最強武田軍は組織と人を重んじたビジネスに差がつく防犯技術(9)(1/2 ページ)

戦国最強の武将と評される武田信玄は、人材が国を支える根本として考えており、有能な人材であれば身分に関係なく重用して組織強化を図ったという。この武田信玄の組織運営術は、現在の会社経営に生かせる点も多い。今回はこの問題を考える。

» 2008年09月16日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

武田軍はなぜ強かったのか?

 「人は石垣、人は城」という言葉で有名な戦国武将の武田信玄は、人材が国を支える根本として、身分に関係なく有能な家臣を登用して組織強化を図ったという。

 また、徳川家康が幕府の礎となる家法を定めるに当たって、信玄が定めた法律規範である「甲州法度之次第」を参考にしたとされる話も有名だ。

 この「甲州法度之次第」の最後(第五十五条)には、「晴信(信玄)の形儀その外の法度以下において、意趣相違のことあらば、貴賤を選ばず目安をもって申すべし。時宜によりその覚悟をなすべし」と記されている。

 信玄は家臣や領民だけではなく、自分自身もこの規律を守り、自分も法を犯せば責任を負うとしたのである。自分は読んだこともない行動指針をWebサイトに載せる経営者には、ぜひとも知ってほしい逸話だと思う。

 一対一での対決を重んじたり、人を人とも思わない武将ばかりの中で、信玄は現代企業にそのまま生かせるような組織運営をやっていた。組織の強さは石垣でも城でもなく人であり、人を統率するには自らさえも束縛される規律が必要である。

 まさにコンプライアンス経営のお手本ではないだろうか。

あいまいな責任権限こそ不正の温床なのだ

 一般企業が策定している規定類と、この「甲州法度之次第」を比べてみると、何とも恥ずかしい思いをさせられてしまう。

 経営者が見もしないワープロで作成されただけの文書と、領主自らが命を賭けて守ろうとした巻物を比べること自体が間違っている。

 名ばかりの職務権限規定なら、いますぐに捨てるべきだ。何の効果も期待できないだけでなく、おきて破りの犯罪者を生み出すだけである。ルールとはそういうものなのである。

かんばん方式に学ぶ顧客ありきの役割分担

 組織における責任権限の明確化を図るには、トヨタの“かんばん方式”に学ぶべきものがある。

 かんばん方式では、すべての工程が“顧客ありき”で役割分担されている。前工程にとって後工程はお客さまであり、かんばんは後工程から前工程への注文書に当たる。

 本来、どんな組織でも顧客の要求を満たすために役割分担をしているはずだから、直接顧客とのやりとりがなくても、組織内部に内部顧客と呼べるような“お客さまとしての部署”があるはずだ。間接部門や経営者であっても内部顧客はいるはずである。

 誰も要求していない資料作りが役割であるはずがない。「誰も理解してくれないがわが社にとっては必要だ」という仕事であれば、顧客に対してするように内部顧客に対してもセールスすべきなのだ。

 内部顧客をお客さまに見立てて「お客さま部署」を明確にすると、業務目標や業務品質の評価も可能になる。お客さま部署がその妥当性を評価すればよいからである。

要求定義書の勧め

 組織における責任権限の明確化のための方法として、ぜひお勧めしたいのは、要求定義書の作成である。

 項目には、「業務名」「部署名」「責任者」「目的」「顧客・内部顧客」「資源」「成果物」「要件(役割)」「目標」といったものが考えられる。

 特に「目的」と「顧客・内部顧客」の定義が重要だ。

 そもそも「自分の業務はなぜやっているのか、やる必要があるのか?」が分かっていないと、いざ目的を説明しようとすると困ってしまう。

 前からそうだったとか、前任者から引き継いだという答えしかできないようであれば、その業務の責任も評価基準もはっきりしないと考えた方がよい。中には、仕事のための仕事であり、さっさとやめるべきものがあるかもしれない。

 「内部顧客」の概念はトヨタのかんばん方式でいうところの、後工程に当たる部署である。

 間接部門は、特にこの「内部顧客」の概念が薄く、サービス品質も独り善がりになりがちだ。防犯の技術の観点から見ると、「内部顧客」がはっきりしない部署は社内監視の目が弱く責任権限自体があいまいなため、不適切な行為があっても不適切と思わない土壌となっていることが少なくない。

 「目的」と「内部顧客」が決まれば、必要となる「資源」も特定されてくるし、求められる「成果物」もはっきりする。

 その結果、「要件(役割)」も必然的に明確になってくるのだ。どんな組織であっても、最終的な「顧客」の便益を実現するために、分業している。要求定義書は仕事の内容を目に見えるようにするためのツールであり、オフィスワークでの「作業標準」といえるものである。

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