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» 2012年07月31日 12時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(100):日本軍とまったく同じ、日本企業の“敗戦理由”

新しい時代への展開を必死で模索する現代日本は、名著『失敗の本質』が警鐘を鳴らした日本軍と同じ弱点を露呈している。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

『超』入門 失敗の本質

『超』入門 失敗の本質

著=鈴木博毅
発行=ダイヤモンド社
2012年4月
ISBN-10:4478016879
ISBN-13:978-4478016879
1500円+税
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 「日本軍はミッドウェー海戦では戦力総数で米軍に勝ることに『成功』し、島の爆撃にも『成功』しています。ところが、戦史が教えるように目標達成につながらない勝利であり、劣勢の米軍は目標達成につながる勝利だけをつかみ取り、戦局を逆転させているのです」。「米軍を抑止する効果のない17もの島に上陸占拠した日本軍は、目標達成につながらない勝利を集めており、大局的な戦略を持っていなかったと判断できます」。「いかに優れた戦術で勝利を生み出しても、最終目標を達成することに結び付かなければ意味はありません」。「戦略とは、いかに『目標達成につながる勝利』を選ぶかを考えること。日本人は戦略と戦術を混同しやすいが、戦術で勝利しても、最終的な勝利には結び付かない」のです――。

 本書「『超』入門 失敗の本質」は、「日本が約70年前に経験した大東亜戦争当時の、日本軍の組織論を分析」した名著「失敗の本質」を読み解き、その組織論を平易に解説した作品である。「製造業を圧迫する超円高、高齢化社会、経済大国であった時代の終焉、出口の見えない長期不況」など、日本は現在、「『想定外』という言葉を何度使うべきか迷うほどの危機的な状態」であり、「ひとことで言えば、これまでのやり方が通用しなく」なっている。大東亜戦争当時の日本軍も「初期の快進撃から一転」、「これまでの戦闘方法が通用しない状態に大混乱し」、敗戦を喫した。

 著者はこうした点について、「新しい時代への展開を必死で模索する現代日本は、『失敗の本質』が警鐘を鳴らした日本軍と同じ弱点を露呈しているかのよう」だと指摘。ビジネスに役立てられるよう「23のポイント」に絞ってそのエッセンスを紹介している。

 冒頭はそうしたポイントの1つ、「戦略の失敗は戦術で補えない」というものだ。その実例として、著者は「ガラパゴス化という言葉」を紹介。「いくら高度な機能を備えていても、標準規格を海外企業に独占されてしまい、最終的にシェア争いで敗れてしまえば、最終的な勝利にはつながらない」と指摘している。

 「ゲームのルールを変えた者だけが勝つ」という指摘も興味深い。開戦当時、日本艦隊は「兵士の(零戦の)操縦性能、射撃精度等を猛訓練で極限まで追求」した。「『技心に入る』というレベルに達するまで一日も休まず猛訓練を続け」た。だが米軍は、「戦闘における達人」の育成を目標とはしなかった。「まったく逆の発想、『達人を不要とするシステム』で日本軍に対抗した」。

 具体的には「操縦技能が低いパイロットでも、勝って生き残れる飛行機の開発と戦術の考案」「命中精度を極限まで追求しなくても撃墜できる砲弾の開発」などにより、「パイロットに高い操縦技能を期待しないでも勝てる」という「発想の転換」を行った??すなわち、“勝利につながる要素”を変化させて「ゲームのルールを変えた」のである。

 著者はこれを基に、「ビジネスでゲームのルールを変えるのは、常にアメリカ企業であり、日本企業がその『ルール変更』に翻弄されている姿は、名機零戦の苦戦とも重なる」と概観する。そして、小さな改善、改良によって1つのアイデアを洗練させていくスタンスの日本企業は、「高い生産性と高品質を武器に世界市場を席巻したが、現在では製品単体の性能ではなく、『ビジネスモデル戦略』で敗退している。パソコンのOSやCPU、携帯メディアプレーヤーなどはその最たる例だ」と指摘している。

 さて、いかがだろう。日本企業はそもそも変化を好まず、「想定外」にも弱いと近年盛んに指摘されている。実際、抜本的な変革を避け、改善を積み重ねるスタンスは日本の企業、組織、そしてITシステム活用の在り方の1つの特徴とも言えるだろう。本書では、こうした現代日本とかつての日本軍の数々の共通点を挙げているのだが、中でも「兵員練度の極限までの追求は、精神主義と混在することで、のちに日本軍の軍事技術・戦略の軽視にもつながった」という指摘などは、テクノロジを軽視し、根性や精神論でビジネスを乗り切ろうと本気で考えている一部の経営層の姿も想起させる。

 とはいえ、「変化に強い企業への変革」や「イノベーションが必要」だと認識していても、それを実践するのは非常に難しく、考えたとしても机上の空論で終わってしまいがちなのが現実だ。その点、本書は「変革」や「イノベーション」への道筋や足がかりを、精神論としてではなく、極めて具体的に提示してくれる。自社の在り方や自身の仕事を振り返りつつ読んでみると、現在の「敗因」と今後の「勝機」がおのずと見えてくるのではないだろうか。

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