“シャドーITを生まない”コーセーの「頼られ情シス」はどうやって実現したのか(2/3 ページ)

» 2018年07月20日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

研究員からのジョブチェンジと20代での子育てがその後の礎に

Photo 1946年に小林合名会社として創業し、化粧品の販売を開始。コーセーのサイトでは、これまでの商品を振り返る企画を展開中だ

 学生時代は化学を専攻し、「実験が好きで研究員になった」という小椋さん。しかし入社2年目には、百貨店向けの新ブランドを立ち上げるプロジェクトに異動。商品の企画からオープン時の店頭スタッフまで、化粧品販売に関わる一通りの仕事を経験した。

 入社前には予想もしていなかったことだが、会社を知る上でも、自分の興味関心や向き不向きを知る上でも、非常に良い経験だったと振り返る。

 そのプロジェクトが終わると、今度は研究所内のIT部門に異動した。再び未経験の仕事を学ぶことになったわけだが、そこで情報システムの面白さに気付いたそうだ。

 「研究所のシステム開発を通じて大いに実感したのは、システムで業務改革を促すことができるということです。便利なシステムができて皆がそれを使い始めると、システムの流れに沿って仕事の仕方が大きく変わるんです」(小椋さん)

 その当時にもう一つ学んだのが、「自分で仕事を作る」ということ。小椋さんは20代後半で出産し、当時は育児休暇制度がなかったことから早期に復職した。しかし、子供が病気がちで休むことが多く、重要度の高い仕事やスケジュールがタイトな仕事はなかなか任せてもらえない。そんな中で小椋さんが目を付けたのは、「緊急度は低いが重要な仕事」だった。

 「例えば、データベースの構造を変えてパフォーマンスを上げたり、化粧品の開発スケジュールを管理する仕組みを作ったりしました。

 新しい化粧品の開発は、そのほとんどが10カ月以上かかり、途中のフェーズで遅れが出ると、どんどん後の工程に影響が出てしまいます。フェーズごとに進捗(しんちょく)をチェックし、遅れが出た場合にアラートを出す仕組みがあれば、業務の効率化につながります。でも、それまで人力でなんとかなっていたことと、他のメンバーが化粧品のレシピを入力・管理するメインのシステムを作るのに忙殺されていたことから、誰も手を付けていなかったんですね。

 実はこのようなバックヤードの仕組みは、自動化すると目に見えて効果が上がるんですね。私がそういう仕事を拾って取り組むことでチームの生産性が上がり、自分自身のスキルアップにもつながりました」

「情シスが業務を理解することの重要性」を根付かせた10年

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 その後、本社のIT部門に異動した小椋さんは、システム担当者とユーザーとの距離感に危機感を覚えたという。

 「研究所にいたときは、私を含むIT担当のメンバー全員が研究員としての業務を経験していたので、皆が業務プロセスを理解していたんです。だからシステムを開発するときも話が早く、『こういうシステムにすればよい』と自信を持って進められました。

 ところが全社のIT部門に行ってみると、物流がどんな作業をしているのか、生産の現場でどのようなデータが求められているのか――といったことが分からないんです。業務を知らず、問題点が分からなければ、適切な解決方法も分かりません。そんな状態でシステムを開発するのは、リスクが大きいと感じました」(小椋さん)

 情シスが業務を理解することの重要性を説き、現場からのリクエスト通りにシステムを作るのではなく、その背景にある課題を深く探ろうとする小椋さんのやり方に、最初は周囲の人たちも戸惑ったようだ。

 「最初は課長として、本社のIT部門に異動したんです。そのときに私のポリシーを熱く語ったんですけど、ものすごく反応が鈍いんですよ……。どうしたものかと思いましたが、仕方がないので無理やりメンバーを連れて、私が先頭を切って動いてみせる、ということを何度もやりました。メンバーからは『今回の案件はどこまで突っ込みますか?』と聞かれたりして、切り込み隊長のように見られていましたね(笑)」

 異動してから10年、メンバーの行動が変わったと実感できたのはこの1年ほどのことだという。「風土改革には時間がかかりますね」と実感を込めて振り返る小椋さんがこれから実現を目指すのは、「全員がシステムを内製できるエッジの利いた技術者集団にすること」「社内におけるIT部門のプレゼンスを上げること」の2点だ。

 メンバーのスキル強化のためには予算を惜しまず、また、「教育強化」「標準化」「事故低減」といったテーマでチーム横断の委員会を組織し、ノウハウの共有を行っている。そして、社内のIT部門の価値を理解してもらうことで、メンバーのモチベーションを上げていきたいと話す。

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