BCPは、業務部門と情シスが連携して初めて成功する情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(62)

BCPは業務部門主体で進めるケースが多いが、業務を支えるITシステムの対策までしっかりと考えておかなければ、BCPの実効性は担保できない。

» 2011年10月04日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

クラウド時代の製品・サービス選び Vol.2
災害に負けない次のITインフラ作り

ALT ・著=ASCII.jp編集部
・発行=アスキー・メディアワークス
・2011年9月
・ISBN-10:4048709240
・ISBN-13:978-4048709248
・1219円+税
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 東日本大震災以降、BCPを見直す企業が大幅に増えた。だが策定済みの企業でも、多くの場合、文書化にとどまり、平時から訓練していない例が多いと言われている。言うまでもなく、これでは災害時にプラン通りに行動することは難しい。BCPを策定したら、いざというときプラン通りに動けるよう演習を繰り返すとともに、プランの見直し・改善を継続的に行うBCMのアプローチが不可欠なのだ。

 一方で、もう1つ課題として指摘されているのが、BCPに取り組んでいてもITシステムのBCPにまでは及んでいない例が多いことだ。特にBCPは業務部門主体で進めるケースが一般的。このため、ビジネスインパクト分析を行い、業務の観点から「絶対に止めてはいけない業務」と、そうではない業務の切り分けや優先順位付けを行っていても、「どの業務をどのシステムが支えているのか」という業務とシステムの整合性が取れておらず、実効性ある体制を構築できていない例が多いのだ。ほとんどの業務をITシステムが支えている現在、災害対策は業務部門と情報システム部門がしっかりと連携し、どのように業務基盤を守るのか、ともに考慮する必要があるのである。

 本書「クラウド時代の製品・サービス選び Vol.2」は、そうした業務部門と情報システム部門がともに事業継続対策を考慮する上で格好の資料となるのではないだろうか。今号では「災害に負けない次のITインフラ作り」を特集テーマとし、「災害対策・在宅勤務・データセンター選び」という3つの切り口を設定。今、多くの企業が関心を寄せている各話題について、“業務部門の人にとっての読みやすさ”に配慮しながら、ITシステムによる対策の実現方法を具体的に説いている。

 特徴は2つ。1つは「業務データを地震や津波から守るには」「リモートアクセスで社内PCを使う」「不足しがちなコミュニケーションをITで補う」といった具合に、目的別の章立てとし、“なすべきこととそのための手段”を明確化している点だ。ITシステム主体ではなく目的主体としていることが、IT知識の有無を問わず、本書を一層手に取りやすい印象に仕上げている。

 もう1つは、そうした印象を裏切らず、全ての話題について基礎中の基礎から説いている点だ。

 例えば「災害対策」なら、「そもそも災害対策とは何か」から解説。そこからBCPが必要な理由を説いた上で、災害時には「コンピューターセンターの崩壊により、バックアップ用コンピューターやデータをバックアップした媒体までもが失われる可能性もある。この場合の復旧方法は、通常のバックアップ―リカバリとは大きく異なるため、特にDRと呼ばれる」といったように、“ITシステムの災害対策”に話を展開している。

 さらに、「情報システムの重要性は年々高まっているため、DRの計画や準備は、システム部門だけでなく、企業経営においても重要な課題となっている」として、業務部門とシステム部門が連携した対策立案の重要性を、明確かつ分かりやすく説いているのである。

 こうしたアプローチは本書を一貫しており、例えば「業務データを地震や津波から守るには」の章では、まず企業における「データ保護の重要性」を解説。そこから「津波で町役場が壊滅状態になった南三陸町の戸籍データがすべて失われた」事例を挙げ、「バックアップしたデータは、本番系システムと同時に被災する可能性がある場所に保管してはならない」と、「東日本大震災の教訓」を紹介。

 その上で「バックアップ計画の考え方」「バックアップシステムの構成」といったように、段階を踏んでシステム面の対策へと論を進めているのだ。つまり、IT知識がない読者でも「システムの対策で考えるべきこと」「その実現に必要なツール」を無理なく理解できる構成としているのである。

 そこまで知れば、「では具体的に、どのような製品があるのか」という興味も湧きやすい。そこで本書では、各章の最後にベンダのインタビュー記事を配置。章中で説かれた対策実現のポイントを、各社の製品はどう実現し、どこが強みなのか、ビジュアルも豊富に用いて極めて分かりやすくまとめている。いわば本書は、業務部門の読者がITシステムも含めたBCPのポイントをイチから学ぶとともに、実現手段についてシステム部門と協議し、さらには製品導入に向けて予算申請書類を作成する際の資料としても役立てやすいよう、実に練られた構成となっているのだ。

 なお、今号では「災害に負けない次のITインフラ作り」を第1特集とし、この他にも「最新エンタープライズストレージの実力を探る」「Windows Azureでクラウドをはじめよう」「使えばわかる!IPv6入門」と3つの特集を用意。さらに巻頭には「最新SaaS導入事例」として4社のユーザー企業インタビューも収録し、ITシステムのトレンドを俯瞰できる点も嬉しい。ぜひ手にとってみてはいかがだろうか。


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