知らないうちに偽装請負で逮捕されちゃう?読めば分かるコンプライアンス(13)(4/5 ページ)

» 2008年12月09日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

そして知らないうちに犯罪者?

大塚 「赤城さん、赤城さん、ちょっと大変なことになってしまった! どうしましょう」

赤城 「何だ大塚くんか。いきなりどうしましょうっていわれても、何がなんだか分からないじゃないか。まずは落ち着いて。で、何があったの?」

大塚 「東京労働局の人から電話があって、近日中にお会いしてお聞きしたいことがあるっていうんですよ。どうしましょう?」

赤城 「だ、かぁ、らぁ。もう少し詳しく説明してくれよ! ほら、まずはコーヒーでも飲んで……。で、誰が電話してきたって?」

 そういうと、赤城は大塚にコーヒーを勧めた。大塚は緊張してのどが渇いていたこともあり、それをがぶ飲みした。

大塚 「ふぅ。東京労働局の需給調整事業部の……指導官とかいってました。名前は……確か、斉藤とか佐藤とか……。ちょっと忘れたな」

赤城 「それで、どんな要件だったんだ?」

大塚 「それが何でも、ウチの仕事に偽装請負の可能性があるから、詳しく話を聞きたいっていうんですよ。何すか、偽装請負って?」

赤城 「偽装請負というのは、そうだな、簡単にいってしまえば、実質的には派遣労働なんだけど、派遣労働を提供するためには派遣法の定めに従って、免許を受けて業者登録しなければならないし、派遣社員に一定の保護を与えなければならないし、派遣社員にやらせていい仕事は決まってくるし、そのほかいろいろと制約があって面倒だから、相手方と請負契約を結ぶかたちを取ることによって派遣法の制約を逃れようとすることなんだ」

大塚 「……? いまいち、よく分かんないです……。何がどうなれば派遣になったり請負になったりするんですか?」

赤城 「うん、いい質問だ。例えば、ウチの会社によその会社の社員のAさんがいるとしよう。ウチの会社の社員がそのAさんに直接的に業務上の指揮命令をしているなら、それは基本的には派遣労働に該当することになるから、Aさんの会社は派遣業社の登録をしていなきゃならないし、派遣法の制約に従わなければならない。逆にウチの会社の社員は、Aさんに対する直接の指揮命令権は持たないで、Aさんがやるべき仕事の内容についてはAさんの所属する会社と協議して、Aさんの会社がAさんに指示を出すのであれば、それは基本的には請負に該当する。まぁ簡単にいえば、こんな感じだな」

 赤城はそういいながら、紙に図を書いて大塚に説明した。

大塚 「ははぁ〜ん、それでかぁ……。いえね、その労働局の指導官がいうには、ウチが三洋メディカルサービスに提供している業務で、三洋メディカルサービスの人間がウチの社員に直接的な指揮命令を行っている可能性がある、とか何とかいってたんですよ」

赤城 「三洋メディカルサービスっていうと、神崎と山本が常駐しているクライアントか?」

大塚 「そうです」

赤城 「神崎かぁ……。何か悪い予感がするなぁ。で、いまはどんな状況なんだ?」

大塚 「状況といっても、3カ月の常駐期間のまだ1カ月目ですし、スタート時点で指示した最初の作業をこなしているはずですよ」

赤城 「はずですよ……って、お前、コントロールしてないのか?」

大塚 「最初の2週間は、週に2回三洋メディカルサービスに出向いて進ちょく状況を確認してましたけど、ここ最近、別の仕事で追いまくられていて、三洋メディカルサービスには行ってません。でも、時期的にまだ余裕があるし、神崎もあれで仕事はきっちりとやる方だし、三洋メディカルサービスに迷惑が掛かるような事態にはならないと思うんですが……」

赤城 「いや、そういう問題じゃないんだ。クライアントに迷惑が掛かるかどうかの問題じゃなく、神崎の仕事内容を誰が決めてるかっていう問題なんだよ」

大塚 「それだったら問題ないですよ。だって、三洋メディカルサービスとの契約書にも、業務遂行の方針やスケジュールの進ちょくなどは、両社の担当者の合議で管理していき、グランドブレーカーのスタッフはグランドブレーカーの担当者の指揮命令に従うことが定められてますから」

赤城 「それは知ってるよ。その契約書をレビューしたのは僕なんだから。問題はだな、契約書にはそう定められていたとしても、実際には三洋メディカルサービスが神崎の仕事内容を決めていて、神崎に直接指示していたとしたら、結果的にはそれも偽装請負になるということなんだよ。最初っから派遣法の適用から逃れようとして請負契約を結ぶのが典型的な偽装請負だけど、最初は本当に請負契約のつもりで契約を結んだけど、その後の仕事のやり方によって、そのつもりもないのに偽装請負になるっていうパターンもあるんだ」

大塚 「ウチの場合は、『そのつもりもないのに偽装請負になっちゃってる』ってことですか?」

赤城 「ああ、その可能性が高い。神崎は確かに仕事はきっちりやるやつだ。それは僕も知っている。でも、同時に折り紙付きのお調子者だ。例えば、三洋メディカルサービスにきれいで頭が良くて神崎より少し年上の女性社員がいるとしたら、どうなる。その女性社員から、『神崎さん、この仕事をお願いできるかしら。頼りになるわ、助かるわ!』なんていわれたら、どうなると思う? 神崎のことだ『任せてくださいよ。あなたにお願いされたら、断れるわけがないじゃないですか。やらせてもらいますよ! がははは』とかいうに決まってるだろう」

大塚 「た、確かに……。神崎なら、木のてっぺんまで登りきっちゃいますね。……!! そういえば、三洋メディカルサービスの担当者は、稲森美由紀という課長だったな。これがまた、きれいで頭が良くて、多分神崎より少し年上だろう……。ヤバイじゃないですか!! そのつもりもないのに偽装請負じゃないですか!! どうすればいいんですか?」

赤城 「まず、これからすぐにでも神崎を呼びつけて、いままでの常駐期間の様子を詳しく聞き出すことだ。恐らく、いま僕らが想像しているような事態があるはずだ。そして、恐らく、三洋メディカルサービスの誰かが労働局に通報したんだろう。でなきゃ、指導官も動かないだろうからな」

大塚 「労働局の指導官が来たら、どうすればいいんですか? 私が何か責任取らされるんですか?」

赤城 「いきなり処罰ってことにはならないよ。まず、指導官は、当事者と面談して通報内容が事実かどうかを調べる。おそらく三洋メディカルサービスにも行くだろうし、神崎にも直接話を聞くかもしれない。そのときは、大塚くんも神崎も、事実を隠さずに話すべきだな。そして、偽装請負が本当にあると指導官が判断したら、事態是正の指導をするはずだ。その指導に従わなければ、今度は改善命令に切り替わり、その命令に従わないときに、会社名の公表とか業務停止とか刑罰とかの処分が下されることになる」

大塚 「じゃあ、事実を素直にしゃべって是正の指導に従えば、責任問題にはならないんですね」

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