知らないうちに偽装請負で逮捕されちゃう?読めば分かるコンプライアンス(13)(5/5 ページ)

» 2008年12月09日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]
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正直に答えなければ、偽装請負になる可能性も

 事態は、赤城が予想した通りだった。

 大塚は神崎から詳しい事情を聞き、神崎が木のてっぺんに登って稲森課長のいいなりになっていた事実を知った。

 神崎に労働局の指導官には正直に対応するように指示すると同時に、自分も指導官との面談においては正直に対応し、是正措置として、今後は最低でも週1回は三洋メディカルサービスに出向き、三洋メディカルサービス側の担当者と業務遂行について綿密に打ち合わせを行い、神崎と山本に対しては直接指揮命令をしていくことを約束した。

 指導官も三洋メディカルサービスへの事情聴取を踏まえ、偽装請負は故意ではなく過失によるもので、しかもその程度も軽微であって当事者も反省しており、是正措置を順守することを約束しているので、約束通りに是正措置が取られるのであれば、今回は不問に付すと結論付けた。

組織や人の面での急速な脆(ぜい)弱化が生じてきている

赤城 「神崎、ここだ」

神崎 「赤城さん、お久しぶりです!」

赤城 「お前も元気そうだな。まずは乾杯といこうか」

 赤城は風の便りに、今回の偽装請負騒動で神崎がしおれているという話を聞き、その神崎を元気付けるために、2人を行きつけの居酒屋に呼び出した。

赤城 「どうだ、三洋メディカルサービスでの仕事は?」

神崎 「……ぎそう、うけおい、……ですよね」

赤城 「ははは、まぁそんなに気にするな。確かに軽はずみなところもあったけど、大塚くんもきちんと対処したし、是正措置もきっちり実行しているようだし。だからお前も、同じ間違いをしないように気を付けて、いままで通りに元気よく仕事しなきゃだめだぞ。そのことでしょげていたら、クライアントにも失礼になるからな」

神崎 「それはそうなんですが……」

赤城 「何だお前らしくもない。そうそう、ところで稲森課長って、相当すてきな人だって大塚くんから聞いたんだけど、どうなんだ?」

神崎 「そうなんです! これがまた、きれいで頭が良くて仕事ができて、とにかくいいんですよ!」

赤城 「その稲森課長のためにも、元気出して仕事しなきゃ!」

神崎 「……ですよねぇ!! 分かりました。もうクヨクヨするのはやめます。大丈夫、大船に乗ったつもりで任せてください!」

赤城 「そうそう、そうでなきゃ。……でも、泥船はやめてくれよ。乗ったはいいが、そのうち溶け出したなんてしゃれにならんからな」

神崎 「赤城さんいってくれますねぇ。ははははは。すいませーん、ビール2つ追加!!」


 同じころ……。三洋メディカルサービスの高幡部長と稲森美由紀も、行きつけのバーでバーボンのグラスを傾けていた。

高幡 「稲森くん、まぁゲン直しにグッと一杯いこうじゃないか!」

稲森 「高幡部長、今回は本当にご迷惑をかけてしまってすみませんでした。まさか、労働局の役人がやってくるなんて、これっぽっちも想像してませんでしたわ……」

高幡 「僕も、事情聴取だっていわれたときはびっくりしたよ。でも、わざとじゃないって分かってもらえて、結局おとがめなしで済んだのは、不幸中の幸いだったな」

稲森 「でも、取締役に厳重注意されたとか……」

高幡 「ああ。君は人事部長なのに派遣法も知らんのかって、えらく怒られたよ。これが世の中に知れ渡ったらどうなると思うんだ、人事部長が偽装派遣を黙認とか書き立てられて、コンプライアンス違反のレッテルをベッタリと張られたら、企業としては致命傷だぞって、そりゃもう、すごい剣幕だったな」

稲森 「それはちょっと神経質過ぎるのでは……? 私がいえた立場じゃないですけど」

高幡 「いや。確かにささいなことであっても、常識や倫理に合わないことをすると、すぐにコンプライアンス違反のレッテルを張られてしまう。いまはそんなご時世なんだよ」

稲森 「ほんと、済みませんでした」

高幡 「君も僕も、今年の評価ではマイナス1は仕方ないだろうけど、済んでしまったことを後から考えてクヨクヨしても仕方ないよ。今回の一件を良い教訓にすればいいんだから。それとグランドブレーカーの2人には、契約通りの仕事にだけ使うようにしような」

稲森 「そうですね。私もこれからは法令にもっと注意するようにします」

高幡 「ああ、それがいい」

稲森 「でも、神崎くんをいろいろ使えなくなるのはちょっと残念ですねぇ。彼、おだてると、す〜ぐ木のてっぺんに登ってしまうんですよ。かわいいったら、ありゃしない」

高幡 「稲森くん、それが君の悪い癖だよ。そこを治さなくちゃ、ハハハハ」

【次回予告】
 常駐先のきれいなお姉さんに頼まれて、知らないうちに偽装請負になりかけていた神崎。このようなケースは実際に多いそうです。今回は、お互いの知識不足がもたらしたケースで正直に申告したため無事でしたが、変に隠ぺいしようとするとこじれることも考えられます。このような問題は、コンプライアンス上どのように考えればよいのでしょうか。次回は、この問題をコンプライアンスの視点から詳しく分析します。なお、次回は12月10日に掲載予定です。お楽しみに。

著者紹介

▼著者名 鈴木 瑞穂(すずき みずほ)

中央大学法学部法律学科卒業後、外資系コンサルティング会社などで法務・管理業務を務める。

主な業務:企業法務(取引契約、労務問題)、コンプライアンス(法令遵守対策)、リスクマネジメント(危機管理、クレーム対応)など。

著書:「やさしくわかるコンプライアンス」(日本実業出版社、あずさビジネススクール著)


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