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「金の匂い」のするランキング(1/2 ページ)

» 2004年04月19日 17時58分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 ITmedia読者諸氏は既にご存じだと思うが、ITmediaのランキングを教えてくれるメールマガジン「ITmedia Ranking」が休刊するそうである。「Ranking」というページがあるんで、そっちを見てね、ということらしい。今回はこれをサカナにして、「ランキング」という行為について考えてみたい。

 人間は目の前にたくさんの情報がある場合、それにプライオリティを付けたがるものである。いや、分類したものをありがたがるというべきだろうか。

 例えば、部屋いっぱいに書類が散乱している会議室に連れてこられて、「ここにある資料、ざっと頭に入れとけよ」と上司に言われたら、あなたはきっと途方に暮れることだろう。

 だが資料室に連れてこられて、「ここの資料、大事なもの順に並んでるから。ざっと頭に入れとけよ」と言われたらどうだろう。あなたは与えられた時間、さらには自分の能力およびやる気の大小を素早く見積もり、仕事に取りかかることだろう。

ランキングの情報純度

 ランキングとは、もっともシンプルな形のプライオリティ付けである。例えばITmediaのランキングで言えば、たくさんある記事の中から、どれが一番読まれたかを発表しているわけだ。当然ランキング発表前の段階では、読者は自分の判断で自由にサイト内から記事をクリックして読んでいるわけだから、ランキングは無作為の結果と考えることができる。

 普通このようなランキングは「上位のものはそれだけその記事の内容が興味を持たれている」という証であったり、ちょっと乱暴な言い方かもしれないが、「上位の内容あるいは情報は、ここの読者の共通認識である」という解釈が成されることだろう。

 こういった解釈が成立する前提は、当然であるが、それが無作為であるということだ。ランキング集計者が自分の好みで順位を付けたようなものなら、資料的価値がない。もちろんITmediaのランキングではそのような作為的なことはしていないだろうし、それをする意味もない。

 だが作為はないにしても、システム的に無作為なのかという点に付いては、微妙なところだ。記事がどれぐらい読まれるかは、当然誌面の(画面の)レイアウトにも関係している。編集方針としてその記事が重要であれば、見出しは上のほうに置かれるし、きれいなアイコンが付いていればさらに読まれる率も高まるだろう。

 さらに筆者のコラムで例えれば、元は1本の原稿であっても、NewsとAnchorDeskにリンクが張られる。内容によっては、LifeStyleにも載っていたりする。こういった人為的な演出は、モノを作る上では当然の作業だ。

 だがその結果として記事が読まれる率が増減するならば、それは完全な無作為とは言えなくなってくる。世の中にパーッとばらまいておいたら、人の動きで勝手に順位が付いちゃいました、という意味でのランキングではなくなってくるわけだ。

 だが普通の人は、ランキングとは無作為の成果物であり、それが世の中の方向性を示しているという具合に判断する。言わばランキングの錯覚である。

ランキングが産む不均衡

 ランキングというものを提示する意味は、いろいろある。アンケートのように、単に結果報告である場合もあるだろう。ITmediaの場合は、単にたくさんある情報の見せ方の一つであり、「ソート」的な意味合いが強い。

 だがランキングというものが商売と結びつくと、それはある種の加速度的スパイラルを産むことになる。上位のものに人が集まるのであれば、仮にランクの付け方がフェアであっても、上位のものに群がる人の流れが、アンフェアな構造を産むのである。

 言うなれば、トランプの「大富豪」ゲームと同じ構造だ。このゲームでは、一番順位の低い人が、無作為に配られた手札の中から一番いいカードを順位の高い人に渡さなければならない。したがってランクの高い大富豪はますます有利になり、ランクの低い大貧民はますます不利になる。ランキングを見て人が追従するという現象を外側から見れば、こんな状態だと言えるだろう。

 テレビの視聴率も、このランキングにとらわれる世界だ。視聴率が取れれば、それだけ多くの人が見たということであり、その番組の価値はますます上がっていく。スポンサー費は上がり、番組予算が増える。金が使えればますます面白いことができる。まさに大富豪、勝ち組のスパイラルである。

 その半面、深夜番組は、開き直ってコアなことをやり続けるか、巨乳サイバーパンクみたいな趣味性の高いことをやって、少しずつ人集めをしなければならない。深夜枠からゴールデン枠に出世する難しさは、まさに大貧民からのし上がっていくそれと同じだ。

 このような構図は、「視聴率」というものがいかにフェアな数字であるかという、非常にモロい部分に依存している。だからもし金で数字が買えるなら、と考える輩が出てきても不思議ではない。その結果が、以前問題になった日本テレビプロデューサーの視聴率不正操作事件である。

 ランキングを信じる人の流れが、商売になる例はいくらでもある。

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