アイデアのシーズとニーズを探そうWebビジネスの立ち上げ、ステップバイステップ(2)(2/2 ページ)

» 2007年12月04日 12時00分 公開
[大川敏彦,ウルシステムズ]
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(1)事業・サービスイメージの作成

 それからしばらく飲みながら、吉岡からネットでのマンションの管理組合の話を聞いた北尾は、帰りの電車の中でも、いてもたってもいられず、席が空くとすぐに座って、そのアイデアをパソコンのパワーポイント で書き落としてみた。

管理組合の支援サイト

  • 予定の告知、議事録の公開、ネット上の決議、意見や苦情と回答の公開などがある
  • これらにより、管理組合の開催、理事会の参加人数の減少の抑制、決議の迅速化、意見や苦情への対応の迅速化などが実現できる

 平松のいうように、確かに文書で書いてみると先ほど吉岡と話したときよりは何かイメージが具体化してきたように思える。ただ、聞いただけの話だったので、まだイメージが膨らんでないことも事実だった。家に帰った北尾は、プレゼンツールの次のページに、絵で表してみることした。

 あまりプレゼンツールに慣れていない北尾ではあったが、それでも、1人でぶつぶついいながら一所懸命に先ほどのアイデアを絵に表した。絵にしてみると、先ほど文書で書いたよりいろいろなアイデアがわいてきて、より現実味が感じられてきた(図1)。

ALT 図1 管理組合の支援サイトのアイデア

 アイデアがまとまった北尾は、深夜にもかかわらず、早速平松にこれをメールで送ってみた。

(2)事業環境の分析・調査

 平松からの連絡があったのは、次の日の朝だった。


平松 済みません。昨日は、調査の山場で、なかなか手が離れなかったもので。事業アイデアができたようですね。なかなか面白いアイデアですね。これはニーズベースのアイデアですね。僕もマンション住まいなのでこのような仕組みがあると助かるなあ。さて、本題ですが、次は、外部・内部環境の分析ですね……。

 それから、平松は分析の概要について説明してくれた。急いで出社した北尾は、平松のメールに書いてあるままに、このサービスに関する環境分析をし始めた(図2)。

ALT 図2 サービスの外部環境と内部環境

『えっと、まず事業環境には大きく外部環境と内部環境があるか……。まずは外部環境から考えてみるか。外部環境といってもいろいろあるんだったよな……』

 オフィスの自席でノートパソコンを開いた北尾は、早速パワーポイント を開き昨日の続きのパワーポイントに外部環境と書き、その下に段下げして、平松に教わった業界動向、市場環境、内部環境と書いてみた。そして、自分のこれまでの知識をフルに生かして、それぞれの項目を埋めてみた。

外部環境

[業界動向]

 大手企業、中堅企業、新興企業の3層に分かれており、勝ち組と負け組が鮮明に色分けされている。各社ともリストラは一段落し、黒字転換が見込まれているが、マンション販売を引っ張ってきた超高層・高級マンションも依然人気は高いものの頭打ち傾向にあるなど、相変わらず経営環境は厳しく、さらなる淘汰が進んでいくとみられている。

[市場環境]

 長いデフレも終わり、金利上昇、地価の状況が見込まれており、駆け込み需要が増えている。しかし、供給過剰の中、消費者の選別も厳しくなっており、自分のニーズに合った、良質で、低価格のマンションを求めている。一方で、耐震偽装問題などの影響で、マンション業界への不振もある。

[競合の動向]

 最近は高級、低価格の二極化に加え、海の見えるマンション、天然素材、デザイナーズマンション、オーダーメイドハウス、頭金ゼロなど金利の工夫、防犯、耐震強化マンションなど、付加価値付け・差別化が進んでいる。消費者主導によるオリジナル化・差別化にいかに対応していけるかが勝敗の鍵となっている。

 手元にある業界紙やネットなども使って、ざっとまとめただけだったがあっという間にお昼になってしまった。時間を節約するために、忙しいときによく使う近くのファストフードでBLTサンドとコーヒーを買ってきてすぐに席に戻った。

 『さて、次は、内部環境だ。えっと、企業ビジョンと整合しているか、経営課題を解決するか、既存事業とのシナジー効果があるか、既存リソースを有効利用できるかとかだったな……』

 BLTサンドを一口かじり、コーヒーを一口すすった北尾は、先日部長から中期経営計画をもらったことを思い出し、それを取り出して、パラパラと眺めながら、早速キーボードをたたき始めた。

内部環境

[ビジョンとの整合性]

 アーバンライフコミュニケーションズ社の企業ビジョン

  • 「1人1人の理想の住まいを実現する」
  • 「高品質・低価格の実現」
  • 「デザイン、建設、販売、管理、売却まで、マンションライフにおけるあらゆるシーンをトータルに支援する」

 管理組合支援サービスは、上記のうち「マンションライフにおけるあらゆるシーンをトータルに支援する」の一躍を担うものであり、居住者の快適な生活を支援するものである。

[経営課題の解決になる]

 外部環境でも触れたように、ユーザーのニーズも厳しくなり、競合との付加価値による差別化競争が激化し、勝ち組と負け組が明確になりつつある状況で、真のお客さまのニーズをとらえた差別化を実現する一手段となることが期待される。

[既存事業とのシナジー効果がある]

 販売後のお客さまとのコミュニケーション強化を実現する。ゆくゆくは住み替え要望などのニーズ開拓のご要望を的確につかむことで、中古マンション販売など新たなビジネスチャンスの拡大へつなげることができる。結果として、ビジョンにある「デザイン、建設、販売、管理、売却まで、マンションライフにおけるあらゆるシーンをトータルに支援する」ことが可能になる。

[経営資源の有効活用]

 主力部門とはいえない管理会社に対して、マンション販売後の付加価値付けを行うことで、新たに「デザイン、建設、販売、管理、売却まで、マンションライフにおけるあらゆるシーンをトータルに支援する」というビジョンを実現するための重要部門としての位置付けを与えることができる。

 不慣れなせいかここまで調べるのに数時間を要してしまった。それでも、内外のさまざまな環境因子との関係を調べてみると、このサービスがそれなりにやってみる価値があることが分かってきた。北尾は早速その結果を平松に送ってみた。今度は、数時間後、その日の遅くには返事をくれた。


平松 なかなかよく考えられていますね。外部環境の状況から見ても、内部的な意味を考えても、貴社で取り組むのは、それなりに意味がありそうですね。1つアドバイスするとしたら、もう少しデータを使うとよいかもしれません、市場動向、業界環境、競合動向など数値が使えるところはたくさんあるはずです。それはともかく、次は(3)事業・サービス詳細の検討になりますが、ぜひ、この調子で進めてみてください。


 データを使うか……なるほど、少し考えてみよう。しかし、短い文章だったが、そんなに悪い感じでもないそうだ。その日は、もう12時を回っていたし、少し疲れもたまっていたので、今日は休んで、続きは明日やることにした。

筆者プロフィール

大川 敏彦(おおかわ としひこ)

ウルシステムズ株式会社 ディレクタ


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