IT経営を実践できる人材を見抜く術公開! IT経営実践ノウハウ(2)(2/2 ページ)

» 2008年03月10日 12時00分 公開
[齋藤 雅宏,@IT]
前のページへ 1|2       

主体性を持つ人材を探して

 わたしは社会人になる前からいつか起業することを夢見ていましたので、どんな仕事でも『自分の仕事』として主体性をもって取り組んでいました。そういう仕事ぶりを見て、多くのベンチャー企業の社長から「われわれ起業家と同じマインドをお持ちですね。大企業の人とは思えない」とよく言われました。

 わたしは自分自身を成長させていく過程で“のりしろ”人材としての素養を身に付けてきましたが、常にその根底には“起業家マインド”があり、どんなことも将来の糧になると信じて、貪欲(どんよく)に取り組んできました。

 何も手本がないところから始めたので、“のりしろ”人材としてのポジションを確立するまでにかなりの時間を費やしました。そうなったころにはいい年齢でしたので、当然会社からは“のりしろ”人材の観点で新人の採用や部下を育成するよう求められました。

 しかしこのとき、大きな壁にぶつかってしまったのです。周りを見渡しても、社外の人と面談しても、のりしろ人材の素養(起業家マインド)を持った人はそういなかったのです。

 いまもよく「どうやってのりしろ人材を見つけるのか?」と聞かれますが、結論からいうと、素養の種となる気質を持っている人を見つけて、ひたすら磨いていくしかないのです。

 「主体性があって、創造性豊かで、リーダーシップがあって、営業センスがあって、管理能力があって、数字に強くて……」とすべてを求めてはいけないことを早々に知ったことは、いまとなっては良かったと思います。ですが、あのときは本当に苦労しました。

 どうすれば“のりしろ”人材を見つけることができるのか?

 どうすれば短期間で“のりしろ”人材に育てることができるのか?

 試行錯誤の連続でしたが、1つ1つこなしていくうちに、自分なりの成功パターンが見えてきました。

 例えば、“のりしろ”人材を見分けるポイントは以下のとおりです。

ポイント 根拠
1.料理が得意な人 仕事の進め方として重要な段取り力
2.仕事と私用の線引きが明確な人 効率性重視の姿勢
3.話し方が論理的な人 仕組みの構築に不可欠な論理性
4.お金の話が好きな人 数字に強いフィナンシャルリテラシー能力
5.気は強いけれど、基本的に素直な人 成長力を秘めた性格
6.新しいモノ好き 未踏の世界でも気負いなく踏み込む好奇心
……など

 これがすべてではありませんが、わたしの経験から生まれたチェックポイントの例です。統一感がないように見えますが、実際に現場に出てみると、こういう気質を持った人ほど、短期間で“のりしろ”人材として花開く場合が多いので、けっこう当たっているのだと自負しています。

“のりしろ”人材は「時間の使い方」で分かる

 “のりしろ”人材には起業家マインドが必要といいましたが、決して会社を興せといっているわけではありません。起業家マインドのうちIT経営プロジェクトの推進に必要なものがあればよいので、“のりしろ”人材の育成に必要な環境といっても、何もベンチャー的環境まで作る必要はありません。いまある環境をどううまく活用するかが重要です。

 この点については、わたしが商社の事業企画部時代の上司の考え方である「常に自分に与えられた時間の2割は研究のために使うこと」が秀逸で、いまでも忘れることがない金言となっています。

 このような環境を与えられた場合、人はおおむね2つのパターンに分かれます。1つはただ単に楽をするグループ、もう1つは2割では足りず、自助努力で8割部分についても効率化を図って余裕を生み出し、与えられた2割と捻出(ねんしゅつ)した時間を使って、徹底的に研究を行うグループです。起業家マインドを持っている人たちは間違いなく後者のパターンです。

 こういう環境を与えると、通常は見えない“のりしろ”人材の素養を持った人間が浮き彫りになりますので、皆さんもぜひ試してみてください。実はわたしもこのプロセスで見いだされたのです。

 失われた10年を経て、業績を回復させた企業ではその苦しみの間に、一切のムダ(本当は余裕)が省かれてしまいました。前述の2割+αの部分こそ、創造性や変革を生み出す知恵の苗床となるのですが、あまりにもギスギスとした職場環境では、2割の余裕すら認める雰囲気がありません。

 その一方で、「イノベーションにより生産性を向上」といいますが、そのための知恵が現場にほとんど存在しないことを経営者は気付いていないのでしょうか?

“のりしろ”人材を輩出しなければいけない理由

ALT 差し出された手は、救いか否か……

 これまでユーザー企業の話が中心でしたが、今回の話題で一番気になっているのがIT業界の今後です。

 最近、プロジェクト開始時のユーザー企業側の期待、その結果のギャップがあまりにも大きくなっていることが原因で、IT経営プロジェクトでトラブルが非常に多くなっています。ユーザー企業のプロジェクトマネージャがほぼ素人レベルなので、外部委託先に過度の期待をする傾向があるのです。

 戦略の検討を依頼したコンサルティング企業には、救世主として何があっても助けてくれることを期待していますし、システム構築全般を依頼したシステムインテグレータには、コンシェルジュとして何から何まで対応してくれることを期待しています。

 しかし、プロジェクトが進むにつれ、理想と現実の乖離(かいり)に驚き、裏切られた思いが恨みに変わり、凄惨(せいさん)な状況へと発展していく──そんな場面を何度も見てきました。確かに、ユーザー企業側の問題が一番大きいですし、さすがにユーザー企業もそのことに気付いて勉強を始めようとしています。そして将来、ユーザー企業が変わってきたとき(IT業界の化けの皮がはがれたとき!?)、IT業界の皆さんはどうすべきなのでしょうか?

 続きは次回となります。ご期待ください!

著者紹介

▼著者名 齋藤 雅宏(さいとう まさひろ)

ライト・ハンド株式会社

1992年に三菱商事(株)に入社し、システム開発部に配属される。数百万ステップ規模の会計系基幹システムの開発・保守に従事。その後、食品VANの開発、ECサイトの企画・開発、新規事業の立ち上げ、事業投資先の経営支援、内部統制構築など、各種案件を経験する。これらの経験をノウハウ化すべく、2001年10月から2004年3月まで東京工業大学 社会理工学研究科経営工学専攻の非常勤講師に就任し、事業創造論を学部生および院生に指導。2007年、三菱商事(株)退社後は、ベンチャー企業へのハンズオン型経営支援(支援例:(株)クエスト・ワン)を通じて、『IT経営実践』の普及をライフワークとしている。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