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» 2003年12月13日 12時00分 UPDATE

ビジネスモデリング事始(1):業務課題の“本質”を見きわめるテクニック (1/2)

われわれは日々の業務の中でさまざまな問題に遭遇する。それらの問題を一定の形式で表現するのが「モデリング」だ。「問題の本質を抽出し、経営戦略から具体的な実行策に移す」ための手段として、モデリングがもたらすメリットは大きい。情報マネージャのために、ビジネスモデリングの意味と役割について解説していく。

[山口健, 山内亨和,オージス総研]

 「ビジネスモデル」というキーワードを聞いて、読者は何を思い浮かべるでしょうか。おそらく、多くの方は「ビジネスモデル特許」を挙げるのではないでしょうか。「ビジネスモデル特許」とは、ビジネスの手法や仕組みをコンピュータ・システムやネットワークなどの技術的手段を利用して実現した発明について取得した特許のことを指します。

 特許が取れるような革新的なビジネスに限らず、昨今のビジネスにおいては、技術的手段としてIT(Information Technology)が切っても切り離せない関係にあるのは、あえて説明の必要はないでしょう。

 それを象徴するような「ITが経営の道具になる」という言葉は、1980年代にSIS(Strategic Information System)が脚光を浴び始めたころから使われ出し、1990年代初頭のBPR(Business Process Re-engineering)、昨年辺りから着目されつつあるBPM(Business Process Management)でも、盛んに唱えられています。

 ITがビジネスに使われ出した当初は、その主たる目的が、事務作業の軽減にありました。しかし、SIS以降のシステムにおいては、企業レベルの戦略・戦術を、支援あるいは形成するための手段としての役割も求められるようになってきました。

 例えばSISでは、ITを駆使して、現在のビジネスの状況を多方面の経営指標を用いてリアルタイムに収集し、経営判断に生かすということを目的として、いわゆる情報系システムとして盛んに導入されました。BPRについては、いくつかのアプローチがありますが、「ベストプラクティス」のビジネスモデルをERP(Enterprise Resource Planning)というIT導入の切り札を用いて、トップダウンで適用していくという手法が、多くの企業で採用されました。

 しかしながら、昨今のようにビジネスやそれを取り巻く環境の変化が激しい状況では、収集するべき情報も「ベストプラクティス」であるべきビジネスモデルも、永続的な効果を期待することは難しくなってきています。当然それらをインプットとして構築される情報システムにおいても、企業経営に十分なメリットをもたらすことが難しくなってきています。

 これらの状況を踏まえ、BPMでは、常にビジネスプロセスを監視し、その結果を分析し、必要によってビジネス(プロセス)モデルを改善していくという考えに基づいています。当然これを実現するITにおいても、これらのサイクルを回すための仕組みが必要になってきます。

 しかし、これらの仕組み以前に大切なものが、監視・改善されていかなければならないビジネスモデル自体であり、それを構築する作業「ビジネスモデリング」です。

 そもそもビジネスモデルとは何なのでしょうか。

「モデリング」とは、「モデル」とは

 私たちは普段、生活し、働く中でさまざまな問題に遭遇します。単純な問題については少し考えれば解決策を思い付くでしょう。しかし、複雑な問題についてはそうもいきません。複雑な問題は問題の本質とそれ以外のノイズで構成されています。このような複雑な問題を解決するためには、問題を整理してノイズを排除し、問題の本質を理解しなければなりません。例えば、企業の財務状況を理解する場合には、金以外の企業の要素(ノイズ)を排除し、貸借対照表や損益計算書を作成します。モデリングとは、企業の財務状況を貸借対照表や損益計算書で表現するように、問題を特定の形式で表現することです。そして、問題を特定の形式で表現したものがモデルです。良いモデルとはノイズが取り除かれた問題の本質のみを表現しているものです。

ALT 図1 モデリングの意味と役割  ※ 出所:オージス総研

 モデリングとモデルは、問題の理解だけではなく、解決策の評価にも有効です。モデルとして表現された問題は、問題に関する明解な情報を備えています。問題の理解の場合にはこの情報を基に「何がまずいのか」を判断するわけですが、同じように解決策をモデルとして表現することで、「まずいところがなくなったか」を評価できるわけです。

ビジネスモデリングの3つのレベル

 多くの人がなじみ深いモデリング手法に、表や円グラフがあります。表は問題を2次元で整理するためのモデリング手法です。円グラフは全体の中での各部分の割合を整理するためのモデリング手法です。

 このように、一言でモデリングといってもさまざまな手法があり、モデリングの対象となる問題によってモデリング手法を使い分けなければなりません。モデリング手法を使い分ける判断基準は「どのような視点から問題を整理したいか」ということです。2次元の情報が重要なら表を、全体と部分の割合が重要なら円グラフを使うべきなのです。

 ビジネスモデリングにも同じことがいえます。ビジネスはさまざまな要因によって構成されているため、どの要因の視点を重要視するかによって、モデリング手法を選択しなければなりません。

