コラム
» 2004年05月18日 06時02分 UPDATE

プロフェッサー竹村のIT的「スローライフのススメ」「スピード」は「習慣性のある合法ドラッグ」なのだろうか? (1/2)

IT業界では、速いことは良いことだ、の信念の元に十数年を過ごしてきた。しかし、それで誰が幸せになったのだろうか? 「永遠に走り続けるランニングマシン」の上に乗せられた「猿」の状態から勇気を持って抜け出すことが、今必要なのではないだろうか?

[竹村譲,ITmedia]

 テクノロジーの進歩が「余裕」に結びついていることが目に見えて実感できるのは、従来手作業でやっていた生活雑用を画期的に変貌させた多くの「家電品」の存在だろう。電気洗濯機や炊飯器、冷蔵庫や電子レンジの普及は、多くの雑用で日々追われていた主婦をある程度は解放し、女性が社会に出るきっかけの一つを創ったと言える。

 一方、近来、テクノロジーの恩恵を最も受けているIT産業はどうだろうか?

 筆者は、最近、なぜか「スピード」に関して考える機会が多くなった。IT業界でほんの少しでも活動した人なら、ご存じのように、有名な「ムーアの法則」でコンピュータのMPUの速度は毎年のように画期的に速くなり、それに連れて従来のExcelなどのアプリの処理速度も飛躍的に高速になっている。

 従来の古いパソコンで10分近くかかっていた大掛かりなマクロ計算も、今では数秒以内。その結果、家電品の時のように、オフィスワーカーの仕事の効率も画期的に向上し、それによってより多くの「余裕時間」が生まれているかのように思えてしまう。

 いや、「スピードアップ」は、辛うじて“リーディングエッジ産業”の一つに留まっているIT業界の専売特許ではない。

 例えば、道路交通網や長い歴史のある鉄道などの運輸業界もそうだ。新幹線は創業以来、そのスピードをどんどん上げ、その路線は初期の東京・新大阪の単一路線から日本全国に広がりを見せている。

 その勢いは留まるところを知らず、10年以内には、日本中、日帰り出張で行けないところはなくなってしまいそうだ。すべては“テクノロジーの進歩”で、世界中の距離が毎日のように縮まっている。

 Eメール、インターネット、ブロードバンドの拡大で、企業内の会議やディスカッションのスタイルも大きく変化してきている。

 会議や打ち合わせのために、わざわざ遠くまで出かけなくても、本来の目的は十分達成することができるように感じる時代が到来した。受け取る側がどう感じるかは別にして、新鮮な正しい情報を適時、目的の相手に素早く届けることも、大量の情報をより多くの人に、タイミング良く同時に伝えることも、いとも簡単に出来るようになってきた。

 すべてが薔薇色の先端テクノロジーの恩恵を受けているかのように思えるIT全盛時代である。確かに筆者を含め、すべての人は「自分たちは良いことをやっている」「相手の立場を考えてやっている」「きっと世の中の為になっている」と信じて疑わず、「便利を創造する」IT産業は猛烈な勢いで進化し、その「大義」を引っさげてここまでやって来た。

 しかし、たった一つ、考えないといけないことがありそうだ。

 われわれの大多数にとって、現在は、昔に比べて幸せになっただろうか? パソコンや携帯電話、インターネットやEメールがなかった頃に比べて、友人や、家族、恋人と話す時間が増えただろうか? 残業が減り、子供とのコミュニケーションタイムや愛犬と遊ぶ時間は確実に増えているのだろうか? 昔よりたくさんの本を読んでいるだろうか? 毎週リアルタイムで見ていたテレビドラマは、DVDレコーダーの肥やしになってはいないだろうか?

 もし、これらの問いかけに、「全く問題ない」と言い切れるなら、現在のわれわれの目指してきた「情報技術」の方向性は間違ってはいないだろう。

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