洋菓子店は、最初の3カ月はどこにでもあるビジネスモデルで運営していましたが、やはり無駄が多く利益が上がらないため、To beなビジネスモデルへ切り替えました。さらに4カ月後にはシステムも導入して、さらに効果を挙げることができました。
その結果、最初の1年を無事に終えることができました。売り上げも目標だった1000万円をはるかに超えて、1340万円となりました。
システムが果たした役割は大きく、2人だけで切り盛りをしていくために、フルに活躍しました。またそれ以外にも、会計パッケージソフトウェアを購入して、月次での会計状況が分かるようにしました。これは、計画管理システムの結果を月単位で会計パッケージに入力するだけで簡単に実現することができました。結果として計画管理システムは、計画を管理する以外にも売り上げの推移や売れ筋の分析などにも大いに役に立つことになりました。
さて、こうして洋菓子店の開店から1年間がたちました。ここで、以前作成したスコアカードの目標値をどれだけ達成できたか、その結果を記入してみます。
戦略目標 | KPI | 目標値 | 結果 |
---|---|---|---|
売り上げを増やす | 顧客数増加率 | 10%/月↑ | 月平均12%を達成 |
利益の安定化 | 売上高成長率 | 5%/月↑ | 月平均7%を達成 |
純利益率 | 5%/年 | 6.5%を達成 | |
限界利益率 | 30% | 32%を達成 | |
固定費比率 | 5%/年↓ | 初期に比べ8%改善 | |
材料費比率 | 5%/年↓ | 初期に比べ12%改善 | |
購入機会を増やす | アクセス数 | 100回/月 | 月平均200回: 注文もあり |
購入意欲を高める | 購入率 | 70% | 60%にとどまった |
満足度を高める | リピート率 | 90% | 正確につかめないが約80% |
販路を拡大する | 出店率 | 3回/月 | 月平均4回 |
知名度を上げる | 広告回数 | 2回/月 | 月平均2回 |
高い品質を維持する | アンケート | 80点以上維持 | 平均86点 |
良質な原料を確保 | チェックリスト | 90%以上維持 | 90%に満たないものは破棄 |
パートナーを育成 | 生徒数 | 20名/月以上 | 月平均30名 |
新商品を検討する | 開催数 | 4回/月 | 月平均4回 |
新たな製造方法研究 | 売上高研究費率 | 2%/年 | 1.8%/年にとどまった |
表4 スコアカードの結果 |
ほとんどの戦略目標で、目標値を超えて目標を達成しています。別に最初から低く設定したわけではありません。
さらに、システムの導入自体が有効であったのかどうかを見てみましょう。
システム | KPI | 目標値 | 結果 |
---|---|---|---|
計画管理システム | 予実差比率 | 90%以上を維持 | 平均で86%にとどまったが、後半は95%を超えた |
製品破棄率 | 5%以下を維持 | 平均では6%になってしまったが、後半は3%を切った | |
材料管理システム | 誤発注率 | 1%以下を維持 | 平均で0.2% |
材料費比率 | 5%/年↓ | 4.6%下げることができた |
表5 システムの結果 |
最初は慣れないということもあって目標値を超えることが難しかったようですが、後半(残り2カ月)になって安定してきたようです。結局全体の目標も達成できて、最初の年にしては大成功でしょう。
結果として、この洋菓子店のケースでは、新たなビジネスモデルとシステムの導入は有効であった、と評価することができるでしょう。
今回のケーススタディではビジネスモデリングは成功裏に終わりましたが、うまくいかなかった場合は分析をしっかり行って、その原因を明らかにしておかなければ、また同じ失敗を繰り返してしまうことになります。もちろん成功した場合も、偶然うまくいったという可能性もありますので、本当に方法論が正しくて成功したかどうかをしっかり検証する必要があります。
この洋菓子店のように新たに店を開くケースでは、大抵は最初の年は赤字覚悟で始めるようですが、今回のケースではビジネスモデリングをしっかり行った結果、このような良い結果を得ることができました。
オーナー夫妻はさらに洋菓子教室の生徒さんの中でお店を持ちたいという人たちにフランチャイズ展開をしようと考えているようです。駅前広場への臨時出店も成功したので、本格的に駅前に2号店をとも考えているようですし、デパートなどへの出店も視野に入れ始めているようです……。
夢はますます膨らんでいるようです。
なお、本連載記事は書籍『戦略マップによるビジネスモデリング』(内田 功志、羽生田 栄一=著/翔泳社/2007年)の内容をベースに記述していますが、書籍の方では今回ご紹介したような、ビジネスモデリングの結果の評価については触れていません。従って、結果の評価を実践するに当たっては、書籍ではなく本記事を参考にしてください。
内田 功志(うちだ いさし)
システムビューロ 代表。日立系のシステムハウスで筑波博に出展した空気圧ロボットのメインプログラマを務め、富士ゼロックス情報システムにてオブジェクト指向の風に触れ、C++を駆使して印刷業界向けのシステムを中心に多数のシステムを開発。現在、ITコンサルタントとして、システムの最適化や開発の効率化などの技術面、特にオブジェクト指向開発に関するコンサルティングやセミナーを実施してきた。最近ではビジネスに即したシステム化のコンサルティングを中心に活動している。
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