バリューストリーム・マップ(ばりゅーすとりーむ・まっぷ)情報システム用語辞典

VSM / value stream map / 価値の小川マップ / 価値の流れ図 / 物と情報の流れ図

» 2008年03月24日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 リーン生産方式リーンソフトウェア開発において、生産や物流、ソフトウェア開発などの工程を改善する際に、現状を把握し将来のあるべき姿を明確にするために作成されるプロセス図のこと。もともとはトヨタ生産方式における手法で、トヨタ自動車では「物と情報の流れ図」という。

 バリューストリーム・マップは、特定の製品(製品ファミリー)が原材料が加工されて顧客の手に渡るまでの全工程の経路と、各工程がどこからの指示で実施されるのかを示したものである。描く場合は改善対象となる工程だけでなく、前後のつながりが分かるように1次仕入先から納入先(顧客)までのすべてを工程順に左から右に並べる。工程はボックス状に表し、工程名とその稼働時間、および生産リードタイムを付記する。そして、それら工程に対する引き取りや仕掛け指示の情報発生源を示し、同時に情報伝達手段や頻度を記載する。

ALT バリューストリーム・マップのイメージ(この例はリーン方式らしからぬプッシュプロセスだが、もちろんプルプロセスを表現することもできる)

 バリューストリーム・マップを作成することによって、諸工程の中で顧客に対する付加価値を生み出している活動とそうでない活動が顕在化されるので、非付加価値活動に潜むムダを排除し、リードタイム短縮や中間在庫削減を目指す。バリューストリーム・マップを使って工程改善を行う技法をバリューストリーム・マッピングといい、リーン生産方式のツールキット、リーンソフトウェア開発の思考ツールの1つに数えられている。

 バリューストリーム・マップによる改善手順はまず、改善対象とする製品ファミリーを選び、現状マップを作成する。現状マップを描くうちに改善案を思い付くのでこれを反映した将来マップを作成する。将来マップを描くうちに現状マップでの見落としに気付くこともあるので、これは現状マップに反映する。こうして現状把握と改善策ができ上がってきたら、実現可能な実行計画書を作って改善を実行していく。

 バリューストリーム・マップのワークブックである「Lean to See」(マイク・ローザー(Mike Rother)、ジョン・シュック(John Shook)著/1998年)では、「自分自身で実際のモノの流れに沿って歩きながら、現状の情報を収集する」「出荷場から始めて上流工程へ向かう」「常に鉛筆を使って手で描く」ことなどを秘訣(ひけつ)として挙げている。ただし、バリューストリーム・マップを描く専用ソフトウェアも存在する。

 リーンソフトウェア開発では、主として時間線(リードタイムなどを記した部分)に注目した形で使われる。リーン開発の主唱者、ポッペンディーク夫妻(Mary Poppendieck、Tom Poppendieck)の著書では、バリューストリーム・マップの時間線は「リードタイム−付加価値時間」ではなく「付加価値時間+待ち時間」の形で表現されている。

参考文献

▼『ムダなし企業への挑戦――リーン思考で組織が若返る』 ジェームス・P・ウォーマック、ダニエル・T・ジョーンズ=著/稲垣公夫=訳/日経BP社/1997年6月(『Lean thinking』の邦訳)

▼『リーン・シンキング』 ジェームス・P・ウォーマック、ダニエル・T・ジョーンズ=著/稲垣公夫=訳/日経BP社/2003年2月(『Lean Thinking』の邦訳改題再版)

▼『トヨタ生産方式にもとづく「モノ」と「情報」の流れ図で現場の見方を変えよう!!』 マイク・ローザー、ジョン・シュック=著/成沢俊子=訳/日刊工業新聞社/2001年8月(『Lean to See』の邦訳)

▼『ザ・トヨタウェイ実践編〈上〉』 ジェフリー・K・ライカー、デイビッド・マイヤー=著/稲垣公夫=訳/日経BP社/2005年11月(『The Toyota Way Fieldbook』の邦訳)

▼『トヨタ製品開発システム』 ジェームズ・M・モーガン、ジェフリー・K・ライカー=著/稲垣公夫=訳/日経BP社/2007年2月(『The Toyota Product Development System: Integrating People, Process and Technology』の邦訳)

▼『リーンソフトウエア開発――アジャイル開発を実践する22の方法』 メアリー・ポッペンディーク、トム・ポッペンディーク=著/平鍋健児、高嶋優子、佐野建樹=訳/日経BP社/2004年8月(『Lean Software Development: An Agile Toolkit』の邦訳)

▼『リーン開発の本質――ソフトウエア開発に生かす7つの原則』 メアリー・ポッペンディーク、トム・ポッペンディーク=著/平鍋健児=監訳/高嶋優子、天野勝=訳/日経BP社/2008年2月(『Implementing Lean Software Development: From Concept to Cash』の邦訳)


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