導入に前向きな銀行が、それでもためらうブロックチェーンの問題ニッチ市場の暗号通貨(後編)

ブロックチェーンや暗号通貨のサービス開発に積極的なストッコ氏が、それでも「2020年になってもブロックチェーンは主流にはならないだろう」と語る理由とは何か。

» 2017年09月20日 10時00分 公開
[Angelica MariComputer Weekly]
Computer Weekly

 前編(Computer Weekly日本語版 9月6日号掲載)では、ビットコインをはじめとする暗号通貨は依然としてニッチであり続ける理由を紹介した。後編では、ブロックチェーンの問題や今後の展望について紹介する。

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ブロックチェーン革命の進展

 金融サービスでは、ブロックチェーン革命が既に始まっている。より高速で経済的な金融サービスの構築が可能となり、送金ネットワーク「SWIFT」のような、時代遅れのシステムの代わりになると金融業界は気付いている。

 その証拠がR3コンソーシアムだ。同団体は、世界各地の70を超える機関で構成され、部門全体にまたがるブロックチェーンの研究と開発を目的とする。

 ブロックチェーン利用の可能性として、テクノロジートランスファー企業Crossword Cybersecurityは最近、ウォーリック大学と共同で、ブロックチェーン取引の特に「スマートコントラクト」の側面に注目した研究を行った。スマートコントラクトとは、契約の交渉や履行の補助、確認、実施を行うコンピュータプロトコルを指す。

 この研究により、興味深い可能性が幾つか明らかになっている。例えば、特定の暗号通貨を定義済みの目的にしか使えないようにする機能を備えた難民キャンプ型シナリオなどの「経済の縮小灯」という考え方。モノのインターネット(IoT)環境でのマイクロサービスへの交渉と支払い。そしてデジタル資産の所有権保護と譲渡のための幅広いメカニズムまで、多岐にわたる用途が特定された。

 全てが前途有望に見えるが、ブロックチェーンをさまざまな角度から見ると、良いことばかりというわけではない。導入に当たって複数の障害があり、セクター機関におけるテクノロジーの進化を妨げている。

業界の視点

 ブラジルに拠点を置く銀行Banco Originalのイノベーションおよび戦略部門を率いるグガ・ストッコ氏によると、ブロックチェーンへの取り組みと、ブロックチェーンで何を提供できるかについての国際銀行コミュニティーの理解はここ2年間で大幅に進展したという。

 「銀行は、ブロックチェーンとデジタル通貨は非常に有益であり、例えばビットコインはそれほど有害なものではないと理解し始めている。同時に、暗号通貨の作成やスマートコントラクト機能の追加など、より良い選択肢があることも理解している。そのため、デジタル通貨はさらに強力なツールとなるだろう」(ストッコ氏)

 Banco Originalは2011年に純粋なデジタル銀行としてスタートした。だが、従来の銀行組織よりも時代を先取りする機関であっても、新しいテクノロジーの採用に関しては、依然として従来の概念が踏襲されている。

 「全ての銀行は新興技術に対して保守的だ。ブロックチェーンは新し過ぎて、大規模な導入の準備ができていない。だが、当銀行は着実に準備を進めている。例えば、当銀行は近い将来ブロックチェーンを活用できるように、多くのプロジェクトを開発している」とストッコ氏は補足した。

 「だが、このようなプロジェクトの1つ1つに、明確な目的が必要だ。当銀行は、例えば独自の通貨を開発してビットコインベースのサービスに統合することはできない。それでは、ニッチ市場におけるさらに小規模なサービスになるだろう」

 ストッコ氏は、暗号通貨およびブロックチェーンの分野で利用できる機会の証明として銀行の注目を集めている戦略の例を引用し、初期の通貨サービス(ICO、暗号通貨クラウドセール)の出現が取引ネットワーク「Ripple」とビットコインのデビットカード「Xapo」を分散化したと話す。Banco Originalもすぐに、ブロックチェーンに基づいた何らかの画期的なサービスでこの分野に加わるだろう。

 「当銀行はこの分野に絶えず注目しており、サービスの開始に近づいている。テクノロジーや市場の要素に関して成熟期を経て、この2つの要素をうまく両立する必要がある」(ストッコ氏)

 同氏は顧客向けサービスだけでなく、主要銀行アプリケーションの複雑さとコストの削減にブロックチェーンを活用できる可能性があると指摘する。

 Accentureと業務ベンチマーク企業McLaganが2017年7月に発表した世界的調査によると、投資銀行はブロックチェーンによってコストを削減し、経営管理部門と事務管理部門で30%以上、年間80億〜120億ドルを削減している。

 「基盤となるシステムは複雑で、包括的なレガシーの上に構築されている。そのため、主要銀行業務でブロックチェーンを活用することでメリットが生まれる可能性がある。ここで、ブロックチェーンに関して問題になるのは、まだ登場したばかりのテクノロジーであることだけでなく、データが公開されるという事実だ」とストッコ氏は言う。

今後の予測

 世界有数のオンライン専門銀行Eggの元CIO(最高情報責任者)で、現在Crossword CybersecurityでCEOを務めるトム・イルブ氏にとって、世界の金融サービス業界におけるブロックチェーンの導入は、依然としてタイミングが問題になるという。

 イルブ氏によると、既存の金融機関は新しいテクノロジーの導入に極めて慎重になる傾向があり、物事の仕組み上10年でも長いとはいえない。

 「チャレンジャーは、ブロックチェーンテクノロジーをより素早く導入する可能性が高いと予測する。スケーラビリティやプライバシーなど、対処すべき技術的課題は幾つかあるが、さまざまな専門家がこうした課題に取り組んでいる」

 「ブロックチェーンは、合意に基づく意思決定の詳細な明示と考えるのが適切だろう。そのため、特定のアプリケーションにおいて実際に出現するソリューションは、人々が現在慣れ親しんでいるブロックチェーンとは同じものではない可能性がある」と同氏は付け加える。

 プライバシーは、さまざまなブロックチェーンアプリケーションにとって重要な課題である。つまり、ブロックチェーン取引は本質的にプライベートなものではない。機関が完全にブロックチェーンテクノロジーを「信頼」できるようになるまでの時間という観点から、プライバシー問題はテクノロジー導入を妨げるもう1つの要因になる。

 「アプリケーションにとってプライバシーが重要であれは、新たな技術ソリューションを整備する必要がある。プライバシーに関しては取り組むべきことが数多くある」(イルブ氏)

 Banco Originalのストッコ氏によると、2016年はブロックチェーンと暗号通貨の分野において新興企業が非常に多くの実験を行い、多くの試行を重ね、時には失敗しながら新しいサービスを提供し、多くの金融機関も新しいことに着手してきた。

 2017年は、失敗が解決され、製品やサービスは市場のニーズと現実に沿ったものに近づいていくだろうと同氏は言う。

 「2018年になっても、より魅力的で適切なサービスが次々と提供されることはないだろう。2020年になってもブロックチェーンは主流にはならないだろう。だが、ものごとは確実かつ急速に進んでいる」(ストッコ氏)

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