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» 2010年11月30日 12時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(21):利害関係の調整に、笑顔などいらない

他部門や他社に対して、言いたいことも言えずに苦しい笑顔を浮かべるのは、もうやめよう。調整に必要なのは笑顔などではない。パートナーシップに対する真剣な想いだ。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

ザ・ライト・ファイト

ALT ・著=サジュ・ニコル・ジョニ/デイモン・ベイヤー/訳=満園真木
・発行=アルファポリス
・2010年11月
・ISBN-10:4434151215
・ISBN-13:978-4434151217
・1900円+税
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 「組織にとって最も大切なのはチームワークだ。互いの立場を思いやり、1つのゴールに向けて一致団結することが重要だ」――このように言われて反論する人はほとんどいないだろう。一方で、「その通りだけれど現実にはなかなか……」と、胸の中でぼやかない人もまずいないはずだ。それが全社的なプロジェクトだろうが、チーム内で完結する仕事だろうが、複数の人間がかかわる以上、組織には必ず“利害調整”の問題が付いて回るからだ。そのために言葉を飲み込み、苦しい笑顔を作っている人も決して少なくないだろう。

 だが、本当に組織の未来を考えるなら、「常に和やかにやろう」などと心掛ける必要はない。そもそも「チームの団結が唯一のゴールになってしまうような環境では、必要な異論が出にくくなって、リスクを減らすためのチェック・アンド・バランスが機能しなくなったり、イノベーションや持続的な価値を生み出す対立が消えてしまう」。だから、「チームワークこそが何より大切だと言い立てるのは、もうやめよう」――本書「ザ・ライト・ファイト」はこのように主張するのである。

 著者は本書を通じて「チームワークや調和を重んじるばかりに、なすべき議論までも避けて通ってしまっているのではないか」と指摘。「対立や葛藤がはらむエネルギーをうまく解放すること」が創造的なパワーを生み出す源泉となり、「関係者同士の信頼をも強固にする」と、強く訴える。

 それも単なる主張の押し付けにとどまることなく、「ライト・ファイトの六原則」――『意義のある戦いを』『未来に向けた戦いを』『尊い目的を追求せよ』『戦争ではなく、(ルールのある)スポーツとして』『(命令系統などの)フォーマルな仕組みと、(人脈などの)インフォーマルな手段を賢く利用』『痛みから(メリットを)得る』――に沿って、スタッフの視点による“戦うノウハウ”、マネージャの視点による“戦わせるノウハウ”の両面を紹介。あくまで「実践」を主眼に「戦う方法」を極めて具体的に解説しているのだ。

 特にありがたいのは、有名企業のケーススタディを豊富に収めている点である。例えば「ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)のIT革命」という事例では、本社と子会社のIT関連部門におけるガバナンスの徹底、ベンダとの取り引きの効率化を図った例を通じて、“正しい戦いの在り方”のエッセンスを解説している。

 少しだけ内容に触れると、ヘルスケア分野大手である同社は、グローバルで250の子会社を持つが、そのIT部門も「複数の地域や組織にまたがる会社の分権化構造をそのまま反映」しており、効率的な体制とは言えなかった。そこでJ&J初のCIOとなったラバーン・カウンシルという女性が、「各子会社のIT部門が、それぞれ個別にベンダと契約する」という非効率な体制を改めるため、入札を通じて全社のIT資産を一元的に契約、管理する体制を築いたのである。だが「慣習」の問題は根深く、大手ベンダの一事業部がJ&Jの一子会社から直接契約してしまったのであった。

 彼女はこれにどう対応したのか?――そう、戦ったのである。むろん、ルールを破ったことに対して、ベンダ側から謝罪があったのだが、「今回は大目に見るだろう」という大方の予想を裏切り、彼女は冷静かつ理論的に“ライト・ファイト”を展開したのだ。そして最終的に値下げを獲得したほか、ベンダ側の取り引き責任者を変えてもらうことに成功した。一方、ベンダには「パートナーシップの構築に役立つような」別の案件を任せることとし、より強固な信頼関係の礎を築くことができたのだという。

 本書はこのケースについて、彼女の毅然とした対応によって「パートナーシップ」に対する真剣な考えがベンダ側に伝わったと解説。IT部門の運用体制やベンダとの関係性にメスを入れることは「組織を弱体化させる恐れ」もあったが、ライト・ファイトを展開した――すなわち、 「勝つための作戦を立て、明確なルールと行動規範を定め、公平な土俵を用意した」ことで、J&JのIT部門と各子会社、ベンダが「お互いの関係をパートナーシップへと高めることができた」と説く。この事例はご存じの方も多いかもしれないが、“戦う”という切り口で紹介されると、IT部門運用の成功事例にまた違う側面が見えてくるから面白い。本書はこのような“戦いの事例”を満載している。

 IT部門と事業部門、IT部門とベンダの間には、「権力や地位や予算をめぐる戦いの火種」が常にくすぶっている。ただ、それを避けて通っていても、ゴールの達成や業務効率化に一定以上の成果を望むことは難しい。かといって、不用意に改革などに乗り出せば、火種はあらぬ方向に飛び火し収拾がつかなくなってしまう。

 ここは1つ、本書から“正しい戦い方”を学んでみてはどうだろう。巻末には「ライト・ファイトを正しく実践するためのチェックリスト」も収めている。たとえいまは、J&Jなどの事例が「力のある大企業だからできたこと」としか思えなかったとしても、「ライト・ファイト」のノウハウを知れば、各種事例の見え方から、自社において「戦う」ことの意義、その成果の現実味まで、印象はがらりと変わってくるのではないだろうか。


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