急がば回れ──質の良い仕様書の作り方企業システム戦略の基礎知識(4)(1/2 ページ)

前回は、自社の業務に必要なシステムの要件の定め方について触れた。今回はその次のフェイズ──仕様決定について考えていこう

» 2005年02月24日 12時00分 公開
[青島 弘幸,@IT]

 システムの要件が決まったら、これを具体的なシステム仕様書に落とし込んでいく必要がある。システム仕様書とは、要件を満たすための具体的なシステムの機能・性能に対する要求事項を文書化したものだ。

 ソフトウェアの場合、要件定義や仕様書の段階で発見された不備を是正するコストと、運用段階に入ってからのそれとでは、実に200倍の差があるという説がある。また、NASAの記録では、最初の20%の工程に、全体の作業時間の15%を投入することで、プロジェクトの成功確率が80%にまで高まるという。

 「早く、安く、最小の投資で最大の効果を生むシステム構築をする」には、システム仕様書の作成に手を抜いたり、他人任せにすべきでない。「急がば、回れ!」である。

質の高い仕様書とは

 要件を満足するための、必要にして十分な「質の高い仕様書」とは、要件を満足するようにコンピュータにやらせるべき「読み・書き・そろばん」が明確になったものである。決して、ITの技術的・専門的に高度な内容を「質が良い」といっているわけではない。

 具体的には、画面や帳票に対して、誰が、いつ、どこで、何を、なんのために出力させるのかを、各業務プロセスで扱う情報項目のすべてについて決定する。たった1つの重要項目が抜けていることが運用直前で発覚し、予算超過や実用開始遅れ、混乱を招くことも珍しくない。

 逆に、大して重要でもない情報を大量に出力するのは、すべてにおいてムダである。コンピュータは、あっという間に無駄なゴミ情報を大量に吐き出し、伝達してしまう。その出力情報に埋もれて、人が整理に時間を要したり、混乱したり、あるいは捨てられた中に重要な情報があったりしたのでは、ITによる競争力強化どころか、効率化さえもままならない。

 要件の実現に必要にして十分な出力情報が決まったら、次にその出力を得るための計算式(そろばん)を、同じく5W2Hに沿って決定し、さらに、その計算式に必要な入力(読み)を決定し、画面・帳票としてマッピングする。

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 画面・帳票のほかに、ファイルというものがある。これも「読み・書き・そろばん」において、出力に対して必要な情報を、どのように整理して保管しておくかを考えればよい。要は事務ファイリングと同じだ。このファイルを、コンピュータ上で、どのように実現するのかはコンピュータの専門家に任せればよい。

 システム仕様は、このように出力からさかのぼって考えるとムダが少なくなる。出力につながらない入力や計算は、ムダな投資やムダな入力作業、コンピュータ資源のムダ遣いを発生させる。

なくてはならない機能、あったらいいな機能

 システム仕様書には、要件を満足すべくシステムに対する具体的な機能や性能を決定して、明文化していくのであるが、それは、すべて真に必要、かつ十分なものか。この問いかけを忘れると際限なく仕様は膨張し続ける。その結果が、開発費用の肥大、開発期間の延長につながる。

 いざシステムの具体的な仕様を詰める段階になると、せっかくだからと、あれもあこれもと要求を盛り込みたくなるのが人間の心情である。そこで、一通りの要求が出そろったところで、それらをリストアップし、ビジョンや要件に照らし合わせて「なくてはならない機能」と「あったらいいな機能」を選別するとよい。そして、「あったらいいな機能」リストに挙がったものは、予算に余裕があったら、あるいは安定稼働した後に、できる範囲で盛り込んでいくという形で、関係者の合意を取り付けておくのがよい。

 一方で「なくてはならない機能」リストについても、真意を確認しておくことを忘れてはならない。効率化のために、すべて機械系でやらなければならないという“思い込み”が強いために、「なくてはならない機能」としてリストアップされていることもある。ところが、実際にはシステムには人間系も存在するので、人手で機械系を補完した方が都合のよい場合もある。あるいは、機械系でやっても、人間系でやっても実質的な経済効果に差がない機能もある。

 前述した「自動化の落とし穴」など参考に、いま一度、それが機械系の機能にないと、システム全体として、目的を達成できないほど重要な機能か否かを、冷静に見極めてほしい。「その機能を追加することで、いったい、どれくらいもうかるのか?」「最初から、そこまでの高機能を必要とするのか?」(「守・破・離で育てろ!」)を考える。それによってムダな初期投資を抑制することができる。

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