メイと大武が、海岸からあがってきた。
それを見た大山は、用意してあった魚をさばくための出刃包丁を黙って片付けた。
潤とつたえ、虎舞もビーチからあがってきた。
志路、見極、折衷、宣託が一斉に虎舞を見つめる。みな、優しい顔をしている。
山賀がすすすっと虎舞に近寄って耳元で言う。
「おじゃまむし」
虎舞が言う。
「ちゃうちゃう、ちゃうで。皆勘違いしとる。俺かてそんなことくらい分かるわ。2人を追っかけたんはな……この前、潤が独りで謝っとった時、後ろのつたえを見て不思議な感じがしたんや。せやから俺は、『潤、おまえ、何か隠してへんか』って聞きに行った訳や。けど潤は『あれは俺の独断でやった』の一点張りや。そこから先はあえて聞かへんかった。『まぁ、あまり気にすんな』とだけ言うて、それからは2人と別れて砂浜のおねえちゃん観察しとったわ。ホンマや」
山賀はそうなんだろうなと思って、虎舞に対して微笑んだ。
「それより、もう腹ぺこや、食べよか」
虎舞の一言で肉の祭りが始まった。
バーベキューの食材はほぼ無くなった。
腹も気持ちも満たされたらしく、リラックスした雰囲気に包まれている。
男たちはまた、酒を飲み出した。
メイはまだ自分がビーチに出ていないことに気づいた。
「つたえ、せっかくだから、一緒にビーチいこう」
「はい、メイ様」
「ちょっと着替えてくるね」
メイは更衣室に入って、しばらくしてから出て来た。
ブルーのビキニにつつまれた肌が傾きかけた日差しを反射する。
2人はビーチに向かって降りていった。
「撤収!」
大河内の号令で後片付けが始まった。
皆手際がよく、あっというまに片付いた。
タクシーが来た。
来た時とは少し組み合わせが違っていた。
1号車「見極、虎舞、潤、つたえ」
2号車「志路、宣託、メイ、深淵」
3号車「山賀、大山、折衷」
「あれ、大河内さんは乗らないんですか?」
メイが尋ねる。
「俺っちのウチ、この近くだから歩いて帰る。それと山賀ちゃん。次とその次のイベント、秋と冬。さっきサーフ・マツカータのオーナーと決めてきたから、あとはよろしく」
――やっぱり。そんなことだろうと思った。まったくせっかちで困るわ。そう思いながらも言った。
「任せといて」
タクシーは駅に向かう。適度に揺れる車内が眠気を誘う。
後部座席シート真ん中に座ったメイのほてった足が大武に触れる。
目をつぶっている大武の赤い顔は、釣りで日焼けしたせいだけではないのだろう。
強かった日差しが柔らかくなり、夕日を吸い取った海面がきらきらとオレンジ色に光っている。
【第6話 完:第7話(前編)に続く】
イラスト:にしかわたく
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