ただ、こうした取り組みに乗り出すに当たっては、仮想化技術の活用とは別の観点から、1つ留意しなければならない問題があります。それは“全社的な観点”でシステムを再構成することの難しさです。
アプリケーションにせよ、それを支えるインフラにせよ、前述のような“棚卸し”を行うことで無駄を発見できます。問題は、それらが全社的に「無駄」と認知されているわけではないことです。むしろ、プロジェクト単位、部門単位では、「ほかの組織と共有するのは現実的には難しい」と認識されていることの方が多いと思います。
各部門はそれぞれにミッションを持ち、システム投資もそれに基づいて行われることが多いものです。仮に他部門との共有化がコスト面などで有利だということに気付いた部門長がいたとしても、部門間の調整という仕事を考えると二の足を踏むことになるかもしれません。特にアプリケーションは「うちだけの特殊な機能」が必要とされることが多く、全社横断型のシステムを作ろうとすると要求が肥大化し、部門別システムに比べてはるかに大きな労力が必要となります。
つまり、部門には全社最適のインセンティブがないのです。勢い、プロジェクトは部門ごとに実施され、各組織が「自部門の業務に最適化したシステム」を構築する“個別最適”のスタイルが主流になります。
複数の部門が同じ種類のアプリケーションを別々に使っているなど、全社的に見れば明らかに“無駄”ですが、個々の組織にとっては「業務に最適化したものであり、決して無駄ではない」ということになりがちなのです。
アプリケーションを統合する場合、部門ごとに最適化していた機能については、あきらめてもらわなければならないケースも出てくることでしょう。そうなると、「システムの全体最適化には賛成するが、日々の業務遂行に支障が出ては困る」など、総論賛成、各論反対の意見が出ることが予想されます。いわば、全体最適を実現するうえで、マネジメント面で課題が残されている、といったところでしょう。
ここで、私から1つ提案があります。まずは経営層の皆さんが先頭に立って、アプリケーションやそれを支えるサーバ、ストレージなど、「IT資産の棚卸し」に取り組んでください。「いま何を持っているのか」という財務面からみた棚卸しだけではなく、 “機能面からみた棚卸し”をするのです。
これは経営層が指示しなければ、おそらく誰もやりません。なぜなら、最も現状を変えたくないのは“個別最適の慣習”の中で業務を行ってきた現場の人たちだからです。そこに丸投げしたのでは何も変わりませんし、この作業をおいて全社的に無駄を精査する機会は確保できません。
さらにいえば、棚卸しはより高度な仮想化技術の利用法――アプリケーションやサービスに対して動的にリソース配分を変えるプロビジョニングを行う際には、必須の作業です。営業部のグループウェア用サーバは夜間ほとんど使われていないのに対し、生産管理システムは夜間バッチ処理のリソースが不足気味だ、という状況が分かって、初めてプロビジョニング技術を導入する意味が出てくるのです。
できればいますぐ、情報システム部門のスタッフに、以下のことを確認してみてください。「いま、自社にはどんなアプリケーションがあるのか?」「それらはどこで、どのように使われているのか?」「何台のサーバが存在しているのか?」「サーバの稼働率は何%か?」「待機サーバ、開発用サーバ、試験用サーバは、それぞれ何台あるのか?」 ──おそらく、その場で回答を得ることは難しいと思いますが、後日きちんと報告してもらえば、発掘可能な埋蔵金が驚くほど発見できるかもしれません。
▼著者名 大木 稔(おおき みのる)
イージェネラ 代表取締役社長。日本ディジタルイクイップメント(現 日本ヒューレット・パッカード)でNTTをはじめとする通信業向けの大規模システム販売に従事した後、オクテルコミュニケーションズ、テレメディアネットワークスインターナショナルジャパンで代表取締役を歴任。その後、日本NCRで事業部長、日本BEAシステムズで営業本部長を務めた後、2006年1月から現職に着任した。現在は「インフラレベルでの仮想化技術が、企業にどのような価値を生み出すか」という観点から、仮想化技術の普及・啓蒙に当たっている。
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