経済回復を待たず、新価値創造に打って出よ!“経済危機に勝つ”リスクマネジメント(5)(1/2 ページ)

米国の消費構造の変容、それに端を発したギリシャ危機など、あらゆる要因が強固に連鎖した今回の世界不況は、当分の間、回復が見込めそうにない。それなら短期的なコスト削減策に終始するより、新たな価値に向けた建設的な取り組みを行った方が自社にとってはるかに益がある。苦しいのは皆同じ。企業も個人も視野狭さくに陥ってはならない。

» 2010年09月30日 12時00分 公開
[鈴木 英夫(aiリスクコンサルテーション),@IT]

世界経済は八方ふさがり。“V字回復”はないと覚悟を決めよ

 前回までにおいて、筆者は「安易に、世界経済は回復していくとの前提に立つことはリスクが大き過ぎる」と警鐘を鳴らしてきました。

 米国労働省の雇用統計によると、2010年8月の米国失業率は9.6%を記録し、依然として高止まりしている状況です。失業者が増えたために住宅ローンの返済も滞るケースが多く、依然として差し押さえが続いています。また、失業が景気の先行指標となっている米国経済の特性を裏付けるように、各種統計も景気の鈍化を示しており、米国経済は財政による下支えが外れた途端、失速することを余儀なくされている状況です。

 欧州では、ギリシャ危機がいったん終息した後も、国債の上乗せ金利がPIIGS(ポルトガル/アイルランド/イタリア/ギリシャ/スペイン)のすべての国で上昇を続けており、「それだけ余計に利息を上乗せしないと投資家に買ってもらえない」、すなわち「市場で投資家から信頼されていない」状況です。例えば、スペインの失業率は2010年5月の時点で過去最悪の20%を突破しており、いつ“第2のギリシャ”が出てきても不思議ではありません。

 わが国の経済はどうでしょうか? 2010年9月10日、内閣府が発表した「2010年4―6月期の実質成長率」第2次速報は年率1.5%でしたが、その寄与率(数値の変動に対して、「どの要因が、どれほど影響したか」を表す値)を見ると、この年率1.5%という実質成長率を支えたのは輸出が中心であり、依然として「外需頼みの状況が続いている」と分かります。

 名目GDPに至っては、前期比年率で何とマイナス2.5%です。加えてこの円高です。こうした状況を受けて、エコカー補助金もすでに終了したことから、トヨタ自動車は10月の2割減産を発表しています。すなわち、中国などを中心とした「新興国向けの輸出需要」と、「エコカー補助金」「家電向けのエコポイント」で当面の間、支えられていたわが国の景気も、財政赤字からの制約と高止まりした失業率から見て、「これ以上の持続的成長は極めて厳しい局面になった」と言えます。

 こうした中、IMF(国際通貨基金)は2010年9月6日、「G7の経済成長は、今年後半には1.5%へ鈍化する」との予測を発表しました。それに先立ち、IMFは財政余地が乏しくなりつつある国々を分析し、財政余地が小さいか、あるいはない国としてギリシャ、ポルトガル、イタリア、日本を挙げています。IMFは「財政余地の欠如は、『何らかの形の財政危機が差し迫っている』という意味にとらえるべきではない。しかし、『信頼に足る調整計画の必要性』を裏付けている」と指摘しているのです。

 このように、欧州も米国も中国も「市場として、いま以上に期待することはできない」のが、今年後半から来年にかけての見通しです。また、わが国が世界金融危機後の反転の軸としてきた輸出の増加も期待できそうにありません。では、こうした八方ふさがりの中で、われわれ企業の戦略担当者は何をすれば良いのでしょうか?

需要がないなら、新たな価値を生み出し“喚起”するしかない

 日本における「実質成長率1.5%」と「名目成長率マイナス2.5%」の差は、物価の下落、すなわちデフレによるものです。デフレは供給より需要が少ないことから起こりますが、消費者が「もう少し待てばもっと安くなる」と買え控えをすることなどにより、物価の下落が加速することがあります。これがデフレスパイラル現象です。この需要と供給との差をデフレギャップと言います。

 わが国経済が抱える大きなデフレギャップを解消するためには、需要を創出するか、あるいは供給を削減するかしなければなりません。実際、円高への対応や、「需要がある市場の近くで生産を行う」という目的のために、多くの企業が国内の設備や工場を閉鎖し、海外に生産をシフトしています。これは経済原則に従った当然の動きであり、米国でもかなり以前から同様の現象が起こっています。

 図1を見てください。これは近年、米国の多国籍企業が国内の雇用を減らし、海外の関係会社の雇用を増やしてきたことを表しています。日本企業もこれとまったく同様の傾向にあり、このままでは皆さんがご想像するとおり、国内製造業の空洞化は避けられませんし、国内の雇用が失われていくリスクは高まるばかりです。

図1 米多国籍企業の雇用状況。縦軸の単位は「千人」。米国多国籍企業による雇用増減は国内親会社の空洞化を如実に物語っている(出典:米国商務省 経済分析局/2010年4月)

 一方、図2のように、国際収支から見た、日本企業が海外に子会社や工場を作るための「対外直接投資」も近年、膨大な額を記録しています。図2にあるとおり、2008年の対外直接投資額は、年額で正味13兆円にも上りました。それだけの額が海外に流出しているのです。企業が子会社や工場を海外に増やしている動きが如実にうかがえます。

図2 わが国の対外直接投資純増額。縦軸の単位は「万円」。日本企業の対外直接投資額は2008年、年額で13兆円にも及んだ(出典:財務省/2010年9月)

 では、こうした中、デフレギャップ解消に寄与し、企業が生き残るためには、どうすれば良いのでしょうか? そこで必要になるのが、「国内に残った生産拠点を活性化し、新しい価値を生み出すための取り組み」だと筆者は提言します。さもないと、国内の活動はますますしぼんでしまいます。

 そしてこのために、いま必要なのは、広い意味での「人材開発」への投資です。人材開発は、わが国の企業が生産する製品・サービスの付加価値を高めるだけではなく、世界に向けて新しい製品を創造し、新奇性の高い市場を国内外に創出することにつながるからです。かつてはウォークマン、携帯電話やパソコンが、最近では太陽光発電、LED、ハイブリッドカーなどが、それまでにはまったく存在していなかった市場を新たに作り出しました。つまり、国内の生産拠点が世界に向けた『知的生産活動』や『研究開発』を行うことで、企業も国内経済も活性化できると言えるのです。

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