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» 2012年04月24日 12時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(87):何のために働くのか? その回答はシンプルそのものだ

「自己実現であるとか、会社のレゾンデートルであるとか」「高邁な理想を追ってしまうと、どこか上滑りする」「働かなくては明日食うものがない、と恐れおののく。それが働くことの根底にある」。

[情報マネジメント編集部,@IT]

一生食べられる働き方

ALT ・著=村上憲郎
・発行=PHP研究所
・2012年3月
・ISBN-10:4569802818
・ISBN-13:978-4569802817
・720円+税
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 「学生運動に力を入れすぎて」「就職もやっとコネで押し込んでもらったような私ですが、気が付けばコンピュータ産業の急成長と並走し、しかも最も成長性の高い分野をうまく渡り歩いてくることができました。どうしてこんなことが可能だったのか、本音を言えば『ついていた』としか言いようがありません」。しかし、「よくよく考えてみると、私は昔から勘が鋭かったことは確かです。『この会社が伸びそうだ』とか、『このテーマが流行るぞ』といったことがなぜか分かってしまうのです。言ってみれば『大局観』のようなものでしょうか」――。

 本書「一生食べられる働き方」は、ミニコンの技術者として日立電子で勤務した後、セールスとして米DEC日本法人に転職。さらに、ノーザンテレコムジャパンなど、複数の外資系IT企業を日本法人社長として渡り歩き、2003年、グーグル米国本社副社長兼日本法人社長となった村上憲郎氏の自伝的作品である。2010年末に名誉会長を退任するまでの経験を基に、「どうすれば食っていけるのか」「どうすればいい仕事ができるのか」 について熱く、かつ温かく語っている。

 その豊富なエピソード、教訓の中でも、特に印象的なのは冒頭で紹介した「大局観」という言葉だ。氏は、この「高い視点から(仕事を)見る習慣」が身に付いていたからこそ、職種にしても、会社にしても、そのときどきで正しい選択ができたのだという。

 ではどのようにして、この「大局観」を身に付けることができたのか? 氏はこの点について、「左翼学生のシッポを引きずっていることと関係があるのかもしれません。なにしろ、学生時代に真剣に目指していたのが『世界革命』ですから」と、ユーモラスに語る。

 だが、「もう革命は目指していないけれど、世界(地球)という球体にいつも思いを馳せて」きたことによって、「世界が進んでいく方向」が、ぼんやりとではあるが、常に見えていたという。

 むろん、これは単に「高みから見下ろせばいい」ということではない。「自分の今やっている仕事を軽視する」のではなく、“自分の今の仕事から世界を見る”ことが大切なのだという。「確かに世界全体を見渡す視点を持つことは大事ですが、一方で世界の中のごく限られた、小さな持ち場を誰かが担当しなければいけないというのは人間社会の宿命です」。「しかしそこで、自分の小さな持ち場が全体像の中でどこに位置するのかを必ず問うことが大切なのです。全体とは会社のことでもあるし、業界のことでもあるし、日本や世界のことでもあります」。この視点があるからこそ、「世界と自分のつながりを感じられるようになってくるのです」。

 視野を広げるための手段として、「知らないことや疑問に遭遇したら、そのまま放置しない」ことも挙げる。例えば、顧客の会社について徹底的に調べてみる。「コンピュータ屋という視野から窓をこじ開けて、顧客を徹底的に理解する。できれば顧客の業界全体まで視野を広げてみる」。「製品の輸入に際して、通関手続きが必要になる場合」、専門部署に任せるだけではなく、「保税手続きってどういうことですか?」と首を突っ込んでみる。氏は自身の経歴を振り返り「ツイていた」と語るが、技術者だったころからの「知りたがり」な側面が、氏を自ずと広い世界へ導いていったのかもしれない。

 ただ、「大局観」という言葉以上に、われわれに示唆を与えてくれるのが、「人は何のために働くべきか」という、最も切実かつ根源的な問いに対する同氏なりの回答だ。特に同氏は米DEC日本法人に転職する際、「コンピュータを白紙から作り上げてきた連中と、技術者として渡り合えるのか?」と自問した末、無理だと判断してセールスに職種を変えている。われわれの身に置き換えてみても、“転職”は“転社”以上に覚悟や思い切りが必要な行為だ。氏も当時は複雑な心境だったのではないか、などと推察してしまう。

 だが、氏は「自己実現であるとか、会社のレゾンデートルであるとか」「高邁な理想を追ってしまうと、どこか上滑りする」。それよりも「働かなくては明日食うものがない、と恐れおののく。それが働くことの根底にある」。「あまり綺麗事を追い求めない方がいい」と、骨太な仕事観を展開する。そして、仕事については「どうせ死ぬのだから、好きなことをやった方がいい」が、「いまやらざるを得ない仕事を好きな方向へ持って行く」「どんな仕事でも面白くしてしまう」ことも非常に重要だと訴えるのである。実際、氏はセールスになってからも技術者としての知識を生かし、顧客から「制御手法のマニアックな話を引き出す」など、日々の仕事を楽しんでいたという。

 “一生食べられる働き方”――そのポイントは「大局観」でも「知りたがり」でもなく、実はこの「食うために働く」「どんな環境に置かれても、自分の力で毎日を楽しみ、充実させていく」という、“生きることに対する謙虚な姿勢”そのものなのではないだろうか。その華々しい経歴も、決してゴールから考え、効率的な方法を導き出してきたわけではなく、「目の前の仕事に必死でくらいつき」、「どんな仕事も面白く」してきた自然な結果なのかもしれない。


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