2003年初頭、一つのISP業者がひっそりとサービスを停止した。
そのISP、すなわち「伊豆七島インターネットサービス」が1年と少々の営業期間の後にサービスを休止したことで、八丈島でインターネットをするには、ダイヤルアップでアクセスポイントに接続するしか手段がなくなってしまったのだ。
2003年初頭といえばわずか1年前。世間ではADSLは当たり前、「Bフレッツ」をはじめとするFTTHの環境もかなり普及しつつあるという、そんな時期だった。それが、時計の針を戻すかのように、常時接続からダイヤルアップに逆戻りとは……東京から290キロ離れた島では、そんな事件が起きていた。
これがきっかけとなったわけではないが、そうした状況になる1年ほど前から、八丈島にブロードバンドを引くための研究会を開催してきた人たちがいる。今回お話を聞いた「八丈島へブロードバンドを推進する会(以下、推進する会)」の方々だ。
本土の方では、ブロードバンドが盛んに喧伝されるなか、同じ東京都といえども、八丈島ではブロードバンド化はいっこうに進む気配がない。そんな状況では、ある種の焦燥感にかられるのも無理はない。いつになるかわからない(あるいはこないかもしれない)ブロードバンドを座して待つよりも、自分たちでなにか行動を起こそう……ということで彼らは活動を開始した。
最初は、とにかく情報がなかった。島内にどのようなインフラがあるのかわからない。光ファイバーが通っているのかどうかさえ知らなかった。
そこで、ときには島内の電話線の配線状況を足で調べ、あるいはツテをたどって本土と島の間の回線容量を総務省に問い合わせる、東京都や総務省、NTTへ陳情するなど、必要と思われることはとにかく色々やってみた。その結果、以下のようなことがわかってきた。
この時点で、八丈島へブロードバンドを誘致しようという計画は、かなり困難であることが明らかになった。とくにNTTの回答は、事実上のブロードバンドが導入できないことを宣言されたようなものだ。というのも、八丈島の人口は9108人、世帯数は4694世帯である(いずれも2004年3月1日現在)。いくらインターネットが一般に普及したとはいえ、8割以上の世帯の加入が見込めるかと言われれば、それはかなり難しい話だろう。
また、ほかの通信事業者用の帯域が確保されていないため、新たにサービスを始めようという会社が現れたとしても、NTTにケーブルを引いて貰う、あるいは自前で海底ケーブルを引くなど、かなりコストのかかる方法を採らねばならない。こちらも、加入世帯数から考えると実現は難しいことがわかった。
このようにして島をめぐる状況が明らかになったものの、2003年の半ばごろには、推進する会の活動も攻めどころを見失っていた。ところが、2003年8月になってあっさりとブロードバンドの導入が決まってしまったのだから世の中はわからない。
このニュースは広く報道されたためにご存じの方も多いだろうから、ここでは詳しくは述べないが、要はソフトバンクBBの孫正義社長が、八丈島へブロードバンドを推進する会からのメールを受けとり、Yahoo! BBの導入を決断したのだ。そのときのエピソードが面白い。
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