ゴールモデルを展開していくと、最下層(もしくはそれに近い部分)はかなり具体的な内容になってきます。つまり、上位ゴールを達成するための具体的な手段に近いものがゴールとして表現されているわけです。それを本当に具体的な手段に変換することが、システム化への第一歩です。
例えば、図3の「条件を変えることで、理想の相手に出会った事例が多く存在している」というゴールについて考えてみましょう。このゴールのさらに下位に当たる、より具体的なサブゴールをプロジェクト内で検討した結果、以下のようなアイデアが出ました。
「条件を自由に変えて、会員がいつでもマッチングすることができる仕組みを提供すればよいのでは」
「さまざまな結婚事例を、会員が自由に閲覧できる仕組みがあるといいね」
「いろんな結婚事例を、システムに登録できる仕組みがあった方がいい」
「結婚事例だけでなく、結婚した夫婦のその後の価値観の変遷などもインタビューしてみてはどう?」
これだけ具体的なゴールまでブレークダウンできたら、次はこれらを実現するための具体的な手段を以下の順番で検討していきます。
1. その具体的なゴールは、どのようなシステム機能で実現できるか?
(ゴールモデルが要求する機能は何か?)
2. その機能は、具体的にどのプロセスをどのように変えるのか?
(その機能は、どの業務プロセスを改革するのか?)
3. その機能は、上位ゴールの定量化数値を達成することが可能か?
(その改革は、ビジネスゴールが掲げる目標値を達成できるか?)
4. どの機能の組み合わせが最も効果的に目的を達成するか?
(どういう機能を組み合わせたシステムが最も効果的か?)
同じプロセスを改善可能な複数の機能がある場合には、予想される効果(定量値)や複数機能の組み合わせ効果(シナジー効果)などを評価し、どの機能を選ぶか(あるいは組み合わせるか)を判断します。
以上のような検討を行うことで、システムの全体像と機能を徐々にとらえていくのです。結婚相談所の例でいえば、「お見合い相手の検索条件を動的に設定できる機能」「結婚事例データベースの構築」などが検討されることになるでしょう。
NTTデータが開発した要求定義方法論MOYAでは、その名のとおり「ゴール分析」というタスクでゴールモデルを活用しています(その前段階として、「ゴール分析のための整理」というタスクも定義されています)。
ゴール分析タスクで行うことは、分析領域定義タスクで検討したXYZ公式、ステークホルダー分析タスクで作成したリッチピクチャ、課題分析タスクで作成したCATWOE、それぞれの内容を吟味して導き出した隠れた要求を、ゴールモデルという形に組み上げることです。そして、隠れた要求を含むユーザーの目的を明確化すると同時に、その目的を達成するための手段(サブゴール)を明らかにするのです。
実際には、ゴールモデルは今回挙げた例のようには簡単に出来上がるものではありません。しかし、このモデルがステークホルダー間で合意できたときには、その後の作業において「実際のシステムの柱となる部分」や「システムが達成する目的」に関してぶれが生じることはないでしょう。
今回は、これまで紹介してきたさまざまな分析の結果を具体的な解決手段に結び付けるツールとして、ゴールモデルを紹介しました。
次回は、いよいよ本連載の最終回となります。ゴールモデルが完成した後、どのような分析を行うかを簡単に見ていただき、今後のMOYAが進む方向について述べたいと思います。
平岡 正寿(ひらおか まさとし)
株式会社NTTデータ 技術開発本部 ソフトウェア工学推進センタ 課長
筑波大学大学院教育研究科修了。
SIerやコンサルティング会社を経て、2004年NTTデータに入社。
当初、アーキテクト部隊に所属していたが、SIerにおける上流工程の重要性を強く意識し、MOYAのチームに参加。以降、MOYA自体をブラッシュアップするとともに、多くの現場で実践を続けている。
MOYAポータルサイト: http://www.nttdata-moya.jp/
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