“Excelツールの引き継ぎ”を効率化する方法社内を幸せにするEUC(2)(3/3 ページ)

» 2009年11月26日 12時00分 公開
[村中直樹,クレッシェンド]
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運用方法の標準化で、ツールとデータは大幅に使いやすくなる

 では次に、Excelツールの運用の標準化について解説しよう。ここで求められるのは、 データの標準化とデータの変更手順の標準化だ。

 一般に、情報システム部門では、あらゆるデータを1個所で保管している。このためデータの保管場所が問題になることはまずない。しかし利用者部門では、1人の担当者が複数の種類の売り上げデータを保管していたり、保管しているデータ構造がまちまちであったりするケースが多い。これによって、部門間はおろか、担当者間でも互換性がないことも珍しくない。

 そこで情報システム部門が音頭を取って、Excelツールで扱うデータの標準化を進める必要が生じてくるわけだ。以下では、データの標準化とデータの変更手順の標準化について、具体的な方法を説明しよう。

データの標準化

 データの標準化については、以下の4点を行う。

  • データ項目
  • データ形式
  • 保管場所
  • ファイル名

 データによってこれらがまちまちだと、それを扱うExcelツールについても「ツールごとに仕入れ先台帳が必要になる」といった事態になりかねない。

 まず、データ項目名をそろえることで「顧客名」「仕入れ先」「取引会社名」が実は同じ内容のデータだった、といった事態を避けられる。次にデータ形式についても標準形式を定める。表計算ソフトやデータベースソフトで汎用的に使えるcsv形式にそろえておくと、利用者部門は「どんなツールからでも汎用的に加工できる」利便性を手に入れることができる。

 さらに、処理に「使用すべきデータがどこにあるか分からなくなる」事態を避けるため、ファイルの置き場所とファイル名についてのルールを決めておく。ファイルごとに決めるのではなく、「マスタデータはこのフォルダ」「加工済データはこのフォルダ」といった単位でゆるやかに決めておけば十分だ。

 これで最悪の場合、ツールの引き継ぎができないケースが生じたとしても、データを継承することは可能になる。それとともに、利用者部門で加工・蓄積したデータと、情報システム部門が管理する基幹系システムのデータをやり取りする可能性も開けてくる。

変更手順の標準化

 変更の対象は「マスタデータ」と「処理の仕組みそのもの」の2つがある。いずれも、変更を加える担当者を決め、後で何を変更したか分かるよう世代管理をしておくとよい。難しい手順は利用者部門に拒否されがちだが、以下のような簡単なものであれば、十分に受け入れてもらえる。

  1. 本稼働用のフォルダから修正・変更用フォルダにコピーする
  2. 担当者が修正を行い、その後に第三者の確認を受ける
  3. 既存の本稼働ファイルを、バックアップフォルダに移動する
  4. 修正したファイルを本稼働用フォルダにコピーする

 「正式稼働中のファイルを上書き消去してしまうリスクを回避し、万が一の場合にも、元に戻せるようにする」といった主旨を説明すれば、利用者部門からも積極的な協力が得られよう。

標準化によってもたらされる好ましいメリット

 標準化は“引き継ぎ問題”の解決方法として非常に有効なだけでなく、ほかにもたくさんのメリットをもたらす。まず情報システム部門にとって最も大きなメリットは、標準化によって全社システムのインフラ整備が進むことだ。具体的には、以下の3つが挙げられる。

  • ソフト、データをハードも含めて標準化できる
  • 利用者の人的スキル(情報リテラシー)が向上する
  • 利用者作成のツールを相互流用できる

 また、情報リテラシーの向上により、利用者部門からのリクエストが情報システム部門に理解しやすい内容に変わってくる。このため、より的確な情報システムを供給することができるようになる。つまり、利用者部門で作られたExcelツールの引き継ぎに「標準化」という業務を通じて関与することは、情報システム部門にとっても価値あることなのだ。さらに「共通の言葉で語れること」が増えてくると、両者のコミュニケーションは大幅に建設的なものになる。

 一方、利用者部門には以下のメリットがある。

  • スキルが上がる
  • 問題解決能力が高まる

 標準化を進める過程で、情報リテラシーが向上し、利用者部門のスキルが底上げされることが多い。その結果、情報システム部門に初歩的な問い合わせをして、待たされるといったこともなくなる。また、運用方法の標準化によって、1度行った修正は何度でも利用者自身で実施できるようになる。Excelツールの運用に関する疑問を解決したり、ツールの修正作業の多くを行ったりすることが、利用者自身でできるようになる。すなわち、情報システム部門、利用者部門の双方にとって、無駄な時間が減り、本来の業務により集中できる環境が整うことで、仕事の付加価値が大幅に高まるのだ。


 次回は、情報システム部門と利用者部門とのトラブルの大きな原因の一つである「ヘルプデスク機能」を通じた効率化を紹介する。

筆者プロフィール

村中 直樹(むらなか なおき)

株式会社クレッシェンド 代表取締役

システムコンサルティング会社や金融機関を経て独立。現場主導のITにこだわり、Excelによるシステム開発に特化したベンチャー企業を設立。これまでに700以上のシステム構築にかかわる。経済産業省認定システムアナリスト、中小企業診断士。著書に『企業活動トラブルQ&A』(共著、第一法規)などがある。


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