HRM(えいちあーるえむ)情報マネジメント用語辞典

human resource management / 人的資源管理 / 人材マネジメント

» 2010年05月10日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 経営資源としての“人”を最大限に活用するため、その選考・育成・報償・動機付け・組織デザインなどを総合的に取り扱うマネジメント活動のこと。

 企業の経営資源には“人・物・金”があるとされるが、このうち“人”は物的資源や財務資源の獲得や利用について計画・執行・統制を行う主体であり、最も基本的な存在であるといえる。この人的資源に注目して包括的あるいは戦略的に取り組むマネジメントがHRMである。

 人的資源には、経営者・管理者・従業員を含む「個人」と、それらを構成員とする「人的組織」がある。経営資源としての個人は「人格・感情・意思を持ち、状況次第で労働意欲が変動する」「教育や経験などを通じて技能や知識が向上する」、人的組織は「リーダーシップやチームワークによって生産性が変動する」といった特性を持つ。HRMではこうした人間性尊重の人間観を背景に、人材の獲得や発掘、選抜、配置、教育訓練・能力開発、業績評価を行い、人的資源の有効活用を図る。

 人的資源という言葉は、日本では戦前に国家総力戦を前提とした戦時計画において国家レベルの兵力や労働力などを指すものとして使われていた。米国では1950年代にピーター・F・ドラッカー(Peter F. Drucker)が経営論の、デール・ヨーダー(Dale Yoder)が人事管理の文脈で「human resource」の語を使用している。HRMは自体は、1960年代に登場・発展した人的資本(経済学)と行動科学(社会学、心理学、経営学など)を基礎として登場し、1970年代には人的資源を定量的に把握する研究(人的資源会計)が行われた。1980年代には企業戦略との結合を図るSHRM(戦略人的資源管理)の研究が進み、このころからHRMがビジネススクールの科目として登場したり、企業の人事関係部門の名称として採用されるようになった。

 HRMと従来の人事管理(personnel management)は本質的に同じもので同義語であるとする意見もあるが、通説では理念的な差異があるとされる。従来の人事管理・労務管理では人間を単純に“労働力”ないし“生産要素”と看做し、コストとして取り扱うのに対して、HRMでは“価値を生み出す資産”であり、同時に“人格を持つ人間存在”という点に着目する。資産という面では採用に加えて教育や能力開発も投資と考え、成長や業績といったリターンと併せて投資対効果のマネジメントが求められる。人間存在という面では適材適所の配置や責任の拡大を通じて、意欲や信頼、コミットメントを引き出すマネジメントを志向することになる。

 資源ベース理論では企業の競争優位性の源泉となる内部資源は何かを考えるがそれが人的資源とした場合、人材ポートフォリオを作成して重要な人材は誰かを明確にする方法がある。高度技能者などが競争力の源泉なのであれば希少資源と考えられるので、離職防止などの策が求められよう。

 HRMモデルの研究としてはハーバード・ビジネススクールを中心にしたグループのものと、ミシガン大学を中心にしたグループのものが知られる。ハーバード・グループのモデルは「人的資源フロー」「報償システム」「職務システム」の3つの領域が「従業員からの影響」を受けるという基本構造を持ち、各領域に複数のタイプを示したうえで、それらの統合化する方法を提案している。ミシガン・グループのモデルは、HRMを「選考」「評価」「報償」「開発」の4機能の循環としてとらえ、それを企業戦略と統合化するプロセスとして構成されている。

 また、PMBOKでは、知識エリアの1つとして「プロジェクト人的資源マネジメント」が挙げられており、これは「人的資源計画」「プロジェクトチーム編成」「プロジェクトチーム育成」「プロジェクトチームのマネジメント」の諸プロセスからなる。

参考文献

▼『アメリカ人事管理・人的資源管理史〈新版〉』 岡田行正=著/同文舘出版/2008年3月

▼『人材マネジメント入門』 守島基博=著/日本経済新聞社/2004年2月

▼『戦略的人的資源管理論の実相――アメリカSHRM論研究ノート』 岩出博=著/2002年9月

▼『HRMとは何か――歴史・理論・実証からのアプローチ』 野呂一郎=著/多賀出版/1998年11月

▼『ハーバードで教える人材戦略』 M・ビアー、P・R・ローレンス、R・E・ウォルトン、B・スペクター、D・Q・ミルズ=著/梅津祐良、水谷栄二=訳/日本生産性本部/1990年9月(『Managing Human Assets』の邦訳)

▼『組織の中の人間行動――組織行動論のすすめ』 二村敏子=責任編集/有斐閣/1982年6月

▼『人間・労働・組織――人的資源論の構築』 エライ・ギンズバーグ=著/関口末夫、内田茂男=訳/佑学社/1977年6月

▼『人的資源会計論』 若杉明=著/森山書店/1973年11月


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