始まってはや4年のアベノミクスのコア戦略である。2013年には「JAPAN is BACK」というキャッチコピーで国内外に安倍首相が言い立てたことを覚えている人もいるだろう。その結果が円高解消、TPP参加、金融規制緩和等に現れているわけだ。

 日本再興戦略2016年版の正式名称は「日本再興戦略2016―第4次産業革命に向けて―」とサブタイトルが付いている。概要は、名目GDP 600兆円を目指すアグレッシブな経済政策で、詳しくは内閣府発表の資料を見ていただきたいが、簡単にまとめると、「今後の生産性革命を主導する最大の鍵は、『第4次産業革命』(IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、シェアリングエコノミー等)である」と、デジタル技術の利活用が日本経済のジャンプアップに欠かせないことをうたっていた。

 2017年6月9日には、この2017年版となる「未来投資戦略2017−Society 5.0の実現に向けた改革−」も閣議決定された。ここではさらに一歩踏み込んで、「長期停滞を打破し、中長期的な成長を実現していく鍵は、近年急激に起きている第4次産業革命のイノベーションを、あらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、様々な社会課題を解決する『Society 5.0』を実現すること」こそが重要と説いている。

 こうしたデジタル技術への政府の期待は高く、冒頭のメッセージ以外にも、「2020年までに、工場等でデータを収集する企業の割合を80%に、収集したデータを具体的な経営課題の解決に結びつけている企業の割合を40%にする」「今後5年間(2022年6月まで)に、IT化に対応しながらクラウドサービス等を活用してバックオフィス業務(財務・会計領域等)を効率化する中小企業等の割合を現状の4倍程度とし、4割程度とすることを目指す」といった、具体的な目標も挙げられている。

 ここまで読んできて、「政府の方針なんて話が大きすぎる。メインの作業は、自社のWebサイトの更新なのに……」と思った人もいるかもしれないが、大きな流れを知っておくことは、今の業務にプラスになることはあってもマイナスになることはないので、ぜひ知っておいてもらいたい。

 まずはSociety 5.0の実現へ向けたさまざまな施策を見てみよう。

未来投資戦略 2017 概要 未来投資戦略 2017 概要

ちなみに全文PDFはテキスト部分が170ページ、中短期工程表が199ページもあるので、全部に目を通す必要はない。「デジタル技術を使って政府は何をしようとしているのか」という部分に興味があるなら、「2.移動サービスの高度化、「移動弱者」の解消、物流革命の実現」「3.世界に先駆けたスマートサプライチェーンの実現」「5.FinTech の推進等」「7.ロボット革命/バイオ・マテリアル革命」あたりを見ていくといいだろう。


Society 5.0の掛け声から生まれる個々の具体策

 未来投資戦略という大きな流れは、進むにつれ支流に分かれ、それぞれ具体的な新しい施策へとつながっていく。これらの新しい施策については、必ずと言っていいほど、関連資料がインターネットに掲載されている。その詳細を知りたかったら、ネット上の資料をたぐっていくのが効率が良い。

 たくさんある資料から具体策を読み解くヒントの1つが、「○○委員会」や「○○会議」といった名称だ。新しい施策が決定されると、必ずといっていいほど、このような「集まり」が生まれる。そして、これら集まりを示す固有名詞を次々に追いかけていくと、詳しい情報が見えてくる。関連する単語を片っ端から検索すれば、さらに多くの情報が得られる。

 例えば、人工知能(AI)に関する具体策について調べてみよう。

 先の「未来投資戦略2017」の中から関連する語句を探してみる。すると104ページに「人工知能技術戦略会議」といった期待できそうな単語が見つかった。早速Googleで検索してみると、「NEDO」「AIポータル」といった関連するキーワードが得られた。AIポータルを開いてみると、そのページの概要に「日本再興戦略では、IoT、ビッグデータ、人工知能による産業構造・就業構造変革の検討が主要施策の一つとして掲げられています」といった記載を発見。日本再興戦略は、未来投資戦略の前身なので、AIポータルはつまり未来投資戦略と深い関係あることが分かる。

NEDO「AIポータル」 NEDO「AIポータル」。NEDOはNew Energy and Industrial Technology Development Organizationの略。経済産業省と関連が深いエネルギーの公的研究開発マネジメント機関だ

 さらに同ページを見てみると、「公募」というセクションがある。ここから過去の公募情報を見てみると、

  • 「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野」(調査研究)に係る公募について
  • 「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」に係る公募について

