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» 2010年04月21日 12時00分 UPDATE

プロが教える業務改善のツボ(1):“人のせい”にしているから、効率化は失敗する (2/2)

[松浦剛志,プロセス・ラボ]
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自分たちで「できること」「できないこと」を整理しよう

 さて、「縦の問題整理」には2つのポイントがあります。1つ目は、この問題がアウトプットに関する問題なのか、それともアウトカムに関する問題なのかを判断することです。

 この「アウトプット」「アウトカム」とは何でしょうか? 例を挙げてみましょう。左側がアウトプット、右側がアウトカムです。

  • 信号機の増設⇒ 交通事故の減少
  • おいしい弁当 ⇒ リピート購買
  • 不親切な対応 ⇒ 顧客からのクレーム
  • 洗練された提案書 ⇒ 顧客からの受注

 イメージできたでしょうか? 簡単に言うと、アウトプットは「自分たちでやればできること」、アウトカムは「その結果、起こる状況」 を指します。

 業務改善においては、この2つをごちゃ混ぜにしてはいけません。なぜなら、アウトプットは自分たちで直接コントロールできますが、アウトカムは直接コントロールできず、アウトプットを通じて間接的にコントロールするしかないためです。従って、問題がアウトカムに関することであったら、最低でも、その原因がアウトプットに落ちてくるまで「なぜ?」を繰り返します。そこまで原因を掘り下げなければ、業務改善として自分たちが直接手を下せるレベルにまで達しないのです。

 例えば「担当者の残業が多い」という問題からスタートしたとしましょう。これは何らかの原因の結果ですから当然アウトカムです。その原因を探ると、「顧客からのクレームが絶えない」ことに起因していると分かりました。これもまだアウトカムです。さらに堀り下げると「品質が悪い」ことに起因していると判明しました。品質は自分たちでコントロールできることです。この時点で、ようやく「アウトプット」の領域に入ったということになります。

「人」の問題とは明確に区別しよう

 そうすると、次に問題になるのは「この縦のラインをどこまで掘り下げればよいのか」ということです。 ちなみにトヨタのカイゼンでは「“なぜ”を5回掘り下げよう!」と言っていますが、最低でもそのくらいは必要なのでしょうか? それとも掘り下げられる限界まで突き詰めるべきなのでしょうか?――トヨタのカイゼンには何らかの根拠があるのだと思いますが、これは数の問題でもなければ、どこまでも掘り下げればよいというものでもありません。

 業務上の問題を掘り下げていくと、得てして役員や従業員のスキル、意識、モチベーションの問題に突き当たります。 会社は人で構成されていますから、究極まで掘り下げた結果、「人」に関することに帰結するのは、ある意味当然とも言えます。

 もちろん「人」のスキル、意識、モチベーションの向上は、組織が真剣に取り組むべき問題です。しかし業務改善とは、「決められた期間内で確実な効果を狙うもの」です。「人」の問題を解決することはもちろん重要ですが、結果を出すには時間がかかり過ぎるのです。その点で、業務改善の取り組みにおいては、「人」の問題は異なる次元の問題として区別し、業務に直接的にかかわる問題を探ることが大きなポイントになります。

 これはバランスト・スコアカード(以下、BSC)で考えると分かりやすいと思います。BSCは企業の目標と、その実現のためのアクションを4つの視点で整理するものですが、「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「従業員の学習と成長の視点」の順に「企業の目標」としての位置付けが高く、その頂点にある「財務の視点」から最下層の「学習と成長の視点」まで、“目標とそれを実現するアクション”という因果関係に基づいて連鎖しています 。

 よって、業務上の課題を頂点に据え、「なぜ?」を繰り返していくと、因果関係の最下層にある「学習と成長の視点」、すなわち「人」の問題に自ずと突き当たるわけです。これは別の言い方をすれば、「学習と成長の視点」で挙げられた課題の解決は、最上位の「財務の視点」における課題に対して、“最も即効性の低い対策”ということになります。

 従って、業務改善を狙う際には、「学習と成長の視点」の1つ上の階層、「業務プロセスの視点」の問題まで掘り下げるのです。これが業務改善の「縦の問題整理」、第2のポイントになります。

 例えば、「積み上げられた出荷前の製品に台車をぶつけてしまうのは、従業員が不注意だから」と「人」の問題にするのではなく、「ぶつけてしまうのは柵がないからだ」「荷物に近付いても警報が鳴らないからだ」など「業務プロセス」の問題と考え、それを改善の糸口とするのです。そうすれば問題が明確なだけに、確実に対処を施すことができます。スキルやモチベーションなどの問題が出てきたら「掘り下げ過ぎだ」と考えてください。

 そしてこのことが、漠然と理解されがちな“業務改善の本質”を明確に表しています。すなわち、業務改善とは、“確実”があり得ない人の行動に問題の解決をゆだねるものではなく、決められた期間内に確実に成果を上げるために、“業務プロセスに問題を見い出し、直接的な問題の原因を確実に取り除く”システマティックな取り組みにほかならないのです。


 さて、今回は「なぜ?」の掘り下げ方を通じて、「業務改善」という言葉の定義をあらためて確認してみました。「なぜ?」を繰り返すことの重要性は知っていても、「どこまで掘り下げるか」については意外に知られていないのではないでしょうか。次回は「困った事象はいろいろと考えられるが、どのような切り口で整理すればよいのか……」という悩みに応える、原因追求の「横方向への広げ方、絞り方」を解説します。

筆者プロフィール

松浦 剛志(まつうら たけし))

株式会社プロセス・ラボ 代表取締役

京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。


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