富士フイルムグループの先進的ITシステム戦略を探る特集:ハイブリッド環境の運用をどう効率化するか(2)

サーバ仮想化が当たり前の取り組みとなり、クラウドサービスの浸透も進んでいる現在、企業のITインフラはますます複雑化している。物理と仮想、オンプレミスとパブリッククラウドなどが混在した“ハイブリッド環境”では、どのようなポイントに留意すれば運用管理の効率化とシステムの安定稼働=ビジネスの安定的な遂行を実現できるのだろうか。今回は、富士フイルムのケースを聞いた。

» 2012年02月22日 12時00分 公開
[唐沢正和,@IT]

標準化・自動化を徹底的に追求したプライベートクラウド基盤

 富士フイルムでは、業界に先駆け早い段階からグループ規模でのシステム統合化に取り組み、2008年に基幹系システムを仮想化統合、2009年にはプライベートクラウド基盤を構築し、運用コスト削減および運用業務の効率化を実現している。この富士フイルムグループの情報システム戦略を担っているのが、富士フイルムコンピューターシステムだ。同社 システム事業部 ITインフラ部 部長の柴田英樹氏に、富士フイルムグループが推進するクラウド戦略について聞いた。

ALT 富士フイルムコンピューターシステム システム事業部 ITインフラ部 部長の柴田英樹氏

 富士フイルムグループでは、2007年10月から仮想化によるサーバ統合に着手したという。通常、ファイルサーバやWebサーバから少しずつ統合するケースが多い中で、同社の場合は、いきなり基幹系システムの仮想化統合を行った点が特徴だ。最もハードルが高いと思われる基幹系システムから仮想化統合を進めた理由について柴田氏は、「仮想化によるサーバ統合を実施するにあたっては、いずれにしても大きな初期投資が必要になる。それならば、最も投資対効果が高いところに導入しようと考え、基幹系システムを選択した」と説明する。

 また、富士フイルムグループが当時推進していたITシステム戦略も基幹系システムの仮想化統合を後押ししたと同氏は振り返る。「富士フイルムではこの時期、グループ全体でITインフラを強化する方針を掲げており、ネットワークやセキュリティなど各種システムの拡充に伴い、運用コストが急激に増大しつつあった。そのため、IT部門としては、ITシステム全般の運用コストを抜本的に下げる必要に迫られていた。一方、ビジネス視点では、M&Aや関係会社の統合を積極的に進めていく中で、ドラスティックな組織変化にも対応できる柔軟なITシステム基盤が求められていた。従来の物理的な基幹系システムでは、こうしたニーズに応えることはでないのは明白で、基幹系システムの仮想化統合が成功すれば、大きな成果が期待できると判断した」。

効率を追求した先にプライベートクラウドがあった

 基幹系システムの仮想化統合を終え、次に富士フイルムグループが取り組んだのがプライベートクラウド基盤の構築である。

 「2007年10月から2年半で、予定通りに基幹系システムの仮想化統合を実現することができた。そして、次に目指したのが、仮想化統合した基幹系システムをベースに、各部門やグループ会社に散在しているサーバも仮想化統合し、グループ全体でITリソースを活用できる情報基盤を構築することだった。構築にあたっては、ユーザー部門に向けて効率的にITリソースを提供するためには、どのような機能が必要なのかを検討し、人間系のプロセスも含めて徹底的に標準化・自動化を追求した」と言う。

 つまり、同社は、最初からプライベートクラウド基盤の構築を目指していたわけではなく、グループ全体でITリソースを有効活用できるシステム基盤を追求した結果、今でいう“プライベートクラウド”と同様のシステム基盤に行き着いたというのだ。

 「さかのぼれば、富士フイルムグループでは、2004年頃からサーバやネットワーク基盤の標準化・共通化を目指してITシステム戦略に取り組んできた経緯がある」と、柴田氏は、“プライベートクラウド”という言葉が全く存在していない当時から、プライベートクラウドに近い思考を持っていたことも、他社に先駆けてプライベートクラウド基盤を構築できた背景にあると述べていた。

 ユーザー部門に対して、効率的にITリソースを提供するために、同社では運用の自動化に力を注いだという。「グループ会社まで接続されたプライベートクラウド環境では、IT部門に多数のユーザーから要望が集中し、その要望に対応しきれず、大きなタイムラグが生じることも想定される。これでは、ITリソースを効率的に提供することは難しい。そこで、当社ではDBサーバ向け、バックアップサーバ向けなど、用途別に8つの基本メニューを用意して、ユーザー側に選んでもらうようにした。

 IT部門側は、選択されたメニュー対して、IO負荷などを考慮してディスク領域の割り当てと配置を決定すれば、後は自動でITリソースが提供されるようになっている」と、ITリソースのメニュー化や設定作業の自動化によって、ユーザー側、IT部門側ともに効率的なITリソース運用を実現したと柴田氏は説明する。

 もちろん、リソースの増減にも柔軟かつ迅速に対応し、「例えば、CPUやメモリを増やしたい場合にも、ユーザーの要望を受けてから30分以内には対応できる。ITリソースのメニュー化によって、ユーザー部門からIT部門への問い合わせはほとんどなくなった」と、運用効率化に大きな成果をあげていることを強調した。

今後の課題はバックアップ・リストアと基盤作りのバランス

 順調に運用されているように思える同社のプライベートクラウド基盤だが、「ユーザー側からは見ればほとんど問題がないが、IT部門としては、障害復旧への対応に危機感を抱いている」と、柴田氏は指摘する。

 「グループ会社まで含めて、プライベートクラウド基盤のシステム規模が大きくなったことで、特に障害発生時のバックアップ・リストア作業が規定された時間内で対応できるか不安に感じている。そのため、現在、障害が発生したときのシステムへの影響範囲と、復旧を行うシステムの優先順位を決めて、見える化できるように準備を進めている。また、システム障害は、ハードディスクのファームウェアの不具合に起因していることが多いため、複数の物理ストレージにデータを分散するなどディスクの再配置も行っている」と、システム障害への対策が柴田氏の抱える急務の課題になっているという。

 今後の展望については、「富士フイルムグループのグローバル展開に向けて、プライベートクラウド基盤は1つで良いのか? それとも、北米や欧州など地域ごとクラウド基盤を構築した方が良いのか。BCPやネットワークコストなどのバランスも見極めながら、今後検討していく必要がある」との考えを示した。

 このように、「グループ全体でITインフラを強化する方針」を掲げた結果として、仮想化統合、プライベートクラウドが話題になる以前から取り組んでいた富士フイルムグループ。今後はバックアップ・リストア体制の強化や海外を含んだクラウド基盤の構築に注力するという。

 今回お話頂いた柴田氏は、2月24日に開催する@IT情報マネジメント編集部主催イベントに登壇する予定だ。今回書き切れなかった詳細な話や、生々しいこぼれ話、データなどが当日話されるという。興味がある方は来場してみてはいかがだろうか。

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