「収益に貢献する」コールセンター運用の鉄則コールセンターマネジメントとIT(1)(3/3 ページ)

» 2008年08月19日 12時00分 公開
[澤田哲理,@IT]
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ヒト、プロセス、ツールを正しいバランスで機能させる

 コールセンターの現状を正しく知るとは、具体的には、応答率、稼働率、処理時間、一次解決率など、コールセンターのパフォーマンスをあらゆる角度から正確に把握し、評価・分析するということだ。現状に対して適切なゴールを策定し、ゴールに近づくために、もっとも適切な評価指標を策定する。

 そのうえで、ヒトとプロセスについて、各評価指標に沿った運用体制を策定し、それをサポートするツールを組み合わせて、PDCAを回す。正確な現状把握と適切なゴールに基づいて、ヒト、プロセス、ツール(IT)が正しいバランスで機能していれば、「効率と品質」という要件も自ずと両立できるのである。

 例えば、顧客からの問い合わせに対して、精度が高く、解決率も優れた応対を提供できれば、再度電話がかかってくることが減り、電話の件数が減少する。その分、応対するオペレータも少なくて済む。解決率が高ければ、顧客満足度も当然向上する。

 逆に応対の精度が低ければ、再度電話がかかってくるケースが多くなり、オペレータもより多く必要となる。顧客満足度も当然低下する。これが悪循環を生む。オペレータの確保には、採用費や研修費がかかる。加えて、現場にデビューしたばかりのオペレータは、ベテランのオペレータのサポートを必要とする。よって、オペレータに多額のコストを割きながらも、センターの効率性と顧客満足度はますます低下してしまう。

 コールセンターは、“属人的”であっても、“マニュアル頼み”であっても、“ツール頼み”であっても、うまく回すことはできない。正確な現状把握と、適切なゴールに基づき、3者を適切なバランスで運用することが大切なのである。重心が偏れば、そこから悪循環が始まる。

 悪い例としては、2000年ごろに業界を席巻したCRMブームがある。マーケティングデータを基にした戦略的センター運営として、顧客セグメントや対応するスクリプトの提供、応対のデータの分析、CTIとの連動などが提案された。しかしいまやCRMという言葉を声高に叫ぶ人はすっかり少なくなってしまった。 原因の大半は、ツールに期待を込めすぎた分、ヒトとプロセスの運用が甘くなり、ツールを使いこなせなかったためである。

現状把握と評価指標で、パフォーマンスはガラリと変わる

 では最後に事例を紹介して、今回のまとめとしよう。ある企業のコールセンターは、同じ顧客業務を、複数の拠点で、おのおの違うオペレーションアウトソーシングベンダに外注している。従来は各アウトソーシングベンダのパフォーマンスを測定する指標はごくわずかだったが、COPC-2000規格をベースにしたコールセンター・アセスメントの後、「顧客満足度の向上とコスト削減を両立する」ことをゴールと設定し、それに合わせて評価指標を整備した。

 具体的には、「電話のつながりやすさ」「応対の精度」「効率性」といった指標を追加したほか、それぞれに基準値を設け、数値で明確にパフォーマンスを測定する体制を築いた。なおかつ以前よりも測定頻度を上げた。

 実はそれまで、アウトソーシングベンダの評価指標として「業務量」という項目を設けていた。そこでアウトソーシングベンダのうちの1社はより高い評価を得るために、一定以上の業務量を受注していのだが、新たな評価指標を導入したことで、各ベンダの評価は大きく変わった。

 すなわち、「精度が高く、解決率も優れた応対」ができる、真の意味での「応対品質」に優れたアウトソーシングベンダが明らかになったのである。これによって発注割合を見直すに至ったほか、「顧客満足度向上」という目標に対して適切な指標を用意したことで、それ自体がパフォーマンス改善の指針となった。これを受けて、各アウトソーシングベンダは相互にパフォーマンスを比べ、自主的な改善活動に取り組むようにもなった。指標整備後わずか3カ月程度で起きたことである。

 いかがだろう。現状を把握すること、正しいゴールと適切な評価指標を策定することの重要性が理解いただけたのではないだろうか。多くの場合、それが改善のスタートとなる。そのうえで、マネジメントの在り方を策定することが、着実な改善につながっていくのである。


 さて、今回は第1回として、現状を正しく測ることが改善の土台となることを述べた。今後は、コールセンターのあらゆる課題解決事例を取り上げながら、ヒト、プロセス、ツール(IT)の3者をどうバランスさせ、どう運用していくべきか、マネジメントの在り方について具体的に紹介していこうと考えている。

 コールセンターの課題は企業によってさまざまだが、実は同じ方法論が使えるケースも多い。また、ヒト、プロセス、ツール(IT)という3者の運用・改善事例は、現業部門のIT活用にも通じる部分が多いのではないだろうか。この連載が、より多くのみなさんにとって役立つものになればと考えている。

筆者プロフィール

澤田 哲理(さわだ てつり)

株式会社プロシード コンサルティング事業本部シニアコンサルタント。アーサーD.リトル経営大学院経営学修士(MBA)、COPC認定監査員、PMP、上級システムアドミニストレータ。

外資系の訪問販売企業や保険代理店などにおいて、コールセンターのオペレータ業務からキャリアをスタートし、その後、コールセンターのデータ分析、システム企画管理、業務管理、外注マネジメント、コールセンター長など、コールセンターの主要業務を歴任。そのマネジメントとコンサルティングの双方に豊富な経験を持つ。

2005年より、ITサービスマネジメントとCOPC-2000規格を中心としたコールセンター監査・コンサルティング・トレーニングを展開する株式会社プロシードに入社し、現職に至る。

COPC-2000マネジメントフレームの活用、とりわけベンダマネジメントや業務改善のシックスシグマの活用に取り組む。


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