“シャドーITを生まない”コーセーの「頼られ情シス」はどうやって実現したのか(1/3 ページ)

「IT部門にとって一番重要なのは、無駄なシステムを作らないこと」――。はびこるシャドーITを巻き取り、一貫性のあるシステムを構築するまでにはどんな苦労があったのか。化粧品大手コーセーの情報統括部長 、小椋敦子さんに聞いた。

» 2018年07月20日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

 「IT部門にとって一番重要なのは、無駄なシステムを作らないこと」――。そう言い切るのは、化粧品大手コーセーの情報統括部で部長を務める小椋敦子さん。グループ全体で7700人超の従業員を抱え、12の国と地域で事業を展開する同社において効果的なITガバナンスを確立すべく、10年かけて情報システムの体制を整えてきた立役者だ。

 研究員として入社し、2年目に百貨店向け化粧品の新ブランドを立ち上げるプロジェクトに異動。その後、研究所内のIT部門、本社のIT部門というキャリアを歩んできた小椋さんの、組織変革や情報システムに関する考え方は、どのような経験から培われたものなのか。日本では珍しい女性情報統括部長として活躍する小椋さんに聞いた。

Photo コーセーの情報統括部で部長を務める小椋敦子さん

現場の“勝手IT”をIT部門が全て引き取り、全体最適へ

 非IT部門でも手を出しやすいクラウドサービスが増え、あらゆる事業でIT活用が不可欠になってきたことから、昨今では情報システム部門が関知しないところで勝手に情報システムを導入する「シャドーIT」が増加の一途をたどっている。それを「時代の流れ」「仕方のないこと」と考える向きもあるが、小椋さんは「絶対にやってはいけないこと」だと言い切る。

 コーセーでも、過去には現場の判断で導入され、IT部門の管理下にないシステムが存在したという。しかし、それらを一掃するために、情報統括部が保守や運用のコストも含めていったん引き取り、全社のポリシーに合う形に統合する作業をコツコツと進めてきた。

 その結果、「この10年程は“勝手IT”は生まれていない」と小椋さんは胸を張る。あらゆるシステムをIT部門の管理下に置くことで、データの有効活用や経営上の必要に応じたシステム構成など、全体最適が実現できるようになったそうだ。

 また、かつては「マーケティング部門の領域」としてIT部門からは距離があったEC事業のシステムにも積極的に関わるなど、業務の範囲も広げてきた。

 「情報セキュリティを保つためにも、バックエンドの統合基盤とスムーズにつなげるためにも、IT部門が関わる必要がありますから、『われわれが基盤構築や連携を担当します』と宣言しました。例えばスマートフォンのアプリを開発するとなったら、ユーザーインタフェースのデザインはアプリの開発会社さんにお任せしますが、セキュリティを考慮したサーバ構成やデータ連携の部分には、われわれがかなり入り込んで構築しています」(小椋さん)

業務の理解と手厚いサポートで「相談したくなるIT部門」に

 企業にシャドーITがはびこる背景には、情報システム部門に頼んでも話が進まず、現場で勝手にシステムを選んで進めた方が「安く、早く、使いやすい」といった実情がある。

 こうした状況について小椋さんは、「われわれはコストに厳しいので、IT部門が関与した方が絶対に安くなる」と請け合う。システムの要件を整理してRFP(ベンダーへの提案依頼書)を作成するところから、各ベンダーの見積もりを確認して発注先を決めるところまで、IT部門が厳格かつ手厚くサポートしているからだ。

 ただ、導入のスピード感については課題があるという。

 「関わる業務の範囲が広がっている分、人手が足りていないところがあり、一つ一つの案件の進行が遅いと指摘されることはあります。そこは、メンバーのスキルを高めてスピードアップしなければいけないところです」(小椋さん)

 システムの使いやすさに関しても課題はあるが、重要なシステムは内製しているため、ユーザーの声を聞いて随時改善していけるのが利点だという。

 例えば、製造業のシステムの要であるマスター管理システムを刷新した時、最初は「使いづらい」とあちこちから非難されたが、機能追加を重ね、ユーザーが手作業でやっていた仕事の自動化を進めた結果、今では改善が進んで「使いやすい」と言ってもらえるようになった。

 「今では『こういう機能が欲しい』というリクエストも届くようになりました」(小椋さん)

 リクエストにも、ただ応えるのではなく、「IT部門が最高のコンサルになり、真の課題解決につながるシステムを提供する」というのが小椋さんのポリシーだ。

 「部門から『こんな業務をシステム化したい』という要望があったときには、なぜそういったニーズが出てくるのか、今、どんな業務をしていて何に困っているのかを現場に出向いて深掘りしていきます。掘り下げていくと、『こちらの問題を解消すれば、依頼のあったシステムを作る必要がなくなる』というケースもあるんです」(小椋さん)

 これが冒頭の「無駄なシステムを作らない」という話につながる。こうした業務理解の積み重ねがIT部門への信頼へとつながり、シャドーITを生まない状況を作っているのだ。

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