企業における従業員用PCは、どのように購買し、管理すればコスト効率を最大化することができるだろうか。ちょっとした点に十分気を付けたい
多くの企業では、従業員が使うPCを企業側が用意する。まれに従業員が自分のPCを持ち込んで使っているところもあるそうだが、一般的ではないだろう。企業が従業員用PCを準備する場合、どんなことに気を付ければよいのだろうか。
最初に、企業が従業員用PCを準備するときに目指すべきゴールを3点定義したいと思う。
今回はこの3点を踏まえ、PCの購買と管理について考える。
PCを購入するためには、どのメーカーのどの機種をどんなスペックで購入するか決定する必要がある。企業用PC購入の大原則は、同一メーカーの同一機種を同一スペックでそろえることである。購入機種をそろえると購買やPC管理がシンプルになることに加え、故障時に代替機をすぐに提供できるなどのメリットがある。
PCスペックを決定する際は、一般的に次の手順で行う。まずは利用部署からPCの利用目的と希望スペックをヒアリングする。それを踏まえて標準スペックの案を決定し、利用部署との合意に至るというパターンである。企業によっては職種によって標準スペックが数種類になる可能性もある。例えば著者が所属する会社においては、プログラマーとデザイナーにはハイスペックのPCを、それ以外の職種には普通のスペックのPCを用意するようにしている。
さて、標準スペックを決定していく上でよくある場面は、利用部署からオーバースペックと思われる仕様を要求されるときである。この問題の解決が難しい点は、本当にオーバースペックなのか、それとも利用部署がいうとおり本当にその仕様が必要なのかを情報システム部門が正確に判断できないことである。情報システム部員がオーバースペックだと感じるのは、あくまでも経験からの予想であって客観的なものではない。予算が限られているのであれば検証機を用意して実際に検証してみるという方法もあるが、特に予算が決められていないのであれば利用部署のニーズに歩み寄ってもよいと思われる。
この意見に関して、「安易な妥協はよくない」という批判を受けるかもしれないが、ここは合理的に考えたい。人件費と比較すればPCの購入費用はたかがしれている。であるならば、無駄に人件費を浪費して対立するよりも、ある程度要求通り希望スペックを提供した方がトータル的に安く上がるといえる。無論、明らかにオーバースペックであることが客観的に説明できる場合はその限りではない。
標準スペックが決定したら、いよいよ購買である。購買においては、複数ベンダーから相見積もりを取り、最も合理性の高いところに発注するのはいうまでもない。ところで購買の際の注意点がある。まずその機種の製造中止日に注意しなければならない。せっかく購入機種を統一してもすぐに製造中止となってしまったら追加調達ができなくなる。すぐに製造中止になることが分かっているのであれば、新モデルが出るまで待つか、現行モデルを多めに調達しておくべきである。
購入先が決定したら発注を行う。発注する際は現金で購入する方法とリースする方法がある。ただし、リースは企業にある程度の実績と信用がないと審査ではねられるので、ベンチャー企業などは必然的に現金購入となる。
購入する際は、一応税金とキャッシュフローの関係に気をつけたい。現金購入の場合、PCの減価償却は4年なので、10万円以上(注参照)の機器は購入年度に最大25%しか費用計上できないため、キャッシュフローを気にする企業は要注意である。一方、リースだと毎年のリース支払額だけ費用計上できるのでキャッシュフローがよくなる。
注:ただし中小企業者などについては少額減価償却資産の取得価額を損金算入できる特例がある。資本金の額または出資金の額が1億円以下で、かつ資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1000人以下の法人の場合、その取得価額の合計額のうち300万円に達するまで、取得価額が30万円未満の減価償却資産を費用計上できる。この特例は平成20年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合に適用される。
無事PCの購買が終わると、次はPCセッティング作業となる。基本作業としては、1台マスター機を作り、そのハードディスクドライブの中身をほかのPCにコピーした後、個別に設定していく作業が基本となる。ハードディスクドライブの中身をコピーする方法としては、「Norton Ghost」などの市販ソフトを使う方法などがあるが、一番手軽なのはPCメーカーにハードディスクドライブのデータを一斉にコピーしてくれるよう依頼する方法である。
ただしOSやアプリケーションのセキュリティパッチや追加モジュールが頻繁に公開されることもあり、マスター機をたまに更新する必要がある。ハードディスクドライブのコピーをPCメーカーに依頼する際は注意しよう。
PCの管理で最も悩ましいのが資産管理である。PCを社内資産としてきちんと管理するためには資産管理台帳の整備が欠かせない。資産管理を行う目的としては、財務的な資産管理、利用部署への適正なPCリソースの提供、セキュリティ保全などが挙げられる。
資産管理台帳には「社内の管理番号」、「メーカー名」、「機種名」、「シリアル番号」、「CPU」、「メモリ」、「HDD容量」、「周辺機器」、「修理履歴」、「現在のPC管理者(実際の利用者)」、「利用者履歴」あたりを載せるとよい。特に現在のPC管理者を明確にしておくと、棚卸しをスムーズに行うことができる。
定期的に棚卸しを実施し、紛失物はPC管理者に弁償させる。紛失したPCに関しては財務的な廃棄・紛失処理をする。パーツの過不足は理由を徹底的に追求するようにする。
最後に、従業員用PCの購買と管理についてよく聞く問題と、それに対する著者の意見を紹介する。
標準スペックを決めても「例外的にメモリ増強してください」などの要望が必ず発生するが、どうしたらよいか?
例外事項は必ず発生する。例外事項に強い管理方法を追求する。これらの要望に対して拒否するのでなく、それらも含めて対応できる強い管理方法を追求すべきである。
PC購買の予算は情報システム部門が持つべきか? それとも利用部署が持つべきか?
「利用部署が使うものなので利用部署の予算を使えばよいのでは?」という議論が出るかもしれないが、PC資産の効率的な管理のためには、PC購買に関する一切の予算は情報システム部門が持ったほうがよい。
標準スペックの客観的な評価がしたいのだが?
初回導入時は仕方ないが、それ以降はリソース測定ツールを導入し、サンプルユーザーのPCに組み込み、定期的にデータを収集するのがよいと思われる。客観的なデータがないと標準スペックに関する合理的な議論ができないためである。
▼著者名 sanonosa
国内某有名ITベンチャー企業に創業メンバーとして携わる。国内最大規模のシステムを構築運用してきたほか、社内情報システム業務を経験。韓国の交友関係が豊富なことから、韓国関連で多数のシステムインテグレーションを行ってきた。
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