連載
» 2003年06月21日 12時00分 UPDATE

次世代ソリューションPLMとは(3):適応力を支えるPLMシステムの導入効果──ライフタイム管理の必要性

連載第1回では「なぜPLMが注目されているのか?」、第2回ではPLMシステムを構築するための基本的な考え方としての「アダプティブ・マネジメント」について解説した。今回は、PLMが具体的にどのように利用されているのか、その導入効果について紹介していく

[久次 昌彦,@IT]

PLMは“大福帳型データベース”

 ここまでの説明で、「PLMとは、とても広くて複雑なシステムなのではないかな?」と感想を持たれた方もおられるかもしれません。

 これまではPLMの考え方を正確に伝えたいため、さまざまな話をしましたが、PLMのコンセプトは至って簡単です。一言でいうと「PLMはエンジニアリング分野における大福帳型データベース」です。

ALT 図1 大福帳型の統合データベース
大福帳型データベースと呼ばれる中央のデータベースを介して企業活動全般を統合管理。1つの情報入力は1回のみ行われ、入力された情報は加工なしの生データとしてどの業務からでも参照可能(出所:SAPジャパン)

 “大福帳型データベース”という言葉を、どこかで聞いたことはありませんか?これはERPが世の中に出始めたころ、よく使われたERPシステムの表現です。

 ERPが出てくる一昔前、各企業におけるシステム化の対象は製造システム、販売システム、財務システムと俗に製・販・財システムといわれたシステムを個々に作成していました。

 これら個別システムは、その次のステップとしてお互いを連携してリアルタイムに情報を融合する必要が出てきました。そういった時代背景の下に出てきたのがERPで、ERPの登場により工場が可視化され効率的なリソースの運用管理が可能になりました。

 PLMはこれをエンジニアリングの世界で実現したものです。

 よく設計開発の工程はマネジメント層から見ると“ブラックボックス”になっており、アンタッチャブルな聖域だといわれています。

 もちろん製品開発はクリエイティブな世界なので、それをそのままシステム化することはできませんが、マネジメントはこの世界にも必要です。

 エンジニアリングの領域においてもCADPDM、特許システム、監査システム、プロジェクトシステム、原価積み上げシステムなどさまざまなシステムを構築して、より良い製品開発を実現するための情報を提供するシステムを構築してきました。これが、ERPのときと同様にお互いのシステム間を連携する必要性が生まれ、かつできるだけ早く情報を提供する必要が生まれたためにPLMという形のシステムが現在必要となっているゆえんです。

 PLMにより聖域化されこれまでアンタッチャブルであったエンジニアリングのマネジメントをある程度コントローラブルにし、より競争力のある製品を市場に提供しようという試みが、現在行われています。

事例に見るPLM

 次に、こういった試みが具体的にはどういった施策でなされているかを紹介したいと思います。

ディスクリート産業における事例

<設計のフロントローディングの実現と生産との連携>

 品質を維持しながらTime To Marketを短縮させるためには、設計部署や生産技術部門における部員のスキルはもとより、各技術者間で正確に一貫した情報を提供できるようなITインフラが必要です。

 このITインフラに流す情報として、製品構成と図面および設計変更が考えられます。

 これらの情報は従来、設計/設計管理/生産技術/生産管理はもとより、安全規格/原価管理/購買など、さまざまな部署で利用され、かつ各部署で最適化されるためにさまざまな形に加工されています。しかし、このようにいくつもの形態に加工されている情報も、最終的には1つの製品に対する命令のため、複数の場所や形に分かれるべきではありません。

 ある企業の例では、従来は設計部品表生産部品表の区別なく部品表を運用していたのですが、システム化の際に設計部署ではPDM、生産部署にはERPを導入したことにより、それぞれのシステムに合った部品表を作ることになりました。これにより、設計?生産間の情報がお互いの最小公倍数の分しか連携されなくなり、本来ITインフラにより風通しが良くなるはずの情報の流れが以前より限られたものしか渡らなくなりました。

 そこで、この企業ではこの問題を解消するために、ITインフラのプラットフォームを同一のシステムで再構築することにしました。

 この仕組みでは、それぞれの部署が必要とする部品表情報はビューにより切り替えて参照することが可能になり、設計部署も生産部署も同じ一元管理されている情報を、各部署のニーズに応じた構成で確認できるようになり、首尾一貫して最新の情報にアクセスできるようになりました。

 これにより各技術者は必要な情報をリアルタイムに把握することができるとともに、設計の間違いや手戻りを最小限にできたため、品質の維持とTime

To Marketの短縮を実現できました。

 また、当初予想していなかったことですが、設計部品表や生産部品表が同じシステムから簡単に参照できるため、設計の早い段階から生産部署のアドバイスを設計部品表に反映できるようになり、設計のフロントローディングを実現することができました。

アパレル産業における事例

<短ライフサイクル製品の出荷・廃棄管理>

 PLMはアパレル産業においても適用されています。

 あるシューズメーカーでは年間3回のモデルチェンジを行っており、毎回数十から3けたに上るパターンをバージョン管理する必要があります。

 また、ライフサイクルが短いため、適切なマーケット・インとアウトのタイミングをコントロールしなければなりません。

 この企業ではこれらのバージョン管理をハイテク製品と同じようにPLMで管理するだけでなく、設計の進ちょくを共有するプロジェクト管理のシステムと製品ライフサイクル・コストを把握し、これらの日程と金額の数値情報を分析することにより、適切な製品リリースと廃棄のコントロールを実現できました。

