情報システム部弱体化の原因は?情シス部のリバイバルプラン(1)(2/2 ページ)

» 2006年06月13日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]
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環境変化に取り残された情報システム部

 生産性向上型、業務改善型から競争優位確立型、戦略型・経営革新型へ情報システムの企業内における位置付けは大きく変化した。それに対して、情報システム部はどのように対応してきたのだろうか。

 60年代や70年代は、現場の業務をどのようにして情報システムに載せるかを現場部門とともに検討し、情報システム部内の要員で設計・開発・導入・運用を行っていた。まだ外部の情報サービス会社も小規模であり、産業として確立する状況ではなく、情報システムにかかわるすべての業務を担当するのが情報システム部の役割だった。

 80年代に入り、戦略的な情報システム活用が進むようになると、いままで、現場の業務をシステム化することに注力していた情報システム部では、十分なシステム企画を行うことが難しくなり始め、外部のコンサルタントやSIer(システムインテグレータ)への依存度を高め始めた。また、情報システム開発の大規模化に伴ってシステム開発要員が不足するようになり、開発業務に関しても外部への依存度を高めた。それにより、情報サービス業は産業として急速に立ち上がることになった(図2参照)。

ALT (図2)情報サービス業の年間売上高推移(クリックで拡大)

 90年代に入り、バブル崩壊によって情報化投資は削減され、情報システム部を中心とした大規模プロジェクトは消滅し、既存システムのメンテナンスが情報システム部の中心的な役割となった。

 また、UNIXを中心としたオープンシステム、BPRの有効な道具としてのERPパッケージシステムが台頭し、情報システム部の持つメインフレーム技術や現場改善型要求分析能力を必要とされないケースが多くなり、BPRを狙ったERPパッケージ導入プロジェクトが経営企画部を中心に発足するようなケースまで現れた。情報システム部に、業務改革企画能力、オープンシステム技術力、パッケージシステム活用能力が求められたが、十分な人材を育成できず、アウトソーシングの波もあり、さらに外部依存度を高める結果となった。

 2000年代に入ると、経営と情報システムの距離が一層接近し、経営と情報技術の両方の知識を持った人材が情報システム部に必要になってきた。しかし、90年代に形成した外部依存体質によって十分な人材育成がされておらず、ニーズに応えられていない状況が続いている。

 また、大規模な企業合併やM&Aが多くなり、システム統合を実現するための大規模プロジェクトが金融機関を中心に多く構築されるようになった。しかし、80年代に大規模プロジェクトをマネジメントしていた情報システム部員はすでに高齢化しており、その次を担う世代は既存システムメンテナンス中心という空白の90年代により、大規模プロジェクトをマネジメントした経験がなく、プロジェクトマネージャ不足に悩まされる事態に陥っている。

 インターネットの普及により、情報技術の基盤も大きく変化している。Webベースのシステムは当たり前となり、Webサービスなどの外部サービスの活用も視野に入れたシステム構築を求められる時代に突入しようとしている。このような技術基盤の変化にも、多くの情報システム部は対応できていない。

 このように情報システムの位置付けや基盤技術の変化に対し、情報システム部は迅速な対応をすることができず、外部依存度が高まり、弱体化していったものと思われる。

新たな役割定義の必要性

 企業の事業活動における情報システムの位置付けの変化に対して、情報システム部がキャッチアップできていない現状において、いま、情報システム部に求められているのは、新たな役割定義である。どのような役割を情報システム部が担わなければならないのかというゴールを明確にせずに、リバイバルプランを立案することはできない。

 そのためには、まず、事業活動における情報システムの位置付けを明確にし、情報システムに関する業務機能を明らかにする必要がある。そのうえで、情報システム部とアウトソーサーとの最適な役割分担を検討し、情報システム部の役割を定義しなければならない。

 そして、定義された役割を担うために必要な人材像を明確化し、現状との人材ギャップ解消策を策定・実施していくことがリバイバルプランにつながるものと思う。


 次回は、企業の事情活動における情報システムを位置付け、業務機能を情報システムユーザースキル標準(UISS)のタスクフレームワークを活用して検討する方法を考えてみる。

著者紹介

著者名 井上 実(いのうえ みのる)

横浜市立大学文理学部理科卒。多摩大学大学院経営情報学研究科修士課程修了。グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。人材ポートフォリオ構築、人材開発戦略立案、キャリアパス構築などに関するコンサルティングを担当。中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。

第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:「システムアナリスト合格対策(共著)」(経林書房)、「システムアナリスト過去問題&分析(共著)」(経林書房)、「情報処理技術者用語辞典(共著)」(日経BP社)、「ITソリューション ?戦略的情報化に向けて?(共著)」(同友館)。


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