経済回復を待たず、新価値創造に打って出よ!“経済危機に勝つ”リスクマネジメント(5)(2/2 ページ)

» 2010年09月30日 12時00分 公開
[鈴木 英夫(aiリスクコンサルテーション),@IT]
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積極的な“異文化・異職種交流” で、個人の能力を開発しよう

 『知的生産活動』や『研究開発』は、新興国では簡単にはまねのできない分野であるとともに、わが国が依然として強い存在感を示すことができる分野でもあります。そして『人材開発』はこの分野を活性化し、さらに発展させるカギを握っています。創造性豊かな人材なくして、研究、技術開発、そして画期的な新製品・サービスの創造は望めないからです。

 では、『知的生産活動』や『研究開発』を活性化させるために、具体的にはどのような人材開発策を行えば良いのでしょうか? 私は、業務の中で発生するあらゆる機会を人材開発につなげていく姿勢が必要だと考えます。

 かの有名なアインシュタインは言っています。

「私は、理詰めで考えて新しいことを発見したことはない」「空想は、知識よりも重要である。知識には限界があるが、空想は世界すら包み込む」

 異質な文化や価値観、そして異なった考えを持った人々を日常的に接触させ、“非日常的なコミュニケーション”を実践することが発想を豊かにすることにつながるはずです。例えば、すでに一部の企業が行っている「新入社員を一定期間海外に研修に行かせる」といった取り組みも良いと思います。もちろん、海外研修や大学に行かせることだけが教育ではありません。営業部門の人が研究開発部門の人と会話をするだけでも、お互いに得るものがあるはずです。営業担当者が研究開発部員を伴って顧客先を訪問するのも有効でしょう。

 マーケティング部門のスタッフなら、自社内での議論にとどまることなく、製品・サービスの開発部門、研究部門のスタッフと一緒に積極的に外に出て、 いま目指している製品・サービスのターゲットとなる顧客企業の購買部門やユーザー部門を訪問したり、製品・サービス開発のヒントとなる取り組みを行っている大学や研究所、関連する情報を扱っているメディアなどに取材に出向くのも良いと思います。

 さらには、新奇性ある取り組みを行っている場所(広場、劇場、商店、工場、テレビ局など)に出向くのもお勧めします。例えば、動物が自由に行動できるスペースを確保して自然に近い環境で飼育することで、より野生に近い“生きた動き”を見せる「行動展示」を採用した旭山動物園、世界最小のナノサイズの歯車製造技術を開発した愛知県豊橋市の中小企業、樹研工業など、発想の幅を広げるヒントは至るところにあります。そうした取り組みを企画・運営している人たちに直接取材し、それらの情報を基に、自社の製品・サービスの在り方についてディスカッションするのです。

 そうした事例を持つ各社とも、それぞれに「目的」や「狙い」があります。どのような経緯でそうした企画や戦略の実現に至ったのか、直接聞いた話やメディアなどによる資料から、実現するまでのプロセスという“舞台裏”に想像を巡らすことは、自社の取り組みを発想するうえで大きな刺激となるはずです。企業によっては、「昼食はできるだけ社外の人と一緒に取る」ことを推奨しているケースもありますが、知的な刺激を受けられるところであれば、昼食時に限らず、業務に支障を来たさない範囲内なら、いつでも、どこへでも貪欲に出かけていくべきでしょう。

 むろん、ただ闇雲に異文化交流を行うのではなく、自社の強みや市場における特性、社員の持つスキルや強みなどを認識したうえで取り組む必要があることは言うまでもありません。そうした自社の有形無形の資産を把握したうえで、そこから新たな価値を生み出せるよう、企業組織や運営方法、ビジネスプロセスなどを見直し、“従来の型にはまらない新鮮な発想”を得やすい環境へ変えていくのです。

 その意味で、縦割りの組織に縛られることなく、仕事の案件ごとに、さまざまな経験や能力を持つスタッフを集めたプロジェクトチームを作り、協力して1つのゴールを追求するのも効果的ですし、情報共有ツールやビジネスプロセス管理ツールなども役立つかもしれません。重要なのは、“その場限りの異文化交流”に終わらせないことです。以上のような環境における“毎日の積み重ね”が、『知的生産活動』や『研究開発』の活性化に大きくつながっていくのです。

個々人をサポートすることは、すなわち自社をサポートすること

 一方で、こうした取り組みは、企業だけではなく、個人にとっても重要なテーマとなっていくはずです。前のページで、メーカー国内拠点の空洞化が進みつつあることを指摘しましたが、経済がグローバル化し、市場競争が激化しているいま、企業が「ただ作る」という単純作業を、世界で最も安く効率的に行える場所、仕組みに集中させていく動きは今後ますます加速するはずだからです。

 そうした中、型にはまった業務をただ繰り返しているだけでは、個人は生き残っていけません。すなわち、ルーティンはできるだけコンピュータや機械に任せて、人はその知的能力と創造性を発揮することに集中することが、企業として効率化を追求する方向性にもかなっていますし、個人が自分の価値を高め、生き残ることにもつながっていくのです。

 とはいえ、個々人が「自分の視点や価値観を磨き、得意分野を追求し、あらゆる対象に新たな価値を付加して社会に提供できるようになる」ためには、自身の目標に向けた強い意志力やモチベーションが求められますし、簡単なことではありません。よって企業は、そのための環境作りをして個人をサポートしていく必要があるのです。

 そうした活動は、結局は「新しい価値創造」という形で企業の業績に還元されますし、前述した“非日常的な異文化交流”は、さしてコストを掛けずとも、ちょっとした“日ごろの心掛け、工夫”のレベルで実現できることも数多くあります。不況に浮き足立って“その場限りの短期策”を空しく繰り返すだけより、業績向上のうえではるかに効果的、建設的でしょう。

 さらに付言すれば、「人材開発」には「増加しつつある退職者に投資をする」というアプローチもあります。例えば在職中に得た資格や経験を基に、退職後にコンサルティングを担当してもらったり、地域の社会活動に参加してもらうなど、その知見を企業や社会に還元してもらい、現役世代に継承させるのです。これは退職者に「生きがい」を与えるとともに、労働人口の減少が指摘されている中で、社会を活性化させることにもつながります。彼らの力を上手に引き出すことは、社会全体の労働力や生産性の向上、ひいては潜在成長率を押し上げる一助にもなり得るのです。

 確かに世界経済は八方ふさがりです。しかし、目の前ばかりではなく、少し遠くに焦点を合わせれば、この不況を乗り切る施策が見えてきます。ぜひ、自社の基礎体力を伸ばすアプローチで、より長期的な視点から、今回の不況対策をとらえ直してみてはいかがでしょうか。

筆者プロフィール

鈴木 英夫(すずき ひでお)

慶應義塾大学経済学部卒業、外資系製薬会社でコントローラ・広報室長・内部監査室長などを務める。長く経済分析とリスクマネジメントを経験。 現在はaiリスクコンサルテーション代表、コンサルタント。プランナー・オブ・リスクマネジメント、内部監査士。神戸商工会議所登録エキスパート。危機管理システム研究学会会員、RM協会大阪広報リスク研究会リーダー。


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