ランチェスター戦略(らんちぇすたーせんりゃく)情報マネジメント用語辞典

Lanchester strategy / ランチェスター販売戦略

» 2008年07月01日 00時00分 公開

 軍事理論であったランチェスターの法則(注1)を販売・マーケティングに応用した経営理論。特に市場シェア理論や射程距離理論などを含む、田岡信夫を中心に体系化が進められた“田岡ランチェスター”を指す。

 ランチェスター戦略では市場シェアの状況、その企業の市場における地位、競合企業との力関係によって取るべき施策は変わると考える。市場シェアの大きな“強者”はそのシェアを守るため、市場シェアの小さな“弱者”は限定的な範囲でもナンバーワンになることを目指して、経営資源の配分を行う。ランチェスター戦略はどの市場を狙うかといった戦略レベルの意思決定のほか、局地戦レベル――すなわちセールス担当者の営業活動についても論じられており、非常に広範で体系的な経営理論になっているのも特徴である。

 ランチェスターの法則は、戦場における戦力の損耗率を説明する数理モデルとして英国で誕生したものだが、後に米国で戦略レベルでの戦力配分に関する最適解を導き出す方程式に発展した。それがさらに日本で企業経営の競争戦略理論に適用され、ランチェスター戦略が誕生した。

 ランチェスターの法則を企業の経営理論に読み替える動きは、1960年前後から活発になったが、初期には“強者の理論”と看做されることも多く、競争条件が不利な会社はその市場を撤退するなどすべきという論調が多かった。

 1962年、セールスプロモーションビューローの調査部長だった田岡信夫は高野山・西門院で開催されたセミナーで、統計学者の斧田太公望とランチェスター戦略モデル式を企業の競争戦略に当てはめる方法を徹底的に議論した。そうした研究の結果、田岡・斧田はランチェスター戦略モデル式の戦力m/nを企業の競争力=市場シェアと読み替え、戦術力mt/ntを直接力=営業力・資金力、戦略力ms/nsを間接力=開発力・宣伝力、生産・補給力P/Qを顧客の潜在プール=市場シェアとして連立編微分方程式を解き、シェアの目標数値や射程距離理論の√3などの数値を導き出した。

 シェアの目標数値は競争企業の市場地位を判定するための指標であり、射程距離理論は競合企業との戦力差(営業力や市場シェアの差)がどの程度かによって、逆転が可能かどうかを判断する理論である。これらによって市場の状況、自社の市場地位、競合企業との力関係を測り、意思決定を行っていく。

 ランチェスター戦略は3つの戦略原理を掲げる。その第1は「ナンバーワン主義」で、地域・得意先・商品などでナンバーワンになることを目指す。経営資源が限られている“弱者”であれば、特定の地域・得意先・商品に集中してシェアの目標値に定められた市場シェアを目指す。戦略原理の第2は「競争目標と攻撃目標の分離」で別名“弱いものいじめの原理”である。これは企業が競争を考えるとき、自社よりも上位企業を攻撃対象と考えることが多いが、これは“競争目標”であって真の“攻撃目標”は自社よりも下位にある競合であるとするものである。第3の戦略原理は「一点集中主義」で攻撃目標の決定方法を論じたものである。

 ランチェスター戦略は、市場シェアナンバーワン=市場における安定的地位を目指す戦略理論だが、すでにその地位を築いている企業とそうでない企業では取るべき戦略は異なるとする。後者が取るべき戦略は「弱者の戦略」といわれ、その基本は差異化(差別化)である。商品・サービス・チャネル・地域で競合他社と違いを生みだし、そこに資源を集中して局地戦(個別の商談など)で負けない体制を作ることが重要となる。

 他方、市場シェアナンバーワンの企業は(通常は)強者である。市場の強者は「強者の戦略」をもって戦うことになるが、その基本はミート戦略である。これは余力のある企業体力を生かして、差異化を図る競合他社の打ち手に追随する方法だ。何かの局面でナンバーワンの地位を脅かそうとする競合が現れたら、同分野の商品を展開したり、狭い地域に封じ込めたり、スケールメリットを生かした方法で圧倒したりといった施策が考えられる。

参考文献

▼『企業間競争と技術』 昭和同人会=編/東洋経済新報社/1960年12月

▼『競争市場の販売予測――ランチェスター戦略から情報管理まで』 田岡信夫=著/ビジネス社/1971年11月

▼『ランチェスター戦略入門』 田岡信夫=著/ビジネス社/1972年12月

▼『競争に勝つ科学――ランチェスター戦略モデルの発展』 斧田大公望=著/開発社/1980年1月

▼『ランチェスター思考――競争戦略の基礎』 福田秀人=著/ランチェスター戦略学会=監修/東洋経済新報社/2008年12月


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