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» 2012年10月02日 12時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(107):「会社に行きたくない」人ほど会社に依存している

仕事とは、生活のために受動的にするようなものではなく、自身の社会的な欲求を満たすために能動的に行うものであり、その方法論も経験の中で培ってこそ、本当に価値あるものになるのだろう。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

もっと自由に働きたい

もっと自由に働きたい

著=家入一真
発行=ディスカヴァー・トゥエンティワン
2012年9月
ISBN-10:4799311816
ISBN-13:978-4799311813
1200円+税
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 「もし、あなたがどうしても会社に行きたくないとか、現状が辛くて変えたいと思っているなら、まずは逃げ出すことからはじめてみてもいい、と僕は思う」。「逃げることは実は、自分のいきたい方向に進む第一歩だから」。「今、目の前に漠然とでも『やってみたいこと』があるのなら、今すぐ動き出すことをおすすめする」。「会社の仕事で手いっぱい。やるべきことが多すぎる。時間がない。貯蓄がない。そこまでしてやりたいことなのか、覚悟もない。できない理由はいくらでも思い浮かぶ。個々の事情はあると思うけれど、必要以上に身構えてできない理由を自分でつくってしまってはないだろうか。なぜできないのか、できないならどうするのか。今の働き方や仕事に不満や疑問、将来に漠然とした不安を抱いているのなら、一度じっくり考えてみるのも悪くない」――。

 本書「もっと自由に働きたい」は、サーバホスティング事業をはじめ、コンシューマ向けオンラインビジネスを展開しているpaperboy&co. Inc.の創業者、家入一真氏による「サバイバル・マニュアル」である。「会社組織に依存できない『個』の時代に、自分で自分を守る」ためにはどう考え、どう生きれば良いのか、社会一般の常識になじめず、「逃げ続けてきた僕の人生を振り返りながら」、「こんな生き方もあるよ」という1つの選択肢を提示している。

 印象的なのは、本書を一貫する「常識を疑う」「自分の頭で、考えて、考えて、考え抜く」というメッセージだ。著者は「世間一般で常識だと思われていること、自分自身が無意識でやっていることを、一度立ち止まって考えて」みようと解説。「常識やルールをぶっ壊せ!とは思わない。ひっくり返すのも難しい」だろうが、「無条件に自分の頭で何も考えずに従うことは、とても危険だ」として、「社会や組織という大きな価値基準よりも、自分単位の小さな価値基準を大事に」しようと強く訴えている。

 そうしたメッセージは働き方にも示唆を与えてくれる。「会社が示すことだけをやっていては社内でも新しいものは生み出せない」。「自分の頭で考え、行動しないで、会社の言うことだけを聞き、制度に依存していては、会社のお荷物になり、いずれは社会のお荷物になる」――この指摘などは、会社での居心地の悪さやつまらなさを作り出している元凶とは、「大きな価値基準」を盲信して思考停止に陥っている、自分自身の「制度に対する依存心」なのではないかと、思い至らされる向きもあるのではないだろうか。

 「生きるために最低限必要なものはもうすでに世の中に溢れている。自分が何もしなくても世界は回る。だからこそ、やるからには少しでも身近な世界を変えられるものでなきゃいけない」という指摘も興味深い。

 実際、近年は製品・サービスがコモディティ化し、発想力が勝敗を分かつポイントになっている。「アートもビジネスも自己表現だ」と述べる著者は、「誰が、どんな想いで、そのサービスや商品をつくっているのか。そういうストーリーがないものには魅力がない」と指摘。「商品やサービスそのもので差をつけるのが難しくなってきているからこそ、魅力的なストーリーを見せて、そこに共感してもらうことが大事だ」として、想定する顧客の顔を思い浮かべて、「なぜそれが必要なのか」「なぜそうした創作物を作るのか」を徹底的に考え抜くべきだと訴えている。

 さて、いかがだろう。本書ではこのほかにも「小さく、素早く立ち上げる」「自分にできないことは、素直に人に頼れ」「『あったらいいね』に敏感になる」「逆算思考でマネタイズ」など、ビジネスのあらゆるノウハウを紹介している。これらは多くのビジネス書ですでに語り尽くされているものではあるが、試行錯誤を繰り返しながら経験の中でつかんだ鉄則であるだけに、一言一言に説得力がある。

 実際、著者自身も万事順調なビジネス人生を歩んでいるわけではない。2012年5月には、学費支援サービスを提供するWebサイト「studygift」において、多数の支持を集めながら、不明瞭な説明などが原因で大炎上に至った事故も起こしている。著者はその件にも言及し、「スピードを重視したがために、事実確認や説明などがおろそかになり、その点はやり方が稚拙だった」「失敗から学ぶのではなく、失敗をものにする」と述懐し、自身も日々ビジネスを学び続けていることを主張。こうした等身大の指摘が本書の大きな魅力になっていると言えるだろう。

 また、著者は幼いころから学校や社会にうまくなじめず、常に「居場所がほしい」という思いを抱き続けてきたという。1つ1つの知見はそうした切実な欲求を満たすために獲得してきたものである以上、著者にとっては“ノウハウ”などでなく“生き抜くための知恵”と言えるほど、重く、価値あるものなのかもしれない。そうした著者の姿勢からは、仕事とは本来、仕方なくするようなものではなく、自身の社会的な欲求を満たすために能動的に行うものであり、その方法論も主体的に培ってこそ、本当に価値あるものになるのだろうとあらためて感じさせられる。「大きな価値基準」に呑み込まれ、ついつい思考停止に陥りがちな毎日であるだけに、マンネリにとらわれている向きはぜひ一読してみてはいかかだろうか。

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