第5回 RFPの書き方:どんな「インターネットショップ」なのか?キーワードでわかるシステム開発の流れ(3/3 ページ)

» 2007年10月18日 12時00分 公開
[高田淳志,株式会社オープントーン]
前のページへ 1|2|3       

(1)システムの目的や背景・課題

 今回の連載で想定しているモデルケースであれば、次のようなことを書いて明確に伝えましょう。

(a) 会社にとっては初めてのインターネットショップであること

(b) 経営層(社長)からは、在庫や発送などリアル業務との連携を求められていること

(c) システム開発を担当するのは2名(青木室長、赤井君)で、今回のプロジェクト専属となっていること

(d) 全国に店舗、工場が散在していること

 いくつかの項目については、直接、開発するシステムの内容とは関係が薄いようにも感じます。しかし、これらの情報は開発ベンダにとっては、提案に向けての貴重な入力情報となります。例えば、私の場合は各項目から次のようなポイントを重要と考え、提案の際にはそれらを含めた内容で説明するように思います。

 (a)→インターネットビジネスに必要なインフラ面(機器・環境など)は未整備な部分が多いだろう

 (b)→リアル業務の綿密な調査が必要だな。特に本店・支店間の役割や権限の分担を正確に把握しないと

 (c)→兼務ではないので、打ち合わせや資料作成などは結構協力してもらえそうだ

 (d)→もし、各店舗から管理業務を行うのであれば、インターネット対応が必須だな

(2) 対象業務や求められるシステム機能

  今回のシステムは、在庫や発送などのリアル業務との連携を求められている一方、この会社でインターネットショップをオープンするのは今回が初めてという背景もあります。新たなインターネットという販売チャネルを設定することで、既存の業務フローも変化するはずで、新たなビジネス形態を考慮した業務フローの再構築(BPR)も必要となってくることでしょう。

 そのような場合は、現状の部門構造や業務フローだけではなく、インターネットショップの運営も含めた新・業務フローも明確に示しておくようにします。もちろん、こうしたBPRコンサル的な内容も開発ベンダに委託するのであれば、その旨を記載しておくとよいでしょう。また、「BPR」や「ERP」など、経営的側面の強いキーワードがRFPの中に散りばめられていると、開発ベンダだけでなく、IT系コンサルタントファームのような会社の参入も呼び込みやすくなります。

 さらに、機能面についても「Must(実現しなければならない)機能」と「Better(実現できたらよい)機能」が伝わるように、必要であればプライオリティを添えて記述しておくようにするといいですね。そうすると、「Must要件」だけの実現であれば6カ月で完成、さらに「Better要件」も実現するのであればさらにあと4カ月、のように段階的な開発提案も受けられるかもしれません。ビジネス・スピードが速い現代では、「10カ月後にならないと何1つスタートできない」よりは、「機能限定でもより早くスタートしたい」という判断がなされることは珍しくありません。そうしたときに、実現機能のプライオリティ分類などがなされておらずすべてが並列に書き連ねてあれば、開発ベンダとしては、「すべて完成」しか求められていないものと考え、そのような提案をすることでしょう。

(3)開発体制や推進要件に関する諸条件

 システムの内容そのものについてではありませんが、どのような開発体制で臨むべきかという点も開発ベンダにとっては重要な情報です。次のような事柄も併せて伝えておくとよいでしょう。

  • サービスインの期日が決まっている場合はその期日。また、その期日は絶対か調整可能かなど
  • 開発メンバーに対する参加要件はあるか?(経験や保有資格など)
  • 必ず依頼する作業の範囲。開発以外にも、主にユーザートレーニングやデータ移行・運用、サポートなど
  • 契約に関する諸事項
  • 作業場所(ユーザー先常駐が必須など)や機材に関する条件

 こうした事柄が、それぞれなるべく詳細に記載してあれば、何社かに提案依頼を行ったとしても、首をかしげるほどの大きな差異は出ないように思いますし、費用や工期についても完全とはいかないまでも、現時点で必要な精度までは達成した情報を獲得できるに違いありません。

青木室長 「いままでは、いろいろなことを勉強して知識を獲得するという時間が多かったけれど、こうして説明を聞くと、いよいよ本格的にスタートなのだなぁ……と感慨深い気もしてくるよ。大変そうだけど、実感がわいてきたよ」

赤井君 「そうですか、それは良かった。じゃ、まず何から始めましょうか?」

青木室長 「そうだなぁ。何せ私はこうした経験がないが、赤井君には前職での経験があるじゃないか。先ずは、お手本ということで赤井君が一通り作成してみてくれないか。私はそれを見て勉強するよ。楽しみに待ってるぞ!」

赤井君 「……(やっぱりそうなるか)」

ここまでのキーワード

【RFP(Request For Proposal)】 開発ベンダに対して、「こういうシステムを必要としているよ。こういうふうにプロジェクトを進めるよ」といった発注ユーザー側の意向を示すために作成するドキュメント。実際にどのような記述レベルのものからをRFPと表現するかに明確な規定はなく、プレゼンテーションソフトで作成した数ページのものもあれば、ワープロソフトで作成された何十ページにも及ぶものもある。

 

 通常、開発ベンダからは初期提案書と概算見積もり(金額・工期)等を準備してユーザー企業へのプレゼンテーションを行うことになるが、詳細に記述されたRFPが詳細であればあるほど、より正確な内容を提案できることは間違いない。

 

【BPR(Business Process Reengineering)】 業務の流れや部門構造を見直して、現状のビジネスに最適なように再構築すること。目的やきっかけとしては、直接的な売り上げ向上を目指すもの、社内的な作業効率向上を目指すものなどいろいろなものが考えられる。

 

【ERP(Enterprise Resource Planning)】 会社の保有する経営資源(人・金・機器など)を有効に活用するために、それらを一元的に管理・コントロールし経営の効率化を図っていくこと。そうした概念を実現するために、会社規模や適用ジャンルに合わせてERP支援ソフトウェア(ERPパッケージ)を導入して現実の効果を目指すことになる。

 

  予算や工期の超過の原因が、発注するユーザー企業側にあるのか、それとも引き受けたベンダ側にあるのかということをお互いに批判し合っていても、今後何の発展にもつながりません。発注側・受注側いずれも「システムを完成させる」というゴールについては共有しているのですから、各局面でより高い精度のアウトプットを達成できる方が担当すればいいと思うのです。

 

  そういう意味においても、今回ご紹介したRFPを含め開発の初期段階においては、ユーザー企業の果たす役割が大きいことは間違いありません。

 

 ここ数年はRFPという言葉も一般的になり、書籍等も数多く出版されています。今後、システム開発依頼をする機会があるようであれば、最高のシステムを実現できるようにぜひともより良いRFP作成に挑戦してみてはいかがでしょうか?



筆者プロフィール

高田 淳志

株式会社オープントーン


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