「収益に貢献する」コールセンター運用の鉄則コールセンターマネジメントとIT(1)(1/3 ページ)

クレーム対応部門から、経営にかかわる戦略的部門へ変貌を遂げつつあるコールセンター。その認知度は年々高まるばかりだが、「効率と品質の両立」という命題に頭を抱える企業は多い。ではコールセンターマネジメントのツボとはいったい何か──パフォーマンス向上につながる、ヒト、プロセス、ITの正しい運用法を考える。

» 2008年08月19日 12時00分 公開
[澤田哲理,@IT]

コールセンターという言葉

 コールセンターという言葉が世間に浸透して、どのくらい経つのだろうか。少し前のことになるが、東国原宮崎県知事が就任記者会見で地域振興策について述べた際、「コールセンターの誘致」という発言があった。筆者はそれを聞いたとき、コールセンターという言葉が一般化したことをあらためて実感した。

 消費者金融のテレビCMを見ていても、主役は店舗や無人契約機ではなく、コールセンターである。夜中のショッピング番組でもコールセンターは主役の1つだ。いまやコールセンターを利用したことがない人の方が少ないのではないだろうか。

 筆者は現在、プロシードでコールセンターのパフォーマンス・マネジメントを中心としたアセスメントやコンサルティングを行っている。コールセンターに携わるようになったのは1990年代の初頭、ある訪問販売会社の顧客サービス部門に、オペレータとして勤めたことが始まりだ。その後、コールセンターのデータ分析、業務企画、ユーザー部門側のシステム担当やコールセンター長、コンサルティングと監査など、一貫してコールセンターにかかわり続けてきた。

 その間、コールセンターの機能は進化し続け、現在はコンタクトセンターとも呼ばれるようになった。電話だけでなく電子メールやFAX、またはチャットなど、あらゆるコンタクトに対応するとともに、顧客の声を収集、分析し、経営層に届ける戦略的部門として、年々その認知度を高めつつある。

 同時に、コールセンターはIT関連投資がますます不可欠な分野となった。顧客からのあらゆるコンタクトに効率よく対応し、顧客データを適切に管理、活用するためには、CTIBIなどの力を借りる必要がある。ITツールも年々進化し、昨今ではIP化やユニファイドコミュニケーションなども注目されている。

 しかし、ただ単にITを導入すればうまくいくわけではないどころか、かえって逆効果になることはほかの業務部門と同様だ。いや、コールセンターは顧客接点であり、運用の失敗は企業にとって大きな損失を招きかねない分、ITの導入・活用には、より慎重な姿勢が求められる。

 コールセンターをいかに効果的・効率的に運用するか、どのようにITを使いこなすか──ある意味、企業におけるIT活用のショーケースともいえるコールセンターマネジメントに、いま多くの企業が頭を抱えている。これらにどう取り組んでいくか、業界の最新動向やトレンドも取り入れながら、詳しく解説していきたいと思う。

ますます拡大、複雑化するコールセンター

 では、さっそく本題に入る前に、まず企業におけるコールセンターの位置付け、役割の変遷を振り返っておきたい。

 この話になると、まず想起されるのが「クレーム対応」という言葉だ。少なくとも1990年代の前半までは、コールセンター関連のカンファレンスなどに行くと、いわゆる「消費者対応」や「クレーム対応」といったテーマのセミナーが多かったと思う。

 それらに出席すると、「社命でお客さま相談室を作れ!といわれて、ともかく数名のスタッフと黒電話を並べて……」といった枕詞から始まり、いかにお客様の苦情やクレームに対応したかという話にみんなが聞き入っていた。自分もそうだった。いまでも時折、経済誌などで「クレーム対応」が特集されていることがあるので、そうした話には常に一定のニーズがあるのかもしれない。

 ところが最近、ある組織の消費者対応部門の方からコールセンターのセミナーの開催を打診された。「コールセンターのマネジメントの話を聞きたい」とのことであった。「消費者対応」的な話はメンバーのみんなが食傷気味で、いま必要なのは「どう対応するか」ではなく、「どのように運用するか」マネジメントについてのヒントなのだという。

 コールセンターが、ただ単にクレームをさばけばよい「苦情処理センター」から、効果や効率性を求められる戦略的部門へと着実に脱皮しつつあることを象徴する出来事であった。ではコールセンターの位置付け、役割はなぜ変化したのか、その背景となったのは、以下のような状況変化である。

1.インターネットの進展に伴い、ユーザーサポートなどのニーズが増大した

2.ニーズの増大を受けて、コールセンターの規模が拡大し、業務が複雑化した

3.受注センターとしての機能強化によるプロフィット化、すなわちコール受信だけでなく、コール発信によるセールス活動(アウトバウンド)をも含んだ拠点としての役割も期待されるようになった

4.戦略的、コスト的な観点から、複数存在していたコールセンターが企業内で統合され、機能の集約化が進む一方、人件費の安い地方にセンターを設けるなど、マルチロケーション化が進んだ

5.企業に対するコンプライアンス要請が高まり、コールセンターにもその影響が及んだ

 インターネットの浸透は、パソコンのユーザーサポートや通信販売の受付窓口という新たな機能をコールセンターに求めるようになった。これに伴い、コールセンターの規模は年々拡大するとともに、セールスやサポートなど新たな機能が取り込まれ、その業務はますます複雑化していった。

ALT 図1 各種機能を取り込みながら、コールセンターは拡大、複雑化してきた

 同時に、顧客接点から入る知識、情報といった経営資源を経営層に提供する機能が求められるようになったほか、運用の効率性の観点から、機能集約、地方へのセンター設置なども行われた。コールセンターは、こうして単なるお客様相談部門から、戦略的な顧客接点部門に変り、いまや企業の顔として説明責任を果たす最前線部門へと変貌を遂げたのである。

 しかし問題は、経営におけるコールセンターの重要性が高まっているにもかかわらず、その活動を改善するための手かがリが一部に限られていることだ。例えば、IT業界と違って、経済産業省のような統括的な所轄官庁がない。就業人口や関連するIT投資の規模などについても、コールセンター関連の専門紙誌や調査会社の資料以外に統計データが存在しない。マネジメントの方法論についても、広く浸透しているとはいえない。

 しかし現実として、コールセンターはBtoC、BtoB にかかわらず、あらゆるタイプの企業活動の中核を担うまでになっている。筆者は、前述した「マネジメントの話を聞きたい」という消費者対応部門の声から、コールセンターを効果的に活用するためのマネジメントフレームワークやベストプラクティスの必要性が、急激に増大していることを改めて感じたのである。

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