コラム
» 2004年09月10日 10時16分 UPDATE

IP放送が抱える二つの“壁” (1/2)

「電気通信役務利用放送事業者」の台頭に代表されるように、IP方式を使って多チャンネル放送を提供する事業者が増えてきた。だが、IP放送は権利処理に手間がかかる上に、地上波の再送信はもちろん、“流せない”チャンネルがまだまだ数多くある。IP放送が抱える現状の「壁」について考えてみよう。

[西正,ITmedia]

IP放送にたちはだかる「二つの壁」

 電気通信役務利用放送事業者には、放送サービスを提供するに当たって、「映像配信」と「IP通信」を切り分ける者と、そうでない者の二つに大きく分けられる。

 前者に相当するのは、スカパー系のオプティキャストや関西電力系のeoT.V.など。光波長多重方式を使って1本の光ファイバーを映像配信とIP通信に切り分けたり、最初から2本の光ファイバーを使ったりして、映像配信とIP通信が混在しないよう対処している。

 一方、後者の典型は、Yahoo! BB系のBBTVやKDDIの光プラスTV、ジュピタープログラミングとぷららを中心とするオンラインティーヴィなどだ。これらの事業者は、IP方式を用い多チャンネル放送サービスを提供している。

 この両者の最大の違いは現在のところ、「地上波放送やBS放送(以下、フリーテレビ)の同時再送信が可能かどうか」という点に現れる。

 「映像配信」と「IP通信」を切り分けているオプティキャストやeoT.V.ならそれが可能だが、そうではないBBTVや光プラスTV、オンラインティーヴィには同時再送信は認められていない。すなわち、IP方式による放送(以下、IP放送)には、フリーテレビの同時再送信が認められていないのである。それが、現在の時点における、NHK、民放連の基本スタンスとなっている。

 なぜ彼らがそうしたスタンスを採るのかと言えば、その大きな理由の一つとして、放送と通信の著作権処理方法の違いがある。“放送”の場合には「ブランケット方式」という包括的な権利処理が認められているのに対して、“通信”の場合は、あくまでも一つ一つ個別に処理していく必要があるからである。IP方式の場合、通信扱いになるため、IP放送では、ブランケット処理ができないのである。

 もう一つの大きな問題は、IP放送には安定性に不安が残っているという点だ。IP放送の安定性をめぐっては、引き続き色々な実験が試みられているが、回線がADSLであろうと、光ファイバーであろうと、地上波放送事業者を中心に、IP放送は「いまだ安定的に放送サービスを供給できる段階にはない」との見解が示されている。

 これも、番組供給者側がコンテンツを出し渋る原因になっていると考えられる。画像が安定した形で送られなかったとすると、著作権者から損害賠償を請求されることもあるし、視聴者からのクレームも番組供給者側に来る可能性がある。それが地上波局などであればなおさらのこと、ブランドの低下を招きかねないからだ。その上、著作権処理にコストを要するとなると、番組供給者側には、わざわざIP放送に対してコンテンツを提供することのメリットがまるで感じられないことになる。

 これらの問題は、今後の技術の進歩によって状況が変わるかもしれないが、今の段階でリスクを取りたがらない番組供給者が多いことは無理からぬことだろう。

 まだスタートしたばかりという事情があるものの、IP放送には今ひとつ加入者が集まっていない。これも「フリーテレビの同時再送信ができない」という点が大きく影響していると思われる。

 視聴者の立場からすれば、放送を直接受信できないのであれば、既存のCATVを視聴していれば十分で、わざわざIP放送を視聴しようというインセンティブが働かないからだ。IP放送事業者各社は、VODなどといった既存のCATV事業者が持っていない優位性をアピールし、事業の拡大を図ろうとしているが、それも強力な集客力を得るまでには至っていないというのが現状だ。

“弱点”を象徴するスポーツ番組

 フリーテレビの場合、こういった事情が前面に色濃く出てきてしまうため仕方がないとして、ペイテレビであればどうだろうか。

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