石油・化学やサービス(電気・ガス)産業における事例

<保全業務におけるROI最適化>

 石油・化学産業や電気・ガスを提供するサービス産業では、製品に当たる石油や電気などはそれ自身、頻繁に製品仕様が変わるわけではありません。しかし、これらの製品を顧客に提供するためには膨大な設備の投資が必要で、これらの維持管理にかかわる保全業務は、製品ライフサイクルにおける維持コストとしてとらえた場合、非常に大きな割合を占めることになります。

 しかし、ひとたびこれらプラントや精製工場に不具合を来すとその損害は甚大なものになるため、できるだけ故障や停止をしないように神経を使いながら保全管理されています。

 従来、このような保全作業は保全業務としてのコストでしか把握されていないため、どの程度までメンテナンスを実施すべきかという指針が明確ではありませんでした。また、このような指針は企業ポリシーに依存する大きなイシュー(Issue:問題)です。

 そこで、ある企業ではプロダクト・ライフサイクルにわたるROIを分析するため、製品ライフサイクルにおける工場の生産量とコストを管理できる仕組みを共通のITインフラで構築し、工場別の生産効率を把握できるようにしてベンチマーキングを実施しました。

 その結果、プロダクトが生産されて廃棄されるまでのライフサイクルのスパンで見た場合、メンテナンス間隔は長いが、ライフサイクル中に数回大きな故障が発生した工場と、一度も大きな故障は発生しなかったが3カ月に一度メンテナンスを実施した工場では、故障を起こした工場の方がROIが良いことが確認できました。

 このように保全・メンテナンスのポリシーも企業の置かれている内部・外部要因に依存しながら“アダプティブ”に適宜修正を加える必要がありますが、いままでは保全履歴を分析して統計やコストで客観的に分析する術がありませんでした。

 mySAP PLMではこのような保全履歴にアクティビティや部品原価を関連付けることができるため、企業が客観的な判断の下にポリシーを修正することが可能となります。

 上記企業ではこの結果を受け、保全間隔を最適化した結果、保全コストを削減でき、製品ライフサイクルにおけるROIを改善することができました。

医薬産業における事例

<研究開発テーマ別の投資管理による製品ライフサイクル・コストの最適化>

 顧客のニーズが多様でかつ、製品ライフサイクルが短期化している今日においては、製品ライフサイクルにおける研究開発に掛かるコストの割合は非常に大きなものとなっています。

 医薬品など非常に長期間にわたる研究開発では、コストを把握するためには膨大な工数を必要とします。また研究者に日々の進ちょくを正確に報告させることが難しいため、報告結果を集計しても正確ではありませんでした。

 しかし、競争がグローバル化し、世界中の巨大な企業がマーケットに参加してくると、資本に物をいわせた“収穫逓増”のモデルでもってマーケットを席巻される恐れが出てきました。そこである企業では、事業戦略やR&D領域を判断するための自社能力や市場環境に関する数値情報・文書情報などあらゆる情報を一元管理し分析できるITインフラを構築することにしました。

 不確実な要素の多いR&D投資において、さまざまな影響を考慮したシミュレーションモデルを活用し、全社最適な投資計画の作成、修正を実施したり、戦略マップやバランスト・スコアカードにより、R&D投資の効果が最終的な財務数値に表れるより前に判断し、適時に対応策を取ることを可能にしました。

 また、中長期の戦略に沿った予算配布を各研究テーマ別に構築し、日々の工数を自分が実施している研究テーマごとに報告することにより、工数×コストレートを積算して、研究テーマごとのコストとして年度を越えて積算し分析することが可能な仕組みも用意しました。

 この結果、事業戦略のモニタリングが容易になるとともに、研究テーマ別の投資コストが把握できるようになり、研究の続行や製品廃棄の時期の判断を容易にすることが可能になりました。

プロダクト・ライフサイクル・マネジメントの重要性

 PLMはアダプティブ・マネジメントを実現するための1つのツールでしかありません。

 しかし、アダプティブ・マネジメントというグランドデザインをもってシステム化を進めるのと、そうでないのとでは将来大きな差が生じます。

ALT 図2 アダプティブ・マネジメント・フレームワーク (出所:SAPジャパン)

 プロダクトライフサイクルでは発生から廃棄までの時間軸の視点と、製品にかかわる設計開発情報、サービス保全情報、品質管理情報および環境にかかわる情報に加え、日々の活動のステータスを管理するためのスケジュール管理やそれぞれの製品データを会計情報と関連付けることによる数値・金銭的な管理が必要です。

 また、製品にかかわる環境に関する情報を、ライフサイクルにわたって管理するニーズが今後ますます重要になってきます。

 これらの情報をリアルタイムで分析し、市場環境から発信されるノイズとチャンスを適切に判断し、「市場環境に順応した(Adaptive)」「企業・製品戦略(Management)」を実現し企業活動のエネルギーを効率的に成長につないでいく必要があると考えます。

(了)

著者紹介

▼著者名 久次 昌彦(ひさつぐ まさひこ)

SAPジャパン株式会社 プロフェッショナルサービス事業部 PLMコンサルティング部 部長

1990年代初頭よりPDMのシステム構築に従事し、システム構築と同時に設計分野におけるコンサルティングを実施。主に自動車、ハイテク、重工といった製造業における設計情報管理のコンサルティングおよびシステムを構築。2001年よりPLMの領域に活動を広げ、SAPにおける複数のPLMプロジェクトにてコンサルタントとして活躍

e-mail:masahiko.hisatsugu@sap.com


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