ワークフローシステムの賢い導入法運用管理者のための知恵袋(13)

ワークフローシステムは、ある程度以上の規模の企業における決裁やほかの部署への業務依頼を迅速、確実に行えるようにするためのツールとして有益だ。事前に周到な計画・設計を行った上で利用し、効果が最大限に発揮されるようにしたい

» 2007年03月15日 12時00分 公開
[sanonosa,@IT]

 企業がある程度大きくなると部署が増え、かつ組織が階層化することで縦と横のコミュニケーションが難しくなる。このような組織形態の中で決裁(縦のコミュニケーション)やほかの部署への業務依頼(横のコミュニケーション)をスムーズに行う仕組みとしてワークフローがある。ワークフローは、申請者がフォーマットの決まった基本様式に必要項目を入力して申請すると、承認者の承認を経て最終決裁者まで届き、最終決裁者が決裁を行うことで決裁が下りるというシステムである。

 通常この仕組みを電子システムを使わないで行おうとすると、紙の申請書を作成し、承認者全員から承認印をもらったうえで最終決裁者に決裁印をもらうというプロセスとなる。申請書を作成するのに手間がかかるだけでなく、すべての承認印と決裁印をもらうまでに大変時間がかかったり、途中で申請書が紛失したりといった問題が発生する。ワークフローシステムを導入することで、これらの問題を一挙に解決することができる。

ワークフロー設計の前準備

 ワークフローの設計とは、おもに各ワークフローの様式(交通費精算申請の場合だと件名、行き先、目的、交通経路、金額等)と決裁フロー(申請者→課長→部長→経理部担当者)を定義することである。歴史のある社員数が多い企業では、既に紙の申請書などを活用した業務プロセスが整備されている可能性が高いので、ワークフローシステム導入担当者は社内に存在する紙の申請書を集め、それをベースに業務プロセスをワークフローとして定義していくことになる。

 紙の申請書では、決裁フローが例えば以下の要領で定義されていることが多い。

交通費精算申請書 申請者→課長→部長→経理部担当者

有給休暇取得申請書 申請者→課長→人事担当者

備品購買稟議申請書 (10万円以下の場合)申請者→課長→財務担当者

備品購買稟議申請書 (100万円以下の場合)申請者→課長→部長→財務担当者

備品購買稟議申請書 (500万円以下の場合)申請者→課長→部長→本部長→財務担当者

備品購買稟議申請書 (1000万円以下の場合)申請者→課長→部長→本部長→担当取締役財務担当者

備品購買稟議申請書 (それ以上の場合)申請者→課長→部長→本部長→担当取締役→社長→財務担当者

ITサービスデスクサポート申請書 申請者→ITサービスデスク担当者

Webデザイン依頼申請書 申請者→課長→デザイン部課長→デザイン部担当者

 ワークフローの設計は、これらの定義を拾って行うことになるため、まずは紙の申請書を集めよう。もしまだ企業の歴史が浅く、業務プロセスと呼べるようなものがなく紙の申請書すら存在しない場合、現場と相談しながら一から業務プロセスを定義していく方法もあるが、市販のワークフローパッケージに搭載されている標準的な業務プロセスをそのまま取り入れるのもよい。

ワークフローの設計作業

 紙の申請書が集まったら、次はワークフロー設計段階に入る。この段階では紙の申請書をそのままの内容でワークフロー設計としてもよいが、現実的には業務プロセスに多くの見直しが入ることになる。見直しの主な内容は、紙とシステムでは特性が違うので、特性の変化に合わせて内容を修正したり、元々の様式や決裁フローに無駄な部分が多いのでこの機会に簡略化するといったことである。

 業務プロセスの見直しには、コンサルタント視点での、全社業務最適化を意識する姿勢と努力が必要である。実際に業務プロセスの見直し作業が始まると、多くのステークホルダーと打ち合わせを重ねる必要がある。その際、ステークホルダーはさまざまな部分最適化を要求してくる。よくある例を挙げてみよう。