といった公募があったことが分かる。

NEDO「AIポータル」 AIポータルに掲載されている公募結果の一例

 これらの公募は、採択結果も公開されている。結果を見ると、大学と企業のコンソーシアムが多く応募しており、例えばあるプロジェクトには、年間5000万円〜の資金が、4年間に渡って事業依託金として提供されていた。これはかなり大きな予算規模と言えよう。こうしたビッグプロジェクトは、そもそも実績があって、先進の取り組みが可能であることを常日頃からアピールしているコンソーシアムや団体が応募している例が多い。

九州大学 味覚・嗅覚センサ研究開発センター 採択された研究課題「?味覚センサの研究開発」を担当する、九州大学 味覚・嗅覚センサ研究開発センターのWebページ。九州大学では、1989年から「味を測る」という概念のもと、そのためのセンサー(味覚センサー)の開発を開始。その後、関連ベンチャー企業の育成、2009年には大学内に味覚・嗅覚センサ研究開発センターを設立するなど、20以上の味覚や嗅覚の研究をリードしている

 大学が中心となって行われている研究・開発は、こうした国の開発委託費を活用して進められているものも多い。これらは日頃の地道な研究へのサポートであり、基礎研究への支援と言える。このような活動こそが、日本のノーベル賞の礎と言えよう。

国が取り組む大きな潮流にも参加できる

 もっとも、先のAIやロボットの研究開発は、長年の実績、大学の研究機関との連携などが必要なので、すぐに手を挙げるにはハードルが高い。しかし、諦める必要はない。今から政策の大きな潮流に参加できる分野もあるのだ。

 2015年設立の「IoT推進コンソーシアム」は注目しておきたいコンソーシアムの1つだ。IoTはデジタル業界ではホットな分野。会長が日本インターネット生みの親とも言われる慶応の村井純氏と話題性も高く、加えて2017年2月12日時点で入会無料とあってか、設立2年ほどで2812の法人会員、140人近くの有識者会員を有する団体に成長した。

 国策にも挙がっているIoT唯一の国の団体ゆえ、コンソーシアムに参加することで、IoTに関する最新情報の入手も可能と思われる。無料で貴重な情報に触れることができるのは大きなメリットと言えよう。

IoT推進コンソーシアム IoT推進コンソーシアム

 本コンソーシアムの活動の一環を紹介しよう。IoTコンソーシアムでは、来たるべき画像ビッグデータ時代のための「ガイドブック」作成に協力した。個々人が持つカメラ、監視カメラ、車載カメラなどの画像データを、ビッグデータの一環としてどう活用すべきか、という方針を検討した。ガイドブックver.1.0は、IoT推進コンソーシアムのカメラ画像利活用SWGのWebページにて公開されている。

 本ガイドブックは2017年1月に発表されたもので、街路や店舗に設置されている各種カメラの記録をビッグデータと捉えて、その利活用のガイドライン案が提示されている。今は、保安のために必要なときだけ、検証に使われている(必要がなければ捨てられている)画像データを、街の人の流れを測る、来店者の数をカウントするといった新たな利活用における安全・安心なルールを提案するものだ。

カメラ画像利活用ガイドブックver.1.0 カメラ画像利活用ガイドブックver.1.0から抜粋。上図は防犯カメラ、店舗用カメラなど、いろいろあるカメラ設備のうち、どれがガイドラインの対象になるかを説明したもの。定義をはっきりさせることはルール作りの大切な部分だ。このへんの情報を押さえれば、カメラとビッグデータの関係が明確になり、利活用への深くかつ効率良いアイディアが生まれるはず。もしくは「監視カメラのビッグデータに対し国が利用ルールを作ろうとしてるって、知ってました?」と話題のネタにするのもアリだろう

行政の「次の一手」には要注目

 今回は初回ということで、「国策」といった大きな流れから、行政とICTの関係を見てみたが、もちろん未来投資戦略以外にも、たくさんの政策がある。通信関係は総務省から、ものづくり関係は経済産業省からが多いので、ウォッチをするならまずこのへんから始めると効率的だ。各種施策をこまめに調べるとICTを使う人にも、ICT技術を提供する人にも有益なものが多数用意されているのが分かる。中には補助金額10万円程度のコンパクトなものもある。

 この連載では、何億・何千万円から数万円まで、さまざまな予算規模の政策や行政サポートを紹介し、皆さんのビジネスに役立てていただける行政ICT情報を提供していく予定なので、ぜひ参考にしていただけたらと思う。

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