大量・多種類のデータを、いかに“価値”に還元するか?レポート ビッグデータセミナー(2/2 ページ)

» 2012年04月10日 12時00分 公開
[唐沢正和,@IT]
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日立のビッグデータ活用事例「実業×IT」が相乗効果を生み出す

 3番目のセッションでは、日立製作所 ソフトウェア事業部 大量データ処理ビジネス推進室 担当部長の山口俊朗氏が、ビッグデータ活用の実例として、日立における「実業とITの融合事例」を紹介した。

日立製作所 ソフトウェア事業部 大量データ処理ビジネス推進室 担当部長の山口俊朗氏 日立製作所
ソフトウェア事業部
大量データ処理ビジネス推進室
担当部長の山口俊朗氏

 山口氏は、まず日立のビッグデータへの取り組みについて、「当社では、ビッグデータの活用によって“知識を創造する”ことを目指している。多種多様なデータを収集、蓄積、抽出、分析し、知識化して、社会にフィードバックする。そのためには、ビッグデータを生かす業務プロセスの確立が重要だと考えている」と述べた。

 今回、山口氏が紹介したビッグデータ活用事例は、「ガスタービン保全システム」と「データセンター空調システム」。「ガスタービン保全システム」のケースでは、ガスタービンの稼働状況をリアルタイムかつ多角的に分析・監視するためにビッグデータを活用。トラブルの兆候を予見し、故障などを未然に防ぐ仕組みを実現している。

 山口氏は、そのポイントして、稼働情報のライフサイクルに合わせたストリームデータ処理と、時系列データストアという2つの新技術を採用したことを紹介。これにより「ストレージ量を大幅に削減したほか、データ検索処理を10倍以上に高速化した」と解説した。

 一方、「データセンター空調システム」では、空調費低減に向けた取り組みとして、多点温度センサーデバイス「日立 AirSenseII」を導入。「このデバイスから逐次発生する大量のセンサーデータを、ストリームデータ処理技術で高度に分析することで、ラック単位の粒度の細かい温度監視と空調制御を実現した。これにより、空調費5?10%の低減は期待できる」とビッグデータがさまざまな分野に貢献することを示した。

【関連リンク:講演動画】
「実業×IT」が相乗効果を生み出した2つのビッグデータ活用事例(TechTargetジャパン)

データの発生から消費まで。ヒト中心のリアルタイムオペレーションが生み出す価値

 4番目のセッションでは、SAPジャパン リアルタイムコンピューティング推進本部 シニアマネージャーの村田聡一郎氏が、「ビッグデータ」というトレンドに乗って、今あらためて問われているデータ活用の在り方について、取り組むべきポイントと現実解を紹介した。

SAPジャパン リアルタイムコンピューティング推進本部 シニアマネージャーの村田聡一郎氏 SAPジャパン
リアルタイムコンピューティング推進本部 シニアマネージャーの村田聡一郎氏

 まず村田氏は、「費用対効果をもたらすビッグデータの活用サイクル」として、「単にビッグデータを取り扱えるようになったというだけでは、ROIには結びつかない。また、仮に高精度な分析によってインサイトが得られても、意志決定者がそれを正しく理解できなければ意味がない」と指摘。「局所的に『予測モデル』の精度を上げるよりも、活用サイクル全体を高速に回して、仮説検証を繰り返した方が、ROIの向上につながるはず」との考えを示した。

 そして、データ活用サイクル全体を高速に回し続けるためには、「仕組みとして作り込むという意識が重要」とし、そのポイントとして、(1)分析フレームワーク作りを手間なく高速にできるようITで支援する(2)意志決定者のところでサイクルが止まらないような仕組みを作る(3)業務系システムから情報系システムへのデータロードを高速化するという3点を紹介。

