ユーザーの「世界観」を見極めるためには隠れた要求を見極める!(4)(2/3 ページ)

» 2008年01月10日 12時00分 公開
[並川顕,株式会社NTTデータ]

Worldview(世界観)の違いを見極める

 CATWOEの6つの視点のうち、とりわけ大切とされているのは「Worldview」(世界観)です。Worldviewによって、活動の持つ意味がまったく変わってくるためです。

 先ほどの表に出てきた喫茶店の例で考えてみましょう。まず、表中に提示した例では、この喫茶店を「飲み物を提供し、のどを潤す場所」としています。このとらえ方をまずWorldviewとして表現しています。従って、この喫茶店を「Transformation process」(変換)の視点から解釈すると「のどが渇いているお客さま」を「のどが潤っているお客さま」に変換する活動であると、おのずから定義できます。

 ところが、喫茶店の活動のとらえ方は、CATWOEを記述する当事者によって変わります。例えばある人は、喫茶店を「座る場所を提供し、疲れを癒やす場所」と考えるかもしれません。そのようにWorldviewを定義した場合、この喫茶店のTransformation processは、「歩き疲れたお客さま」を「休息をとったお客さま」に変換する活動と意味付けられます。これは「飲み物を提供し、のどを潤す場所」という最初の活動の定義とはまったく意味合いが異なります。

 つまり、どのようなWorldviewを持つかによって、活動の持つ意味合いが変わる、ということです。ですから、Worldviewを見極めることが肝要とされているのです。

 人はWorldviewの違いによってさまざまな対立を引き起こします。ある人は喫茶店を「友人とおしゃべりをして楽しむ場所」というWorldviewを持っていたとします。また別のある人は、喫茶店を「静かにコーヒーの味と香りを楽しむ場所」というWorldviewを持っていたとします。この両者が居合わせたとき、もしかしたらちょっとした口論が起こるかもしれません。この口論(対立)は、Worldviewの相違に端を発したものです。

 システム開発における顧客の要求についても同じことがいえます。ヒアリング先によって主張が変わることがあるのも、各人が持つWorldviewが異なるためです。そうした状況を突破する糸口は、各ステークホルダーのWorldviewの違いを見極めることによって見付け出すことができます。

CATWOEを使った分析の実例

 では、実際に結婚相談所の事例にこのCATWOEを適用してみましょう。

 下図は、結婚相談所の活動をCATWOEで図示したものです。前述したように、会員とアドバイザーとの間にある思いのズレに注目してください。

ALT 図1 結婚相談所のCATWOE

 Customers(受益者、犠牲者)は会員、Actors(実行者)はアドバイザー、Owners(責任者)は社長であると表現できます。ここまでは、特に問題ないでしょう。

 アドバイザーも会員も、この結婚相談所を「理想の相手に出会えない会員」を「理想の相手に出会えた会員」に変換する活動、すなわち「理想の相手との出会いを提供する」活動であると考えています。この点に関しても一致しているでしょう。しかし、その裏にあるWorldviewは、果たして一致しているのでしょうか?

各ステークホルダーの立場で考えてみる

 まず、アドバイザーの立場で考えてみます。なぜアドバイザーは会員に希望条件を下げるように勧めるのでしょうか? 希望条件はお見合い相手を探すための、キーとなる重要な情報です。希望条件を変えると、お見合い候補もがらりと変わってくることでしょう。それにもかかわらず希望条件を下げるよう勧めるのは、結局のところアドバイザーは、年齢や年収といった通り一遍の情報にはあまり意味がないと考えているからではないでしょうか?

 アドバイザーは、理想の相手は指定した条件に基づいて与えられるのではなく、結局はお見合いを繰り返して見付けていくものだと考え、会員に希望条件の変更を勧めます。つまり、「理想の相手は会ってみて初めて分かる」というWorldviewをアドバイザーは持っていると考えられます。

 それに対して会員は、「理想の相手」とは自分の思い描く理想像に合致した人であり、その理想像を表現した希望条件から外れた相手は意味がないと考え、条件変更を拒むのです。つまり、「理想の相手、イコール、自分の思い描いた理想像に合致した人」というWorldviewを会員は持っていると考えられます。

 結局のところ、「理想の相手に出会う」という目的は一致しているのですが、「理想の相手」に対するWorldviewの相違があり、これが会員の退会へとつながっていることが窺えます。

分析の結果得られる「気付き」

 会員が条件に固執してしまうことが問題なのですから、条件に固執しないような方向に導くことが必要です。解決手段としては、入会時やカウンセリング時に「理想の相手」や「希望条件」の考え方についてアドバイザーから会員にしっかりと説明する、などといった情報システムとは無関係の解が考えられます。しかし、問題の背景を理解できたのであれば、システムによって解決を導く手立ても浮かんできます。例えば、年齢・年収などの通り一遍の情報だけではなく、趣味や特技、好きな食べ物やお気に入りの有名人など、自分の好きなことをシステムに登録したり検索できるようにしたとします。そうすれば、さまざまな価値観から相手を探すことができるため、結果として会員は年齢・年収の条件にあまりこだわらなくなるかもしれません。

 このように、CATWOEでシステムの対象となる業務をとらえてみることによって、顧客の主張の背景が理解できたり、各ステークホルダー間の対立点を明確にできたりと、さまざまな気付きを得ることができます。この気付きは、顧客の要求を的確にとらえたシステム提案のために、必ず役に立ちます。

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