  • 支援部門にとってみればあったほうがよい入力項目であっても、申請者からすれば入力するのが非常に大変な項目がある。例えば備品購買稟議申請にて取引先の名前、住所、電話番号、担当者、銀行口座まで入力を必須とすると支援部門としては便利だが申請者の負担が非常に大きい。これらの項目は稟議ではなくて支払依頼での入力とすべきだ。
  • 階層が深い組織においては、申請者と決裁者の間が長くなればなるほど決裁ラインが長くなる傾向にある。決裁ラインは長ければ長くなるほど、決裁を得られるまで時間がかかる。対策としてはいろいろな方法がある。途中承認者を3名までに制限する方法、決裁権限を下役職者に委譲することで決裁ラインを短くする方法、もしくは決裁ライン自体はそのままだが、1日以内に承認しないと自動承認されるようにする方法などである。
  • 海外出張が多い人が決裁者や承認者となっていると、承認や決裁がなかなか進まない。この場合、社外からも決裁が行えるようにする仕組みを導入するか、もしくは出張時に決裁代理人を指定する方法を取るのがよい。

ワークフローシステムの導入と運用

 次は、いよいよワークフローシステムの導入と運用である。導入の際には市販のグループウェア製品やERP製品に含まれているワークフロー機能を使うことが一般的だろう。ここで問題となるのはどの製品を導入するかである。ここでは私がこれまで実際にワークフロー製品導入を行った後に、運用上問題となった点をご紹介したいと思う。

並列の承認者

 通常の決裁フローは直列だが、部分的に並列の決裁フローを作りたいという要望がたまにある。例えばWebサイト構築依頼ワークフローがあるとする。申請者はWebプログラミングの責任者とデザインの責任者に同時に作業実施についての承認を依頼して作業をしてもらい、完了したらそれぞれの責任者から承認(完了通知)してもらうようにする。そして両方の承認が揃ったら品質確認者に決裁者が移る、というものである。ただ、並列の承認者を認めると、運用上いろいろ事前の取り決めを要する厄介な問題が起こる。承認者の1人が退職や部署移動をした場合どうするのか、承認者の1人が承認を却下した場合どうするのかなどがその代表的なものである。

緊急を要する決裁に関する管理者の対応

 「この決裁をどうしても今日中に通してもらいたいんだけど、決裁者が今日1日不在でどうしたらよいか」という問い合わせが管理者に寄せられることが多い。管理者側で決裁者を変更することや管理者権限で決裁を通すことは通常可能である。しかし当然のことながら、管理者は決裁者ではないので、現実的には上長レベルでの協議で対応を検討してもらい、その決定に従うこととなる。もしワークフローシステムに決裁代理人指定機能があるのであれば、決裁者が会社を空けるときに必ず決裁代理人を立ててもらうように徹底するのがよい。

外からの承認や決裁

 営業部門などの外出の機会が多い部署においては、会社に戻らないとワークフローの承認や決裁ができないのは大変不便だと取られるようである。そんな場合には、携帯電話から承認や決裁ができるワークフローシステムを導入するのがよい。

外国通貨の扱い

 購買系のワークフローで、外国から輸入したものをどのように申請したらよいか問い合わせが来ることがある。具体的には、ドルで購入したものをドルで入力すべきか円換算して入力すべきかや、税金をどのように入力すべきかなどである。円換算しないと入力できないようなシステムを導入するのであれば、円換算の計算式と税金の扱いを前もってルール化しておこう。

決裁完了文書のフォルダ分け

 決裁が完了すると申請文書がフォルダに入れられるが、これをメールのようにフォルダ分けして管理したいというニーズはかなり多い。

決裁完了文書のレポート化

 決裁完了文書をレポート化して閲覧したいというニーズもかなり多い。多くのシステムではExcel形式やCSV形式での出力が可能だが、問題は決裁の参考にするための添付ファイルが決裁文書中に添付されている場合である。この場合、当然ながら添付ファイルはExcel形式ややCSV形式で出力されない。

市販システムでは柔軟性に注意する

 ワークフローについていろいろ述べてきたが、要するにワークフローシステムでは「申請が楽で」「業務や組織の変化に柔軟に対応できて」「業務効率が上がる」システムが良いシステムだと思う。市販システムの中には柔軟性に乏しいものがいくつか見られるので、その点は大いに気を付けよう。

著者紹介

▼著者名 sanonosa

国内某有名ITベンチャー企業に創業メンバーとして携わる。国内最大規模のシステムを構築運用してきたほか、社内情報システム業務を経験。韓国の交友関係が豊富なことから、韓国関連で多数のシステムインテグレーションを行ってきた。


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