情報基盤はアウトプット視点で考えようIT共通基盤を整備せよ(3)(1/2 ページ)

情報システムとは、情報を収集・蓄積・加工・再配布する仕組みだ。もちろん、そこで扱われる情報はビジネスに役立つものでなくてはならない。ビジネスに役立つ情報とは何か? そもそもそれは誰が使うのか?――そうした観点に立てば自ずと“アウトプット”に行きつく。

» 2010年03月04日 12時00分 公開
[生井 俊,@IT]

アプリケーションレイヤの基盤化

 情報システム部門が社内システムの基盤整備を考えるとき、対象となるのはハードウェアインフラだけではなくソフトウェアプラットフォームもある。ソフトウェア工学的にいえばソフトウェアの共用化である。

 OSやミドルウェアと呼ばれるソフトウェア・ジャンルは頻繁に利用(あるいは開発)するソフトウェアをくくり出す形で成立した。ソフトウェアの共用は互換性の検証や維持などの技術的な困難を伴うが、それでもOSやミドルウェアが存在するのはそこに経済合理性があるからだ。

 OS、ミドルウェアはコンピュータを動かすためのソフトウェア――システムソフトウェアに分類されるものが多いが、エンドユーザーが業務に利用するアプリケーションソフトウェア(業務システム)にも共通で利用されるものがある。ユーザー認証/アクセス制御、データ交換/システム間連携、データベース/データウェアハウス管理、セキュリティ、画面表示、印刷などの機能だ。コミュニケーション(グループウェアなど)やエンタープライズサーチ、統合運用管理/ログ管理などを共通利用部分と位置付けることも可能かもしれない。

 これらはアプリケーションの中核機能(会計処理、顧客管理、在庫管理、生産管理……など)を支える“支援機能”である。企業のシステム導入は中核機能の実現を目的に行われるので、特別な配慮なしに個別にシステム構築を行うとシステムの数だけ支援機能も重複して導入することになる。同種システムの重複は導入・運用コストが無駄なだけではなく、エンドユーザーに無用な負担を負わせることになる。

 例えば、ユーザー認証機能がシステムごとにばらばらだとエンドユーザーはいちいち異なるID/パスワードを覚えなければならない※。覚えるIDの数が少ないうちはいいが、システム数が多くなってくるとメモに書くなどの「ポリシー違反」を招き、かえってセキュリティレベルが下がってしまう。

※ 異なるシステムで同じID/パスワードを設定することは可能だが、ID/パスワードの変更が連動していないと変更し忘れなどが起こりやすくなる。変更しない前提の運用もセキュリティレベルを下げることになる。

 こうした事態を避ける方法が共通化/基盤化だ。ユーザー認証の例でいえば、シングルサインオンと呼ばれるソリューションがそれに当たる。システム間連携のためのEAI/ESB、画面を統合するEIPなども共通基盤システムといえるだろう。

 共通基盤システムの導入を支援・促進ソリューションはいくつもあるが、比較的注目されていないながらもコスト削減とビジネス上の効果が大きな分野に「アウトプット」がある。アウトプットからアプローチするシステム最適化の道とは何か? 「OPM(Output Performance Management)」を提唱するウイングアーク テクノロジーズに聞いた。

「アウトプット」は情報システム最大の課題

 アウトプットとは「エンドユーザーに情報を出力すること」である。端的にいうなら、PCモニタへの表示と印刷といえる。こう書くと簡単に思えるが実のところ、“情報システム”にとって利用者にタイムリーに最適な形で情報を提供するのは極めて重要な部分だ。

 現実には企業内で現場(エンドユーザー)が情報システム部門やSIerに出す要求のほとんどはアウトプットに関する事柄である。「先月の売上に関するレポートが見たい」「全社の在庫集計値を出せるようにしたい」「予算と実績を合わせて、予実分析の結果を一覧表にしたい」「過去のシェアを時系列で並べたい」「新しい取引先向けに出荷指示が出せるように」といったようなものだ。

 これらの要求は技術的に見れば難しいものとはいえない。しかし、手間ひまのかかる作業であることは間違いない。ソフトウェア構成管理がきちんと行われていて、どこのデータベースにどのようなデータが入っているかがすぐに分かる状態の企業であればいいが、そうでないとシステムの調査から始めることになるかもしれない。多くのバックログを抱え、不況で要員も減っているシステム部門としては、ユーザーの要求に対して「1カ月程度待ってください」と返答をせざる得ないことも考えられる。

 この答えはユーザーにとっては納得できないものだろう。業務データに関してはエンドユーザーの方が詳しいので、「データはサーバの中にあるはずなのに、どうしてすぐに出てこないんだ」と不満が出てくることは必定だ。これを解決するには、情報要求者が直接データを呼び出し、活用できるようにすることだ。いわゆるエンドユーザーコンピューティング(EUC)である。

 EUCは昔から繰り返し主張されてきた。DSSSQLBIといったコンセプトや技術も登場したときにはEUCをうたっていた。1970年代のDSSはコンセプトに技術が追い付いておらず、1980年代に普及が始まったSQLは一般ユーザーには難しかった。1990年代に登場したBIは初期においてはシステムが高価で広がりが限定的だった。現在では普及しつつあるが、データウェアハウスやデータマートを利用する場合には本格的なシステム構築やデータ整備が必要になる。もっと使いやすく、分かりやすいアウトプットの仕組みが必要なのだ。

 ここでポイントとなるのは、アウトプットを個別分散化したシステムを横串する“基盤”としてとらえることだ。これを実現する技術はいろいろなものが考えられるが、ユーザーニーズに即したものとして構築することが重要だ。基盤システムだからといって、必ずしも重量級である必要はない。

ALT 図1 業務システムごとにアウトプット機能を持つのではなく、共通の基盤化を進めることで情報出力の柔軟性が向上する

 現実のユーザーが求めているのは「今日のビジネス判断に必要な情報」の入手である。高度な情報処理をしなければ得られない情報も中にはあるだろうが、大半は「在庫が急に増えているのはなぜか、明細が知りたい」程度のことである。そのために情報システム部門がデータベースのインターフェイスを解析し、部長付きのアシスタントが社内でコピーを集めて回っているのだ。

 本当に求められているのは「コンピュータのシステムをどのように作るか」ではなく、「現場のユーザーにとって役立つ情報とは何か?」「いつ、どのような形で提供されるべきか」「情報の流れはどうするのが効果的か?」を考えることだといえよう。

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