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» 2006年09月06日 12時00分 UPDATE

オブジェクト指向の世界(17):パレートの法則 vs. ロングテール現象

今回は話題を少し変えて、最近注目されてきたロングテール現象について考えてみたいと思います。書店に行くと書籍や雑誌記事などでロングテールという見慣れない言葉が目に付きます。この「長いしっぽ」はWeb 2.0の流れとも関係し、インターネットが巻き起こしつつある新しい社会現象です。Amazon.comやGoogle AdSense/Adwords、Yahoo! Overtureなどがロングテール旋風を巻き起こしています。

[河合昭男,(有)オブジェクトデザイン研究所]

 ロングテールは、パレートの法則(80‐20の法則)に対する一種のアンチテーゼです。パレートの法則は経済効率に注目するもので、20%のコストで80%の成果が挙げられるという現象がさまざまなところで観測できるという経験則から来たものです。店舗には売れ筋商品を重点的に並べます。コンビニやKIOSKのように店舗が狭くなるほど売れ筋商品に集中して売り上げを増やす努力をします。

 ロングテールという言葉が提唱されたきっかけは、Amazon.comの売上比率において、大型書店に置かれていないマイナーな商品(主に書籍)がベストセラーと同等程度に貢献しているという報告です。店舗を持たない強みから、1年に1冊しか売れない特殊な本も扱えます。マイナーな書籍の売り上げを累積すると総売り上げの半分以上になるそうです。まさに「塵(ちり)も積もれば山となる」。インターネットの普及による販売コスト削減効果の良い例です。

ロングテールと広告

 「塵も積もれば山となる」現象ともいうべきロングテール現象の一大潮流は広告業界にも押し寄せました。従来の一般大衆向け広告メディアはテレビと新聞・雑誌が中心でした。メディアの数も限られており、影響力の大きなメディア広告は高価で、そこに広告を出せる企業や組織も限られていました。一方、Webの世界は、メディアとなるWebサイト数が膨大で、それぞれのメディアで掛かる広告コストも低いのが特徴です。

 筆者も早速体験してみようとGoogle AdSense/AdwordsおよびYahoo! Overtureにチャレンジしてみましたが、自分で体験してあらためてそのすごさを垣間見ることができました。筆者のホームページの各ページに小さな広告が出ますが、ページを開いた時点でそのページに最もふさわしい広告が自動的に割り振られるのです。従来のバナー広告と見掛けは似ていますが仕掛けは大きく違います。また検索エンジンでしかるべきキー検索すると弊社のサイトの案内が検索結果右側のスポンサー欄に表示されます。ちょっと先走りましたが、順を追ってもう少し詳しく説明します。

 このWebの世界での広告のロングテール現象は(1)検索連動型と、(2)コンテンツ連動型の2つのサービスから成り立っています。

検索連動型広告

 GoogleやYahoo!など検索エンジンを提供しているWebサイトは無償で誰でも使用できます。無数にあるWebサイトに蔓延(まんえん)するあらゆるジャンルの情報を誰でも参照でき、必要な情報を即座に引き出すことができます。ビジネスでも日常生活でも多くの人たちが検索エンジンに非常にお世話になっています。

 むしろ、情報量が膨大なため自分がいま本当に必要とする情報を絞り込むための作業に負担が掛かります。これはぜいたくな悩みというべきです。玉石混交のサイトを機械的に評価するためGoogleはページランクの技法を発明しました。キーワード検索結果はページランクの高いものから表示されますので、利用者は上位から見ていけばよいわけです。

 一方、ビジネスでサイトを運営している企業は、検索結果の上位に来るようページランクを上げる工夫をします。Google AdwordsやYahoo! Overtureの仕組みは、広告代理店が検索サイトを運営しているようなイメージです。広告を出したいサイトは検索サイトを運営しているGoogleやYahoo!にキーワードを登録します。

 一般ユーザーがキーワードを検索すると、検索結果のページにキーワードを登録しているスポンサーのWebサイトのリンクを表示します。このリンクは検索ページの上や右側に表示されます。広告料はクリック単価としてスポンサーが自由に設定できます。ちなみにAdwordsでは最低7円から入札できます。従来の広告料から比べると非常に廉価です。同一のキーワードに対しては原則として入札金額の高い順に表示されます。

ALT 図1 検索連動型広告の仕組み

 ついでながら、Google AdWordsの仕掛けはOvertureが元祖で著作権問題があったそうです。ちなみにOvertureはYahoo!が買収しました。この2つにチャレンジすべく、弊社のオブジェクト指向/UML教育コース案内サイトをいくつかのキーワードで登録しましたが、アクセス頻度の高そうなキーワードは検索率も高い代わりにクリック単価を上げないと上位に表示されません。逆にアクセス頻度の少ないキーワードを登録すると、検索率は低いのですが単価が低くても上位に表示されるというメリットがあります。

