役立つシステムへと至る「道筋」を考える隠れた要求を見極める!(5)(1/3 ページ)

これまで、さまざまな思考ツールを駆使して、システムに関係する各ステークホルダーの“隠れた要求”を見極める方法を説明してきた。次の段階として、それらをシステムに反映させるために、具体的な“手段”の形へと落とし込む必要がある。

» 2008年02月13日 12時00分 公開
[平岡正寿,株式会社NTTデータ]

目的だけではシステムは動かない

 本連載のこれまでの各回と同様、今回も引き続き結婚相談所を営む顧客へのシステム提案の仮想事例を用いて、要求定義に活用できる思考ツールを紹介したいと思います。今回新たに紹介するのは、「ゴールモデル」というツールです。

 まず、以下のような状況を思い浮かべてみてください。

 あなたは、これまでの要求定義作業の過程で、すでに以下の情報を手に入れています。

  • XYZ公式によって明確に定義された分析領域
  • リッチピクチャによって洗い出され、整理された各ステークホルダーの状況ステークホルダーの状況
  • CATWOE分析により掘り出された、各ステークホルダーの世界観

 さらに、システム化の対象となる業務の内容も把握しており、必要なインタビューも一通り完了しました。いよいよ、業務のシステム化に向けた検討に入る段階です。

 社長・アドバイザー・会員それぞれの思い、お互いの意見の対立、表面上の課題の裏に隠された要求などは、十分に理解したつもりです。ただし、いざその内容を活用して、各ステークホルダーが満足できるシステムにするためには、具体的に何をどうすればいいのか?

 あなたはそれが分からずに、いま頭を悩ませています……。



 前回までは、顧客に起こり得るさまざまな状況を、MOYAで活用しているツールを使って深く堀り下げてきました。プロジェクトメンバー間で共有できるような目的を明確にし、各ステークホルダーの思いの構造を共有し、その思いを深く考察することで世界観を導き出しました。

 今回は、そのようなさまざまな分析の結果を、結婚相談所の社長・アドバイザー・会員のためにどう紡いでいくか、これがポイントになります。

 会員の期待に応え(もしくはそれ以上のものを提供し)、アドバイザーの業務をより良いものにし、かつ社長の期待に応えるシステム。そのようなシステムは、あり得るでしょうか? 何をどう考えることで、今までの分析結果を有益なシステムの実現へ向けて活用することができるのでしょうか?

 当たり前のことですが、システムやプロジェクトの目的の合意に達しただけでは、システムは動かないのです。

ゴールを達成するための道のりを考える

ゴールモデルとは?

 今回紹介するゴールモデルは、上記のような状況において非常に役立つツールなのです。

 ゴールモデルは、第2回第3回第4回で紹介したようなSSM(ソフトシステムズ方法論)のツールではありません。このツールはもともと、UMLを使ったビジネスモデリング手法で用いられていたものです(詳しくは、以下の書籍を参照してください)。

【参考書籍】
・「UMLによるビジネスモデリング」ハンス=エリク・エリクソン、マグヌス・ベンカー=著/ソフトバンククリエイティブ/2002年

 ゴールモデルとは、それまでの分析で得られた結果を基に、達成したい(目的とする)ビジネスゴールをどのような形で実現していくのかを表したものです。

 では、実際にゴールモデルの構造を見てみましょう(図1)。

ALT 図1 ゴールモデルの構造

 上図のとおり、ゴールモデルの構造自体はロジックツリーなどでよく見られるツリー構造になっています。基本的な構造は、上位のゴールが下位のゴールの目的となる形で、それらが次々と連鎖して全体のモデルを構成しています。

 ツリー構造の最上位には、最終的な達成目標である「トップゴール」が配置されます。その下位には、トップゴールの達成を目的とした「サブゴール」があり、その下位にはサブゴールの達成を目的としたサブゴールが……、というようにツリー構造を形作っていきます。

ゴールモデルが提供するものとは?

 ゴールモデルを記述するには、いくつかの記述ルールがあります。

  • ゴールの表現は「効果表現+状態」という形で行う(例:「効率的に顧客を管理できている状態である」)(例:「効率的に顧客を管理できている状態である」)
  • ゴールの定量化ができるのであれば、定量化数値を記載する(効果表現を数値で表したもの)(効果表現を数値で表したもの)
  • サブゴールのXOR(排他的論理和)やAND(論理積)の構造を明記する(「どちらかが成立するとどちらかは不成立である」「双方成立しないと上位ゴールは不成立である」などの条件を記述しておく)(「どちらかが成立するとどちらかは不成立である」「双方成立しないと上位ゴールは不成立である」などの条件を記述しておく)
  • オプションとして、サブゴールの上位ゴールへの寄与の割合が見えているのであれば記述しておく

 これらのルールを守って記述することで、ビジネス上のゴール(トップゴール)とそのゴールを達成するための手段(サブゴール)の構造をさらに明確に表現することができます。

 ゴールモデルを作成することによって、ゴールを実現するための手段を検討し、洗い出すことができるのはもちろんのこと、手段(サブゴール)間の優先度を明確にしたり、今までの分析では見落としていた新たな気付きを

得ることもできます。また、業務プロセスやその実行に必要な人的・物的リソースとの対応をイメージしやすい点も、ゴールモデルの優れた特長の1つです。

 このゴールモデルを通じて本当に目指すべきゴールを見いだし、それを各ステークホルダー間で共有し、合意形成を図るのです。

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