開発経験がなくても分かるUML実践講座情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(23)

開発関係者にとって必須のノウハウとなっているUML。関連コンテンツ/書籍は数あれど、ゼロから解説された本書でもう一度学び直してみませんか。

» 2010年12月14日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

ゼロからわかるUML超入門――はじめてのモデリング

ALT ・著=河合昭男
・発行=技術評論社
・2010年10月
・ISBN-10:4774143952
・ISBN-13:978-4774143958
・2080円+税
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 システム開発に一層のスピードと品質が求められている近年、オブジェクト指向開発で使われる各種モデルの表記法を統一したUMLは開発関係者にとって必須のノウハウとなっている。UMLを使えば業務分析から設計、実装まで、同じ表記法による図で説明できることで、システムの概要設計を行うITアーキテクトや、詳細設計を担うSE、コーディングを行うプログラマなど、各関係者が正確にコミュニケーションを図れる――すなわち、上流工程の品質が高まり、後工程での余分な手戻りやコストの発生を大幅に低減できるためだ。

 また、UMLは米国をはじめ、グローバル規模でも開発関係者の標準“言語”になっているほか、近年盛んなオフショア開発でもUMLによる仕様書を求められるケースが増えている。いまやUMLを使えないことは、あらゆる開発機会、ビジネス機会を逃すことにも直結するだけに、その重要性はますます増しているのである。

 こうした状況を受けて、巷ではUMLをテーマにした数多くのコンテンツ/書籍類が提供されているわけだが、本書「ゼロから分かるUML超入門」は、そうした中でも異彩を放つ一冊と言えるのではないだろうか。

 というのも、UMLを学ぶためには、まずオブジェクト指向についてある程度知っていることが求められる。よって、既存の書籍類の多くは現場経験、実務経験のある開発者をターゲットにしたものが多いわけだが、本書の場合、「ほとんど開発経験のない新人や学生などを対象」に、オブジェクト指向の考え方も含めて、タイトル通りまさしく「ゼロから」解説しているのだ。

 構成も工夫されている。例えば目次を眺めてみると、「そもそもUMLって何?」「オブジェクトって何?」「UMLはどこからきたか」「モデルって何?」といった具合に、知識のない読み手が必ず引っ掛かるであろうキーワードを抽出し、分からない言葉を1つ1つつぶしながら徐々に本論に入っていく仕掛けにしている。

 しかも、よく読んでみると、ただ「易しい」だけではないことが分かる。例えば、最初の「そもそもUMLって何?」では、「ことばで伝えるのは難しい」として、「駅までの道のりを説明する」シーンを想定させ、「言葉だけで説明するより、このように図を描いて説明した方が正確だし分かりやすい」と解説する。続けて今度は「ある人物の属性」を紹介するシーンを想定させ、「MさんはU社に勤務している」「Mさんは自分の携帯を持っている」と言葉で伝えるより、「U社、Mさん、携帯電話の図を描いて、関係性を示した方が分かりやすい」と述べる。

 そして、このように「駅までの道のり」「人の属性」という“次元の異なる情報”と、それぞれを説明する図を示したうえで、「UMLとはこのような図の書き方を標準化したものです」と解説するのだ。すなわち、オブジェクト指向やUMLに対する深い理解に基づいて、ITアーキテクトやSE、プログラマなどが扱う、それぞれ「次元の異なる情報を相互に誤解なく伝えられる」というUMLの本質を注視し、さりげなく紹介しているのである。そして一般的なUML関連書籍なら冒頭に配置されるであろう「UMLとはオブジェクト指向開発技法のモデル表記法を1つに統一したもの」といった学術的な解説は、そうしたページの後になって初めて登場するのだ。

 “UMLを使ううえで本当に大切なこと”から優先的に解説し、“知識として必要なこと”は後回しにする――このような“実践主体”のスタンスは本書を一貫しており、最終的にUMLモデリングを“体験”するレベルまで持っていくという点も、読者の学習意欲を大いに高めてくれるはずである。UML関連書籍らしく「図」を重視し、ページ当たりの文字数をTweet枠3つ分ほどに抑えている点も嬉しい。

 「分かりやすく伝える」ことに本質があるUMLを説くものでありながら、分かりにくいUML関連コンテンツ/書籍も少なくない。そうした中、学ぶべき内容を無理なく整理してくれている本書は、「開発経験のない新人や学生」はもちろんだが、すでにUMLを使っている人にとっても、理解を深めるうえで有効なのではないだろうか。ちなみに、著者の河合氏は@IT情報マネジメントでも、「オブジェクト指向の世界」を2003年から連載している。こちらでは、本書のあとがきで述べられている「オブジェクト指向の美しさ」について、さまざまな視点から語られている。本書と併せて読んでみると、オブジェクト指向やUMLをまた違う視点から味わえて面白いかもしれない。


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