ユースケース(ゆーすけーす)情報システム用語辞典

use case

» 2008年06月24日 00時00分 公開

 システムを表現する方法の一つ。検討・開発しようとしているシステムの機能を外部利用者(アクター)(注1)とのインタラクションとしてとらえ、対象システムが取り得る、状況に応じたさまざまな振る舞いをまとめたもの。

 ユースケースは特定のアクターの視点でシステムの外部機能を記述するもので、一般にシステムへの要求仕様を表現するツールとして利用される。ここでいうシステムは“振る舞い(behavior)を持つもの”であって、コンピュータシステム(情報システム)のほか、その要素であるサブシステムやコンポーネント、クラスを想定してよい。あるいはビジネスシステム(会社組織など)のような人間系を含む大きなシステムを対象とすることもできる。ただし、その振る舞いや動作をどのように実現するのかというシステム内部の処理や構造、および非機能要求は含まない。

 ユースケースの詳細は通常、ユースケース記述として文章で表現されるが、必要に応じてシーケンス図やコラボレーション図、アクティビティ図などの図形表記を用いたり、数学的に厳密な記述を行ってもよい。これらの詳細なユースケースはアクターの目的が達成された場合の流れだけでなく、達成されなかった場合のシナリオ(イベントフロー)も記述する。すなわち、ユースケースは多様な筋書きによって構成された“シナリオの集合”といえる。

 対象システムに複数のアクター/ユースケースがあるとき、それら要素同士の相互関係(関連、汎化・拡張・包含)を明らかにするために、ユースケース図が用いられる。アクターとユースケースを要素とするモデルを「ユースケースモデル」という。

 ユースケースは一般に情報システムの要求分析・要求定義に利用されるが、上記のようにビジネスモデル表現としても使えることから、BPRや組織設計にも応用できる。

 ユースケースという概念を考案したのは、スウェーデンの技術者 イヴァー・ヤコブソン(Ivar Jacobson)である。1967年に通信機器メーカーのエリクソンに入社したヤコブソンはAXE電子交換システムなどの通信システムの開発を担当していた。このころからユースケースの原型となる構想を持っていたようだが、外部に公表したのは1986年に開催されたオブジェクト技術の国際会議OOPSLA '86に提出した論文が最初とされる。ヤコブソンは1987年にオブジェクトリーAB社を設立して、Objectory方法論とそのCASEツールの開発に乗り出し、1992年には同方法論のエッセンスをまとめたOOSE(オブジェクト指向ソフトウェア工学)を提唱、『0bject-Oriented Software Engineering』として出版した。

 ヤコブソンのObjectory≒OOSEでは情報システムを構築するに当たり、「要求モデル」「分析モデル」「設計モデル」「実装モデル」「テストモデル」を順次、開発する。このうちの最初に作られる要求モデルは「ユースケースモデル」「インターフェイス記述」「問題ドメインモデル」からなり、ユースケースによって構築プロセスやテストプロセスを制御する形になっていた。このアプローチを「ユースケース駆動開発」という。

 オブジェクトリーABは1996年に米国ラショナルソフトウェア(現IBM)と合併したことから、Objectory方法論はほかのオブジェクト指向方法論と統合されてRUPへと進化し、ユースケースもその中核的な概念として受け継がれた。この統合化作業の中から生まれたきたUMLもユースケース図を取り入れている。UML 2.0ではユースケースを「システムによって提供される機能の首尾一貫した単位を表す、一種の分類子」と位置付けている。

参考文献

▼『オブジェクト指向ソフトウェア工学OOSE――use-caseによるアプローチ』 I・ヤコブソン、M・クリスターソン、P・ジョンソン、、G・ウーバガード=著/西岡利博、渡邊克宏、梶原清彦=監訳/トッパン/1995年9月(『0bject-Oriented Software Engineering: A Use Case Driven Approach』の邦訳)

▼『UMLユーザーガイド――最新のUML1.3準拠』 グラディ・ブーチ=著/オージス総研オブジェクト技術ソリューション事業部=訳/ピアソン・エデュケーション/1999年11月(『The Unified Modeling Language User Guide』の邦訳)

▼『ユースケースの適用――実践ガイド』 ゲリ・シュナイダー、ジェイソン・ウィンターズ=著/羽生田栄一=監訳/オージス総研=訳/ピアソン・エデュケーション/2000年3月(『Applying Use Cases: A Practical Guide』の邦訳)

▼『UMLモデリングのエッセンス――標準オブジェクトモデリング言語入門 第2版』 マーチン・ファウラー、ケンドール・スコット=著/羽生田栄一=監訳/翔泳社/2000年4月(『UML distilled』の邦訳)

▼『ユースケース実践ガイド――効果的なユースケースの書き方』 アリスター・コーバーン=(著)/ウルシステムズ、山岸耕二、矢崎博英、水谷雅宏、篠原明子=/翔泳社/2001年11月(『Writing Effective Use Cases』)

▼『UML 2.0仕様書――2.1対応』 Object Management Group=著/西原裕善=監訳/オーム社/2006年11月(『Unified Modeling Language specification』の邦訳)


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