 「SAPでは、このデータ活用サイクルを高速に回す“リアルタイムオペレーション”の実現を、エンド・トゥ・エンドソリューションでサポートする」として、従来の基幹業務システム『SAP R/3』、情報系システムの『BusinessObjects』、リアルタイム化を推進する『SAP HANA』、モバイル対応の『Sybase UP』を紹介。「これらを“四位一体”で展開し、あらゆるビジネスの推進について、真のリアルタイム化を実現していく」と、多くの企業におけるリアルタイム・コンピューティング環境実現に向けた意欲を見せた。

Tポイントによる「POSクーポン」を活用した創客事例

 特別講演には、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)Tポイント&アライアンスカンパニー アライアンスコンサルティング本部 マーケティングソリューションビジネスの工藤和弥氏が登壇し、同社が運営する新しいデータベースメディア「POSクーポン」を活用した創客事例を紹介した。

 周知の通り、同社ではTSUTAYAやコンビニ、ガソリンスタンドなど様々な業種を超えて利用できる共通ポイントサービス「Tポイント」を運営している。「POSクーポン」は、T会員が商品会計時にTカードを出すと、POSシステムがT会員IDに基づいたデータを照会し、クーポンの内容に応じて適切な発券対象者をランダムでを抽出し、レシートとともにクーポンを発券するという仕組み。これにより、一般消費者であるT会員と、クーポンと引き換えられる特典を提供するTポイントアライアンス企業を、確実に結びつけることを狙いとしている。

 T会員は2012年2月末現在、3741万人(アクティブ・ユニーク会員数)。この大規模な母数を基に、“狙ったターゲットに、場所を問わず、どの店舗でもクーポンを発券できるアプローチツール”として多くの企業の好評を博しており、アライアンス企業数が伸び続けているという。工藤氏はこの「POSクーポン」について、「弊社とTポイントアライアンス企業で相互創客を行うことが第一の目的」と解説する。

 「例えば、TSUTAYAでレンタルをした人のIDを照会して、TSUTAYA BOOKSの『Tポイント5倍クーポン』を発券したり、GMSなどの化粧品カウンターにおける『高額サンプル引き換えクーポン』を発券するなどして、高いヒット率を得てきた実績がある。最近では、都内スパ施設への割引クーポンを約3万枚、東北の商業施設のへの送客クーポンを5万枚発券した」と述べ、大量データに基づいた“アプローチツール”としての有効性を紹介した。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ Tポイント&アライアンスカンパニー アライアンスコンサルティング本部 マーケティングソリューションビジネスの工藤和弥氏 カルチュア・コンビニエンス・クラブ
Tポイント&アライアンスカンパニー
アライアンスコンサルティング本部
マーケティングソリューションビジネスの工藤和弥氏

 また、TSUTAYAを利用するT会員に対して、性別、年齢、エリア、購買情報でセグメントを行い、クーポンを発行。同時に、その場でサンプル品を渡すという「POSクーポンサンプリング」も実施。データから得た知見を「セグメントサンプリングという“結果”により確実につなげる仕組み」も実現しているという。

 2012年3月からは「BOOK POSクーポン」もスタート。「従来は既知情報からリコメンドしていたが、『BOOK POSクーポン』では、まさにいま購入したばかりの、雑誌・書籍の購買商品を基にリコメンドを行う。これにより“今現在のホットなニーズにマッチしたクーポン”をリアルタイムに発券できる」という。

 最後に、工藤氏は「POSクーポンならではの強みは、(1)全国規模で発券可能(2)幅広いセグメントに対応可能(3)リアルなエリアフィールドで顧客を動かせるという3点にある」と力説。顧客にとってのメリットとTポイントアライアンス企業にとってのメリットを確実に両立させる上で、「大量の情報」と「リアルタイムでの分析・活用基盤」が核となっていることを指摘。

 また、大量の情報を柔軟・迅速に“結果”につなげるために、「あらゆる情報を社内で一元的に管理・運用する情報活用体制の運用にも注力している」として、ビッグデータ活用のポイントを示唆。「今後も顧客とTポイントアライアンス企業のメリットを見据え、より有効にデータを生かせる仕組みを育てていきたい」とまとめた。

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