仮想サーバ管理問題を解決する、HPのSSUサービス開発・テスト環境を入り口に、ITシステム全体を標準化

» 2008年03月04日 00時00分 公開
[西村賢,@IT]

 仮想化の利用が進む中で新たな問題が生じている。「仮想化の利用は、あまりに簡単で便利なので、仮想サーバを次々と作って物理・仮想サーバの管理が複雑化している」。そう語るのは日本ヒューレット・パッカード(HP)の内田恵氏(コンサルティング・インテグレーション統括本部 ソリューション戦略本部)だ。現在、物理サーバ1台当たりで8〜10と多数のOSが載るケースも珍しくなく、「まったく管理できなくなりつつあるというのがグローバルなトレンド」(内田氏)という。

 同社が提供する「SSU」(Shared Service Utility)は、こうした課題を解決するソリューションだ。仮想サーバを必要なときに必要なだけ半自動的に用意して利用するフレームワークを提供する。

日本ヒューレット・パッカード コンサルティング・インテグレーション統括本部 ソリューション戦略本部ソリューション戦略部 2部の内田恵氏

 SSUのシステムは、大きく分けて2つのグループからなる。プロビジョニングサーバをはじめとする管理サーバ群と、仮想サーバを作成・運用するためのリソースサーバ群の2つだ。プロビジョニングサーバが持つポータルサイトでユーザーからの仮想サーバの利用申請を受け取り、管理者による承認フローを経て仮想サーバを自動作成する。実際の仮想サーバの作成は、プロビジョニングサーバからHP-UX管理サーバ、VMWare管理サーバにコマンドを発行する形になる。ストレージについても、「HP StorageWorks EVA」などのストレージプールから必要量を切り出す。ただし、現状では仮想サーバとして自動生成できるのはOSがインストールされたサーバまでで、ミドルウェアやIDEのセットアップまでは行えない。また、SSUは数百万〜6000万円程度のサービスだが、ハードウェアやプロビジョニングサーバ以外のOSや仮想化ソフトウェアのライセンス料は含まない。

SSU(Shared Service Utility)の概要

ITサービスの標準化とカタログ化を進める第1歩

 SSUの特徴の1つは、同社が内製ソリューションとして作成したものを外販するサービスであることだ。HPでは「ITシェアードサービス」のサービス総称の元に、組織内のITサービスを統合して共有化する変革を社内で進めている。データセンターを統合し、インフラやミドルウェアの標準化やモジュール化、デプロイの自動化を行うことで、IT部門が組織内で提供している各種サービスをカタログ化。ワークフローも合わせてカタログ化することで、コスト削減を進めている。特にインフラやアプリケーションの維持・運用という部分のコストを削減することで、新規アプリケーション開発やインフラ革新にIT予算をふり向けようという考えだ。

 HPでは、部門ごとにサイロ化が進展したハードウェア、アプリケーションなどのITシステムを集約、標準化して効率よく運用する「シェアードサービス組織」という組織のあり方を提案している。IT部門が、各部門ごとにSLAを結んだり結ばなかったりしてITサービスを提供するのではなく、ユーザーとなる各部門がカタログ化したメニューからサービスを選択、申請することで、無人運用のリソースプールからITサービスを提供する、という考え方だ。このサービスメニューには、外部のITサービス供給者のメニューが入ってくることもあり得る。SaaSというアプリケーションの配布形態は、シェアードサービスのモデルがアプリケーションレイヤで始まっていると考えることもできる。同社は今後、こうしたITサービスのメニュー化による自動提供は、さまざまなレイヤで進むと見ており、最終的にはエンド・ツー・エンドでインフラからアプリケーションの開発、運用まで含めてライフサイクル管理を行うようになるだろうという。

ITシェアードサービスは、サイロ化したITシステムの集約、標準化、共有化を進めるという

自社のベストプラクティスを外販

 SSUはITシェアードサービスという大きな全体像からすれば一部分に過ぎないが、同社では「SSUをトリガーとしてITシェアードサービスを使ってみて欲しい」(内田氏)としている。

 SSUは開発・テスト環境向けの仮想サーバの管理運用を行うフレームワークだ。仮想サーバの構成はCPU数やメモリ、ディスク容量によって「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」の3種類に絞られている。「その都度、現場とミーティングして要件を聞いてから構成を決定すると時間がかかる」ため、HP内での同システムの使用経験からメニュー構成をあえて少なくしているという。ITシェアードサービスにおいて、こうした標準メニューを採用するメリットは「短納期化」「サービスレベルの均一化」「実証されたノウハウの適用」「中長期的なITトレンドを見据えたプラニング」が可能となることにあるという。また、これまで手作業が入っていたプロセスを自動化することで、人為ミスやノウハウの人依存を防ぐメリットもある。標準化を進めることで、IT部門の管理の目の届かない場所で現場スタッフが自前でサーバなどを用意してしまう、いわゆる“シャドーIT”の問題の解決につながるという。

 例えば、SSUでは組織内課金の仕組みを持たないため、申請時に最高スペック「ゴールド」の仮想サーバの申請が過半となることが予想される。こうしたことからHPでは「ゴールド」の申請はリソースプールの管理権限を持つ管理者にのみ許可している。また、申請時の利用期限日が過ぎた場合でも、仮想サーバを消滅させるのではなく、利用延長申請を促すメールを利用者に出すなど、現場のニーズをくみ取ったサービスとなっている。また、SSUではイメージのバックアップやスナップショット機能、Windows、HP-UX、VMwareの混在環境でActive Directoryを拡張した統合認証機能なども提供するなど、「ベストプラクティスとして、オールインワンで提供していく」(内田氏)という。ストレージやバックアップツール、管理ツールなどは既存インフラとの連携も可能だが、「パッケージで導入していただいたほうが短納期」(同)と、同社は標準パッケージ導入のメリットを強調する。

 同社はSSUソリューションの開発を中国・大連の開発拠点で2007年初頭に開始。2007年11月に実運用を始めた。現在はブレードサーバ6台、ラックマントWindowsサーバ6台、ラックマウントHP-UXサーバ7台という構成で総OS数100程度(うち30個が管理用OS)の統合開発環境を運用しているという。ストレージサイズはRAID 5で15TB。2007年11月から2008年1月の時点で、HP-UX環境はほぼ全部貸し出し状態、IA環境は8分の1が稼働中だという。

SSUの申請画面。多くのメニューを選択式にすることで標準化。サーバ仕様決定のプロセスを短くできるほか、人為ミスを減らせるという
現在HPの大連にある拠点で稼働している開発環境のハードウェア構成例。ラック3本分で総OS数70程度の開発・テスト環境向けサーバの管理・運用を行っているという

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