 2社のポリシーは若干異なります。Google AdWordsは人手を介せずプログラムで処理を行っているので対応が迅速です。Overtureは人手を介して内容の審査を行っているため対応が遅く、ちょっとした文言の変更も簡単にはできません。Google AdWordsはいったん登録が終われば後は画面で簡単に修正できますが、Overtureは修正の都度チェックを受ける必要があります。もう1つの大きな違いは、キーワードごとの他者の入札価格が、Overtureは見えますがGoogle AdWordsは見えません。

コンテンツ連動型広告

 コンテンツ連動型広告は、従来の広告代理店のビジネスモデルをインターネットの世界に取り入れたものです。例えば、テレビ局は番組にふさわしいスポンサーを自分で見つけるのではなく、広告代理店に依頼します。一方、テレビに広告を出したい企業は広告代理店に企業イメージにふさわしい番組の紹介を依頼します。このマッチングを行うのが広告代理店です。

 コンテンツ連動型広告は、この実世界の広告代理店業務を検索サイトが行っているようなイメージです。(広告メディアである)テレビ局の役割は無数にあるWebサイトです。スポンサーの役割も無数にあるWebサイト(スポンサーの公式サイトなど)です。テレビの視聴者は、Webサイトを見る人です。テレビのチャネルや番組を各人の嗜好(しこう)で選択するように、お気に入りのWebサイトも各人各様です。

 コンテンツ連動型広告の広告メディアの役割を果たす各Webサイトの運営者は、自分のWebサイトの適当な場所に広告代理店から提供されるHTMLを張り付けます。従来のバナー広告のようなイメージですが、バナー広告はそこからリンクするスポンサーのWebサイトが決まっていましたが、コンテンツ連動型広告はどのスポンサーのどのサイトとリンクするか決まっていません。そのページが表示されるときに最もふさわしい広告を自動判定して表示します。広告は都度変わります。

ALT 図2 コンテンツ連動型広告の仕組み

 サイトごとのクリック数はわずかでも膨大なサイトを合計すると「塵も積もれば山となる」で、これがロングテール効果です。筆者の個人サイトにも張り付けました。当然ですが、ページによって広告内容が異なります。例えば、NY視察ツアーの報告のページにはNYのホテルやアパートの案内が表示されます。会社設立記のページには会社設立案内の広告が表示されます。これを人を介さないでプログラムで行っているところがすごいのです。もっとも広告代理店側が手作業ならロングテールに対応できません。手作業を行うのは無数にあるサイトの各オーナーです。


 パレートの法則は仕事や日常生活さまざまなところで観察できる普遍な法則だといえます。ロングテールは経済性の制約条件が取り払われたところで有効になります。インターネットはこの経済的制約条件を限りなく0に近づけつつあるといえるでしょう。

 最近インターネットではやっているものには共通点が感じられます。それは参加型です。一般ユーザー間のコミュニケーションの場を提供するブログSNS(mixiなど)も参加型です。目的は異なりますがオープンソースも参加型です。これらの社会現象はすべてインターネット普及が巻き起こしつつある一大潮流です。キーワードは参加型です。人はコミュニティへの参加を潜在的に願望しています。参加とは自己の存在を確認することです。

 コンテンツ連動型広告の広告メディアには誰でも参加できます。自分のサイトに見知らぬ企業の広告が標示されたとき参加を実感します。しかもその広告がサイトの内容とマッチしており実は自分が一番興味を感じ共感します。ちなみにご参考として筆者のサイトの数字は、AdSenseのレポートによると6月分表示回数3076、クリック回数68とありロングテールのしっぽの先のほんのみじんです。

 この参加型のコミュニティが継続し進化発展していくために必要なものはアレグザンダーのパターン言語のキーワードである「QWAN=無名の質」です。次回はインターネットのQWANについて考えてみたいと思います。

筆者プロフィール

河合 昭男(かわい あきお)

大阪大学理学部数学科卒業、日本ユニシス株式会社にてメインフレームのOS保守、性能評価の後、PCのGUI系基本ソフト開発、クライアント/サーバシステム開発を通してオブジェクト指向分析・設計に携わる。 オブジェクト指向の本質を追究すべく1998年に独立後、有限会社オブジェクトデザイン研究所設立、理論と実践を目指し現在に至る。ビジネスモデリング、パターン言語の学習と普及を行うコミュニティ活動に参画。ホームページ:「オブジェクト指向と哲学



「オブジェクト指向の世界」バックナンバー


参考文献
▼「ロングテールの法則」菅谷義博、東洋経済新報社
▼「ウェブ進化論」梅田望夫、筑摩書房
▼「Web 2.0 BOOK」、インプレス
▼「Web 2.0への道」、インプレス


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