知らないうちに偽装請負で逮捕されちゃう?読めば分かるコンプライアンス(13)(2/5 ページ)

» 2008年12月09日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

社運を賭けた人事評価制度再構築コンサルティング

 その1カ月前。

 グランドブレーカーは、製薬業界専門のデータサービス会社である三洋メディカルサービスから、人事評価制度を再構築するコンサルティング業務を請け負った。

 三洋メディカルサービスは、創業32年の歴史のある企業である。

 しかし最近、アメリカの同業社と資本提携したこと、および業務規模の拡大のために異業種からの若手の営業マンを大量に採用し始めたことにより、従来の考え方による評価制度では社員のモチベーションの維持が困難になってきた。そこで、三洋メディカルサービスの人事部は、外部のコンサルティング会社に自社の人事評価制度の抜本的改革を依頼することにした。

 三洋メディカルサービスは、グランドブレーカーを含む4社のコンサルティング企業のコンペによって業者選定を行った。グランドブレーカーの案では、人事評価制度改革の全体の作業を3カ月ごとの4フェイズに分け、第1フェイズを改善課題の確定とその改善の方向性の策定、第2フェイズを改善策の確定とそのシステム化の基本設計、第3フェイズを人事評価システムの詳細設計、第4フェイズを人事評価システムの導入と検証とする提案書をまとめてコンペに臨んで勝ち抜き、その仕事を請け負うことになったのだ。

ALT 大塚 敏正

 ただし、三洋メディカルサービスは、グランドブレーカーには最初の第1フェイズのみを発注し、第2フェイズ以降のコンサルテーション業務を引き続きグランドブレーカーに頼むかどうかは、「第1フェイズの成果物である報告書の内容の出来次第で決める」という条件を付けてきた。1年間にわたって1社のコンサルティング企業と固定的な関係を結ぶリスクを避けたわけである。

 グランドブレーカーとしては、自身が提案した第2フェイズ以降のコンサルテーション業務を他社に取られることは、企業のメンツとしても容認できないことだし、また報酬額の面からも、社内に蓄積されるコンサルテーションノウハウの面からも、さらには未開拓だった製薬業界でのリーディングケースになるという意味でも、第2フェイズ以降のコンサルテーション業務を獲得することが至上命題となっていた。

 三洋メディカルサービスの担当は、高幡人事部長と稲森美由紀課長。グランドブレーカー側は、大川取締役が業務全体の責任者、大塚マネージャが現場責任者となり、両社の間で細かな契約条件が詰められた。

ALT 山本 浩介

 その結果、業務の円滑化を図るために、グランドブレーカーは3カ月間スタッフ2人を三洋メディカルサービスの人事部に常駐させることになった。業務遂行の方針やスケジュールの進ちょくなどは、両社の担当者の合議で管理していき、グランドブレーカーのスタッフはグランドブレーカーの担当者の指揮命令に従うことが取り決められた。

 三洋メディカルサービスとの間の契約条件も確定し、グランドブレーカーの大川取締役と大塚マネージャは、この仕事にアサインするスタッフの人選を始めた。

大川 「大塚くん、三洋メディカルサービスに常駐させるスタッフには、誰をアサインするかね?」

大塚 「そうですね、1人は神崎にしようと決めてます。やつもシニアコンサルタントになってから長いですし、ここいらで現場のマネジメントを経験させて、マネージャ昇進への足掛かりにしてやりたいですしね」

大川 「なるほど、分かった。で、後1人は?」

大塚 「ええ。山本浩介というスタッフにしようかと……。彼も若いけどなかなかしっかりした考えを持った見どころのあるスタッフですので、“まとまった仕事をやり通す”という経験を積ませたいですし、それに普段から神崎と馬が合うようなんですよね。3カ月も2人きりでいるんですから、相性も大事でしょうし」

大川 「オーケー。君の判断に任せよう」

 こうして、神崎と山本は三洋メディカルサービスに常駐することになったのだった。

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