ユーザーの「世界観」を見極めるためには隠れた要求を見極める!(4)(1/3 ページ)

システムにかかわる各ステークホルダーの思いをくみ上げ、調整するには、それぞれが持つ「世界観」の相違を見極める必要がある。そのために役立つツール「CATWOE」(キャトゥ)の活用法を紹介する。

» 2008年01月10日 12時00分 公開
[並川顕,株式会社NTTデータ]

錯綜する各ステークホルダーの思い

 第2回第3回に引き続き、今回も結婚相談所を営む顧客へのシステム提案の仮想事例を用いて、要求定義に役立つ思考ツールを紹介したいと思います。今回紹介するのは、「CATWOE」(キャトゥ)というツールです。

 まず、下記のような状況を想像してみてください。

 あなたはいま、顧客が抱えている根深い問題を探り当て、その問題を解消できるようなシステムを提案したいと思っています。カウンセリング時間についてのヒアリングは前回で一段落つき、いまは結婚相手の希望条件についての話題に移っています。

 あなたはこれまでの現状業務分析で、次のような業務の流れを理解しています。

  • 会員(会員Aとする)は、入会する際に結婚相手の希望条件(年齢や年収など)をアドバイザーに伝える。
  • アドバイザーは希望条件にマッチした異性会員を会員データベースから検索し、会員Aに書類でプロフィールを紹介する。
  • 会員Aは、紹介された異性会員(会員Bとする)が気に入った場合、アドバイザーにお見合い手配を申し込む。
  • アドバイザーは、会員Bの意向を確認の上、会員Aと会員Bのお見合いを手配する。

 この年齢・年収といった希望条件に関してさらに詳しく尋ねてみると、アドバイザーは次のようにいいました。

「最近の傾向として、高い条件を希望する会員さまが多いですね。晩婚化の影響もあるのでしょう。ですが、ご自身の条件に比べてあまりにも理想が高い方は、大抵うまくいっていません。若くて年収が高いといった良い要件をお持ちの方は、当然お相手として希望する方の条件も高くなります。ですから、ご自身の要件がさほどでもないにもかかわらず理想の高い方が条件の良い方を希望されても、お見合いの前に断られてしまうケースがほとんどです。理想の高い方には、できるだけ条件を下げるようにお勧めするのですが、受け入れていただけない方は最終的に退会されてしまうことが多いですね。最近はそういった会員さまも大勢いらっしゃいまして、今それが一番の悩みなんです」

 たしかに理想が高いとうまくいかないのはもっともだ、とあなたは思いました。しかし、会員が辞めていくという事態は重く受け止めなくてはなりません。どんなに素晴らしいシステムを納品しても、顧客のお客さまである会員が満足できなければ、価値は半減です。

 アドバイザーと会員の双方にはそれぞれの思いがあるのでしょう。その思いのズレを乗り越え、両者を満足させるような解を見付けられないだろうか、とあなたは頭を悩ませています……。



 前回は社長とアドバイザーの思いのズレを題材にしましたが、今回は会員とアドバイザーの思いのズレを題材にしています。通常、システム開発にはこのように社内外のさまざまなステークホルダーが絡んできます。錯綜(さくそう)する各ステークホルダーの思いからどのように要求をすくい上げていくか、これがポイントです。

 会員は何を期待してこの結婚相談所に入会し、何に失望して退会していくのでしょうか? 会員は、この結婚相談所が何をしてくれると思っているのでしょう? そして、アドバイザーはこの結婚相談所が何をするべきだと思っているのでしょう?

 この問いに対して、「この結婚相談所は会員に結婚相手を紹介し、成婚に導くところである」と答えてみても、問題は見えてきません。思いのズレを見極めるためには、それぞれのステークホルダーの立場の違いを念頭に置きながら、もう少し踏み込んで考えてみる必要があります。

CATWOEの6つの視点

 ここで、CATWOE(キャトゥ)というツールをご紹介します。CATWOEは、以前ご紹介したXYZ公式やリッチピクチャーと共に、SSM(ソフトシステムズ方法論)で用いられる思考ツールです。ただ、非常にシンプルな構造であるXYZ公式やリッチピクチャーとは異なり、CATWOEは若干複雑ですので、初めはやや取っつきにくく感じるかもしれません。しかし、複雑なツールは一度慣れてしまえば逆にたやすく使えるものです。それほど構える心配はありません。

 なお、ソフトシステムズ方法論については本稿では解説を行いませんが、興味のある方は以下の記事などを参照してください。

 CATWOEは「活動」を表現するツールです。「活動」とやや形式ばった表現をしましたが、これは「サービス」という言葉に置き換えても構いません。例えば、病院は病人に対して病気を癒やすサービス(活動)を、喫茶店はのどが渇いた人に飲み物を提供するサービス(活動)を実施している、といったように表現できます。

 CATWOEでは、こういった活動を次の6つの視点から表現していきます。

6つの視点 意味 喫茶店を例にとると?
Customers
(受益者、犠牲者)
その活動によって利益を受ける人、あるいは損害を被る人。 のどの渇いたお客さま
Actors
(実行者)
その活動を当事者として主体的に実行する人。 店員
Transformation process
(変換)
活動そのものを「変換する」という行為で表現する。「変換」そのものを記述するわけではなく、変換前状態(T-pre)と変換後状態(T-post)を記述することによって表現する場合が多い。 T-pre:お客さまののどが渇いている

T-post:お客さまののどが潤っている
Worldview
(世界観)
この活動に意味があると考えるのはなぜか、というよりどころとなる考え方、価値基準。 喫茶店は飲み物を提供し、のどの渇きを癒やす場所だ
Owners
(責任者)
この活動の実行を指示したり中止させることのできる力を持っている人、責任者。 店主
Environmental constrains
(環境制約)
この活動の実行に影響を与える、外部から与えられている条件。与件。 店舗の近くに公園があり、運動をする人が多い

 6つの視点それぞれの意味は、表中にあるとおりです。さらに理解しやすいように、例として喫茶店のサービス(活動)をCATOWEの6つの視点で表現してみました。

 なお、CATWOEの名前は上記6つの視点(Customers、Actors、Tranformation process、Worldview、Owners、Environmental constrains)それぞれの頭文字をとって命名されています。

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