ビジネスへの貢献度で評価するビジネスモデル実践! UMLビジネスモデリング(7)(1/2 ページ)

ビジネスモデルとシステム化が完成しても、現実のビジネスがこれで完結するわけではない。絶えずビジネスを発展させていくためには、新しいビジネスモデルやシステムを導入した結果をきちんと評価・分析する必要がある。

» 2007年11月27日 12時00分 公開
[内田,システムビューロ]

ビジネスモデルとシステムの評価

 本連載ではこれまで、ビジネスモデリングを行うことでTo beなビジネスモデルを導き出し、さらにそれを基にビジネスに有効なシステムを見いだす方法を具体例を挙げて説明してきました。しかし、そうして導き出したTo beなビジネスモデルやその結果としてのシステムは、本当に有効だったのでしょうか?

 これは、評価してみないと分かりません。では、どのように評価するのでしょうか?

 ここで、原点に立ち返ってみましょう。本連載で紹介している方法論では、ビジネスゴールを導くためにBSC(バランスト・スコアカード)戦略マップを使用しています。連載第2回の洋菓子店のケーススタディで、基本的な戦略目標を以下のように設定したのを思い返してください。

  • 販路を拡大する
  • 知名度を上げる
  • 高い品質を維持する
  • 安全・良質な原料を安定確保する

 そして、これらを基に以下のような戦略マップを作成しました。

ALT 図1 戦略マップ

 BSCの方法論では戦略マップの作成後、戦略目標それぞれに対して目標値を設定して、その達成へ向けたアクションプランを立てます。このアクションプランは全社、組織ごと、個人ごとに作成します。個人の目標達成を積み重ねると組織の目標達成になり、それらを合わせると全社の目標達成になるようにします。そして、その目標がどの程度達成されたかによって、ビジネスモデルやシステムの評価を行うわけです。

BSCで目標値を設定する

ビジネス全体の目標値

 まず全社の目標を達成するためには組織ごとにどうすべきなのか、さらに組織の目標を達するためには個人ごとにどうすべきなのか、という順番で明確なプランを作成していきます。

 例えば、全社の売り上げ目標は組織に割り振られ、さらに個人に割り振られます。もちろん売上高に直接絡まない組織もあります。その組織はこの目標(売り上げ目標)からは外れます。個人でも組織の目標すべてにかかわるわけではありませんので、かかわらない目標は対象外になります。

 ここではいままでと同様、洋菓子店のケースを例にとりながら実際にBSCを作成し、目標値を設定してみましょう。なお、BSCの詳細についてここでは解説しませんので、以下の記事などを参照してください。

参考記事
バランスト・スコアカード経営管理のススメ(@IT情報マネジメント)

 連載第2回で掲げた洋菓子店のビジョンは、「1年後には利益を出せるようにする」ことでした。従って、1年間である程度の結果を出すために、スコアカード上の目標値は月単位で細かく分けることにします。一方、一般的な企業では3年間から5年間の計画で目標値を定めていくことになります。ただしその場合でも、モニタリング(監視)は月単位や週単位で行うべきでしょう。

 以下が、こうして作成した洋菓子店のスコアカードです。なお、ここではアクションプランの欄は空欄になっていますが、本来は各目標値達成のための具体的な施策を入れていきます。

戦略目標 CSF KPI 目標値 アクションプラン
売り上げを増やす 顧客拡大 顧客数増加率 10%/月↑  
利益の安定化 利益拡大 売上高成長率 5%/月↑  
純利益率 5%/年  
限界利益率 30%  
コスト最小化 固定費比率 5%/年↓  
材料費比率 5%/年↓  
購入機会を増やす Web利用 アクセス数 100回/月  
購入意欲を高める おすすめ品 購入率 70%  
満足度を高める 来店数 リピート率 90%  
販路を拡大する 他への出店 出店率 3回/月  
知名度を上げる 広告利用 広告回数 2回/月  
高い品質を維持する 満足度 アンケート 80点以上維持  
良質な原料を確保 品質チェック チェックリスト 90%以上維持  
パートナーを育成 教室運営 生徒数 20名/月以上  
新商品を検討する 検討会 開催数 4回/月  
新たな製造方法研究 研究費 売上高研究費率 2%/年  
 CSF(critical success factors): 主要成功要因
 KPI(key performance indicator): 重要業績評価指標
表1 スコアカード

個々のシステムの目標値

 上記のスコアカードではさまざまな戦略目標が挙げられていますが、これまで連載の中では主に「利益の安定化」という戦略目標を取り上げて、これをビジネスゴールへとマッピングしました。そして、そのビジネスゴールを適用してTo beなビジネスモデルを作り、その中でシステム化を検討しました。

ALT 図2 ビジネスゴール「利益の安定化」を反映させたTo beビジネスユースケース図

 To beなビジネスモデルでは、「計画を立てる」というビジネスユースケースが追加され、それまで無計画で勘に頼って洋菓子を製造してきたやり方を、計画を立てて行うように改良しました。

 さらに、計画を立てるためにそれまでの実績を調べたり、予実差を調べたり、在庫を調べたりと作業が煩雑になったため、これをシステム化することにしました。このシステムが「計画管理システム」と「材料管理システム」です。

ALT 図3 ビジネス設計クラス図: 計画を立てる

 つまり、「計画管理システム」と「材料管理システム」を導入することにしたのは、「利益の安定化」というビジネスゴールを適用した結果ということになります。ですから、その後システムを実際に導入・運用した結果、本当にビジネスゴールを達成できたかどうか、評価する必要があります。

 ここでもう一度、先ほどのスコアカードを見てみましょう。「利益の安定化」戦略目標は、以下のような目標値を持っています。

戦略目標 CSF KPI 目標値
利益の安定化 利益拡大 売上高成長率 5%/月↑
純利益率 5%/年
限界利益率 30%
コスト最小化 固定費比率 5%/年↓
材料費比率 5%/年↓
表2 「利益の安定化」戦略目標

 「計画管理システム」と「材料管理システム」とが、これらすべての目標値に貢献するわけではありません。この中では主に「純利益率」を上げることと、「材料費比率」を下げることに貢献できます。

 全体としては「純利益率」と「材料費比率」の目標値が達成されればいいということになりますが、そのために個々のシステムが具体的に何を実現しなければならないかを検討する必要もあります。すなわち、システムの目標値を定めるということです。

システム CSF KPI 目標値
計画管理システム 無駄の排除 予実差比率 90%以上を維持
製品破棄率 5%以下を維持
材料管理システム 無駄の排除 誤発注率 1%以下を維持
コスト最小化 材料費比率 5%/年↓
表3 システムの目標値

 これらの目標値は週単位でモニタリングして、達成できないようなら、その都度原因を分析する必要があります。

 それからもう1点、システムの開発には開発費が掛かっています。これもコストです。このコストがどれくらいで回収できるか、計算しておく必要があります。しかも、30万円を超えたら資産になります。減価償却費を考慮して、回収できるのかどうかも検討して、あまり大がかりで高価なものにしないようにする必要があります。

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