コンセプトレベル

 ビジネスモデリングの最上位のレベルに「コンセプトレベル」があります。コンセプトレベルのビジネスモデリング手法の代表例として、「バランスト・スコア・カード」が挙げられます。バランスト・スコア・カードは、財務の視点、顧客の視点、ビジネスプロセスの視点、学習と成長の視点という4つの異なる視点からビジネスの目標をモデリングします。

 バランスト・スコア・カードのようなコンセプトレベルのビジネスモデリング手法は、経験やヒラメキといった工学では対応できないスキルに強く依存します。しかし、財務の視点やビジネスプロセスの視点のモデリングに限っては数学的、論理的なアプローチが有効です。

 財務の視点のモデリングには、貸借対照表やキャッシュフローなどのすでに確立されている手法を使うのが適切でしょう。しかし、これから重要視されるのはビジネスと直結するビジネスプロセスの視点のモデリングです。

ビジネスプロセスレベル

 コンセプトレベルに続く、次のレベルがビジネスプロセスレベルのモデリングです。これを一般的に「ビジネスプロセスモデリング」と呼びます。ビジネスプロセスとは「顧客に対して価値のある結果を提供する一連の作業」です。ビジネスプロセスがビジネスの分野に登場するまでは、財務的な視点か、組織の視点か、つながりのない個々の作業の視点でビジネスを検討し評価していました。これらの視点は部分最適解を求めるには有効ではありましたが、全体最適解を求めるには向いていません。ビジネスプロセスの登場によって「顧客への価値」と「一連の作業の品質」という全体最適の視点が重視されるようになりました。

 ビジネスプロセスにはいくつかの特徴があります。

  1. 特定の入力があります。
  2. 特定の出力があります。
  3. ビジネスプロセスには達成しなければならない目標があります。
  4. ビジネスプロセスには複数の順序付けられた作業で構成されます。
  5. ビジネスプロセスを実行する過程でさまざまな資源が使用され、消費され、生産されます。
  6. ビジネスプロセスは組織横断的なものです。
  7. 人、機械、情報システムがビジネスプロセスを実行します。


 下の図にこれらのビジネスプロセスの特徴を示しました。この図はビジネスモデリング手法の1つの「Eriksson-Penkerによるビジネスモデリング向けUML拡張」で記述されています。UMLは、オブジェクト指向によるソフトウェア開発で用いる国際標準のモデル表記法です。

ALT 図2 オーダーメードカーテンの販売プロセス例(クリックするで拡大)※ 出所:オージス総研

 このような特徴から分かるように、ビジネスプロセスを定義するためには、目標、作業、資源、組織、人、機械、情報システムといったさまざまな要素を考慮しなければなりません。それゆえに、全体最適の視点が重視されるわけです。

情報システムレベル

 ビジネスモデリングの最下位のレベルが、情報システムレベルのモデリングです。情報システムのモデリングは、ビジネスプロセスのモデルから、情報システムがどのようにビジネスプロセスをサポートするのか定義します。情報システムのモデリング手法の代表的なものにUMLがあります。

 このように、コンセプトレベルから情報システムレベルまで、一貫してモデリングすることで、ビジネスの問題を解決する情報システムを企画し、導入することが可能となります。

ビジネスモデリング成功の3つのファクター

 実際に、効果的にビジネスモデリングを行うためには、ビジネスモデリングの次の要素を押さえておかなければなりません。

  • モデリングのプロセス
  • モデルのルール
  • 参照モデル

モデリングのプロセス

 モデリングは人が行う作業です。モデリングをするに当たって、どのような手順で作業するか決められていないよりも、決められている方が作業もスムーズに進み、出来上がるモデルの品質も高くなります。そのため、モデリングの作業手順、つまりモデリングプロセスがあらかじめ定義されていることが重要になります。

モデルのルール

 出来上がったモデルは意味的に正しく、理解が容易なものでなければなりません。そのため、モデルの書き方について、明確なルールが決められている必要があります。UMLなどの図形モデルの場合にはモデル記述ルール(表記法)が存在し、ABC(Activity Based Costing)などの数式モデルの場合には計算ルールが存在します。

参照モデル

 ビジネスモデルには、頻繁に登場する標準的なモデルが存在します。財務には標準的な財務モデルが、調達には標準的な調達モデルが存在します。あらかじめ定義されている標準的なモデルを、参照モデルといいます。例えば、SAP R/3に代表される多くのERP製品には、さまざまな業種業態の参照モデルが含まれています。

このページのポイント

▼「モデリング」とは問題を特定の形式で表現すること

▼「コンセプトレベル」「ビジネスプロセスレベル」「情報システムレベル」の3つのレベルで、モデリング手法を使い分ける

▼ビジネスモデリングを成功させるには「プロセス」「ルール」「参照モデル」という3つの要素を押さえる



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